国際税務の実務ポイント~押さえておきたい話題の事例~

第3回 海外子会社への従業員の出向に係る負担(その1)

更新日 2016.02.01

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

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税理士 朝長 英樹

日本の親会社が従業員を海外子会社に出張させたり出向させる場合に負担する金額等の課税問題が話題となっています。当コラムでは、話題の国際税務の事例として「海外子会社への従業員の出張に係る負担(第1回、第2回)」、「海外子会社への従業員の出向に係る負担(第3回、第4回)」について、根拠法令等の確認から、その実務ポイントまで解説します。

 日本の親会社が従業員を海外子会社に出向させ、その従業員がその海外子会社で業務に従事している場合に、その従業員の出向に伴って日本の親会社が海外子会社から受け取る出向負担金の額が少ないとして、その不足額について国外関連者への寄附金として課税されるというケースが見受けられます。

1.根拠法令等

 この課税の根拠となっているのは、法人税法22条2項及び3項(益金の額・損金の額)と租税特別措置法66条の4第3項(国外関連者への寄附金の損金不算入)です。親会社に対してこの課税が行われる場合、これらの規定は、法人税法22条2項については、親会社が海外子会社に対して無償又は低廉の役務提供を行っていることから「出向負担金収入の額」という「益金の額」を計上させる根拠となり、同条3項については、親会社がその「益金の額」に相当する金額を収受していないことから「寄附金の額」という「損金の額」を計上させる根拠となり、そして、租税特別措置法66条の4第3項については、その「損金の額」の全額を損金不算入とする根拠となる、ということになります。
 この課税は、あくまでも親会社が海外子会社に対して無償又は低廉の役務提供を行っているという場合、すなわち、親会社が自らのために自らの役務を用いているのではなく海外子会社のために自らの役務を用いているという場合に行われることになります。
 このような場合に該当するのか否かということを判定する基準となっているのが次の法人税基本通達9-2-47(出向者に対する給与の較差補填)です。

(出向者に対する給与の較差補填)

9-2-47 出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補填するため出向者に対して支給した給与の額(出向先法人を経て支給した金額を含む。)は、当該出向元法人の損金の額に算入する。

(注)出向元法人が出向者に対して支給する次の金額は、いずれも給与条件の較差を補填するために支給したものとする。

  • 1 出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため出向元法人が当該出向者に対して支給する賞与の額
  • 2 出向先法人が海外にあるため出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額

 この法人税基本通達9-2-47においては、出向元法人が給与条件の較差を補填するために支給した金額を出向元法人の損金の額とするとした上で、同(注)においては、「出向先法人が海外にあるため出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額」(同(注)2)を「給与条件の較差を補填するために支給したものとする」としています。
 このような取扱いとする根拠は、次のように説明されています。

大澤幸宏編著『法人税基本通達逐条解説(七訂版)』(税務研究会出版局)
法人税基本通達9-2-47(出向者に対する給与の較差補填)の解説

「給与条件の較差補填のために出向元法人からその出向者に対して支給される金額は、本来の雇用契約に基づくものであり、また、その出向は出向元法人の業務の遂行に関連して行われるのが通常であるところから、その支給した金額は、出向元法人において損金の額に算入される。」(823頁)

「出向先法人が海外にある子会社等であるため、出向元法人がいわゆる「留守宅手当」を支給した場合には、その留守宅手当の額も同じく給与条件の較差補填のための支給として認められることが明らかにされている。」(824頁)

 要するに、出向元法人が支給する給与条件の較差補填金は、雇用契約に基づくものであって贈与という性格のものではないことから、寄附金として損金不算入とするべきものではなく出向元法人の損金に算入するということであり、留守宅手当はこの給与条件の較差補填金と認める、ということです。

2.海外子会社への従業員の出向に係る負担の処理の実情

 日本経済新聞の平成27年4月6日の「グループ内取引 課税拡大」というタイトルの記事によれば、「2012年7月から13年6月までに日本の企業が海外との取引で当局から申告漏れを指摘された事例のうち、約60%が寄付金課税として追徴課税された。」「移転価格税制の適用は約20%にとどまった。」とされています。
 この「約60%」という割合は、実に驚くべきものですが、この中では、本稿のテーマである海外子会社への従業員の出向に係る出向負担金の請求不足が相当な割合を占めているものと想定されます。
 実際に、税務調査で否認されたケースをみてみると、海外子会社に出向している従業員のその海外子会社における地位と同等の地位の現地従業員の給与と同等以上にその海外子会社がその出向している従業員の給与を負担しているか否か(現地給与と出向負担金の合計額が同等の地位の現地従業員の給与の額以上であるか否か)を調べ、その海外子会社の負担が少ない場合(日本の親会社の負担が多過ぎる場合)には、調査官がまずは「移転価格税制の対象になる!」と言い、最終的には国外関連者への寄附金の損金不算入の規定(措法66の4③)によって課税する、という例が多くなっています。
 法人税基本通達9-2-47は、給与条件の較差補填金を出向元法人の損金にするというものとなっているわけですが、実際の税務調査においては、海外子会社への従業員の出向に同通達を適用する場合、その出向している従業員と同等の現地従業員の給与の額を基準としてその海外子会社が負担するべき額を計算し、その額を上回る部分を日本の親会社が損金にしてよい額とすることとしているわけです。
 日本の親会社の従業員が海外子会社に出向しているケースに対して最終的に移転価格税制(措法66の4①)を適用して課税を行ったという例は寡聞にして聞きませんし、移転価格税制の創設前から存在する法人税基本通達9-2-47の取扱いと移転価格税制の取扱いをどのように整理するのかという難しい問題は依然として残されたままとなっていると言って良い状況にありますので、このようなケースに対しては、現実には、移転価格税制を適用して課税されるということにはならず、課税される場合には、いずれも国外関連者への寄附金の損金不算入の規定が適用されることとなるものと考えます。
 また、海外子会社に出向している従業員と同等の地位にある現地従業員の給与の額を基準にして法人税基本通達9-2-47の給与条件の較差補填金の額を算出するという方法は、同通達が予定する本来の方法ではありませんが、同通達の趣旨を逸脱するものではないと考えられます。

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税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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