更新日 2016.02.08
株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹
日本の親会社が従業員を海外子会社に出張させたり出向させる場合に負担する金額等の課税問題が話題となっています。当コラムでは、話題の国際税務の事例として「海外子会社への従業員の出張に係る負担(第1回、第2回)」、「海外子会社への従業員の出向に係る負担(第3回、第4回)」について、根拠法令等の確認から、その実務ポイントまで解説します。
3.海外子会社への従業員の出向に係る負担の処理の基本的な考え方
前回(第3回「海外子会社への従業員の出向に係る負担(その1)」1)において引用した『法人税基本通達逐条解説(七訂版)』の引用部分からも分かるとおり、出向元法人である日本の親会社において、海外子会社に出向してその海外子会社の業務にのみ従事する従業員の給与を負担した場合に、その負担額を親会社の損金として認める根拠とされているのは、親会社と従業員との間に雇用契約があって、親会社は出向後もその従業員の労働条件を保証する義務があるということ、すなわち、親会社に雇用者責任があるということです。
この法人税基本通達9-2-47の取扱いには、法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)の基本的な考え方からすると、疑問がないわけではありません。
現在の法人税法が制定され、それに合わせて法人税基本通達が抜本改正された昭和40年代には、親会社が従業員を子会社に出向させたり出張させたりした場合の従業員の人件費等の負担をどのように取り扱うべきかという議論がかなり精力的に行われていますが、当時は、具体的な取扱い等に関しては諸説があるものの、出向や出張がいずれの法人の利益になるものかということによって、その人件費等が損金の額となる法人を決めるべきであるという基本的な認識では一致していると言って良い状況となっていました。
つまり、法人税基本通達9-2-47の取扱いには、法人税法における取扱いを他法における取扱いの如何によって決めることができるのか、また、出向先法人においてのみ業務を行って利益をもたらし出向元法人においては何ら業務を行わず何ら利益をもたらすこともない者の給与の額を出向元法人の損金の額とすることができるのか、という根本的な疑問があるわけです。このような取扱いは、他の先進諸外国には存在しないものと思われます。
しかし、この法人税基本通達9-2-47の取扱いには、日本の親会社にとって課税を受けることとなる部分が少なくなるという実利があるために納税者から異論が出ることはなく、この取扱いが現在もなお残り続けています。
このため、上記のような根本的な疑問はあるものの、出向に係る取扱いの実務においては、この法人税基本通達9-2-47に拠らざるを得ません。
4.対応策等
出向者の給与は、出向先法人が全額を負担するのが原則であり、法人税基本通達9-2-47も、この原則を踏まえた上で、出向元法人が出向者の給与の一部を負担しても良いという特例を設けているものです。
このため、基本的には、出向者の給与は、できるだけ出向先法人で全額を負担する方が良いということになります。そうすれば、税務調査で問題とされることもないわけです。
出向者の給与を出向元法人である日本の親会社で負担するという場合には、税務調査で課税を受けないようにしなければなりませんが、そのためには、法人税基本通達9-2-47の取扱いを良く理解しておくことが必要となります。
この法人税基本通達9-2-47の取扱いは、上記のとおり、あくまでも特例であって、この特例は、全ての海外子会社への出向者に一律に適用すべきものとされているわけではなく、出向先法人毎に全ての出向者に一律に適用すべきものとされているわけでもなく、適用するための要件があるわけでもなく、また、継続適用すべきものとされているわけでもありません。
調査官は、これらの点を誤解していることが少なくありません。
調査官は、通達に反する課税を行うことはできませんので、通達の理解に関して調査官に誤解がある場合には、丁寧に説明をして誤解を解く必要があります。
税務調査においては、特例の適用を止めて原則に拠ることに変更したり、特例の適用を受ける金額を変更したりした場合に、その変更の前後の親会社の負担が大きい部分について問題にされるケースへの対応が最も難しくなります。
この特例は継続適用が要件とされているわけでもなく、また、この特例の適用を止めて原則に拠ることとすることは、本来、好ましいことでもあるはずですが、現実には、税務調査においては、出向者の業務の内容の変化、出向元法人である日本の親会社や出向先法人である海外子会社の出向者に対するニーズの変化など、海外子会社の支援等とは関係のない変更事由が無ければ、調査官を説得することは、容易ではありません。
この特例の適用関係を変更しようとする場合には、このような事情があるということを予め承知した上で対応策を考えることが必要となるわけです。
この法人税基本通達9-2-47の取扱いに対する税務調査への対応策として比較的有効であるのは、「給与」の中に現物給与を含めることです。「給与」の中に現物給与を含めることは、当然のことではありますが、税務調査で課税を受けたケースを見てみると、これを見落としたために課税を受けることとなってしまっているというものが少なくありません。
日本の親会社の従業員が海外子会社に出向しているケースでは、海外子会社がその従業員の安全を図るために高い住居費を支払っていたり、専用の車や運転手を手配して多額の費用を支払っていたりすることがあります。このような支払いは、現地でその従業員と同等の者を雇用した場合には、発生することはありません。海外子会社は、日本の親会社からの出向者に対しては、現地の同等の従業員と比べると、現物給与の部分でかなり多額の負担をしているケースが非常に多いわけです。
このような実態にあるということは、日本の親会社の従業員が海外子会社に出向しているケースでは、現物給与を「給与」に含めて法人税基本通達9-2-47の取扱いの適用の適否を判定するべきであるという主張を適切に行えば、かなり多くのものが課税を受けずに済んだり課税を受ける金額が少なくなったりする、ということを意味します。
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