更新日 2014.04.28

ROE向上に向けたグローバル税務管理の奨め

第7回 ③海外撤退時 ~撤退方法の違いによる連結実効税率への影響

  • twitter
  • Facebook
税理士・中小企業診断士 西村道浩

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・中小企業診断士 西村 道浩

グローバル展開する企業にとって、国際税務の知識は必須です。このコラムでは、海外進出から撤退の段階別に、関連する国際税務の個別論点を取り上げ解説いたします。

 今回は、③海外撤退時海外事業のライフ・サイクルにおける"衰退期"に相当)における国際税務上の取扱いと連結実効税率への影響について検討を行います。

I 海外事業からの撤退方法

 まずは、海外事業からの撤退方法として一般的な、(1)外国子会社の清算、及び(2)外国子会社株式の売却について確認します。

(1)外国子会社の清算

 外国子会社の清算の場合には、一般的に、清算の決議をして清算人を選任した上で、外国子会社の資産の売却と債務の返済等を行い、残余財産を日本の親会社に対して分配(清算配当)することになります。
 東南アジアでは、清算に際して税務調査を行い租税債務を確定するまでは清算結了できないことが多く、現地の税務当局が課税を積極的に行ってくる傾向もあり、税務調査完了までに長期間を要することが多いため留意が必要です。
 その他の留意点としては、清算の場合には現地の従業員の解雇が必要となり、退職金の手当てに加え、現地の法律上の手続きの履行に長期間を要することがあることや、製品の保証を行っている場合には保証期間の満了まで清算ができない可能性があること等が挙げられます。

(2)外国子会社株式の売却

 外国子会社株式の売却の場合には、売却先との間で株式の売却契約を締結することになります。清算の場合とは異なり、一般的に法律上の手続きの履行が要請されることはありません。
 ただし、売却金額の交渉にあたり、売却先からのデュー・ディリジェンスを受けることになるため、外国語による資料の準備等に労力を要します。

II 撤退方法の違いによる税務コスト等の相違

 次に、各撤退方法に係る税務コストと連結実効税率への影響について確認します。

1.外国子会社の清算

(1)外国子会社の所在地国における課税関係

 外国子会社の清算の場合には、外国子会社の所在地国における清算所得に対する法人税や清算配当に係る源泉税の課税関係について確認する必要があります。
 仮に、清算所得に対する課税が行われず非課税とされる場合等については、『租税負担割合』の分母に『非課税所得』が加算された結果、租税負担割合が20%以下となり、タックス・ヘイブン税制の適用を受ける可能性があるため留意が必要です。

(2)日本における課税関係

 外国子会社から日本の親会社に対する清算配当について、以下の通り、みなし配当と株式売却損益に対する課税を受けることになります。

ⅰ)みなし配当

 清算配当から対応する資本金等を控除して計算されたみなし配当については、下記の通り、外国子会社益金不算入の適用により95%が非課税となるため5%部分についてのみ日本で課税を受けることになります。

ⅱ)株式売却損益

 株式売却損益については、下記の通り、清算配当から上記ⅰ)のみなし配当を控除して計算された譲渡収入から外国子会社株式の帳簿価額を控除した金額の全額について日本で課税を受けることになります。

 上記の算式中の『(清算配当-みなし配当)=譲渡収入』については、みなし配当の算式の注書きより、『対応する資本金等』に等しいことがわかります。つまり、日本の親会社が出資をして外国子会社を設立する場合には、『対応する資本金等』と『外国子会社株式の帳簿価額』が等しくなるため、基本的には売却損益は発生せず、みなし配当に対する課税のみとなります。
 例えば、日本の親会社における外国子会社株式の帳簿価額が300、外国子会社の貸借対照表が下記の通りで、外国子会社が簿価純資産相当額(800)を清算配当し、日本の法定実効税率40%であるとした場合の日本の親会社における本邦税務コストは次の通りです。

 一方、現地企業を買収により外国子会社化した場合等については、通常、『対応する資本金等』と『外国子会社株式の帳簿価額』に差が生じることから、株式売却損益が発生することになります。

2.外国子会社株式の売却

(1)外国子会社の所在地国における課税関係

 外国子会社株式の売却の場合には、一般的に外国子会社の所在地国における課税は生じません。ただし、東南アジアの一部の国等では、日本の親会社に対する株式売却損益の課税が行われることがあります。その場合、日本の親会社では、現地で課された税金について外国税額控除をとることで二重課税を排除することになりますので、外国税額控除がとれなければ、連結実効税率が上昇(その結果、ROEは低下)することになります。

(2)日本における課税関係

 外国子会社株式の売却の場合には、清算の場合の(2)ⅱ)と同様に、株式売却損益の全額について日本で課税されることになります。
 外国子会社に十分な留保利益がある場合には、売却前に日本の親会社に配当を行うことにより、外国子会社配当益金不算入の適用により95%が非課税となるため、全額課税される株式売却損益を圧縮することが可能です。
 例えば、先程の“1(2)ii)清算の場合の株式売却損益”と同様、日本の親会社における外国子会社株式の帳簿価額が300、外国子会社の貸借対照表が下記の通りで、外国子会社株式の時価=簿価純資産(800)、日本の法定実効税率40%であるとした場合の日本の親会社における本邦税務コストは次の通りです。

III 撤退方法の違いによる連結実効税率への影響

 第2回で確認しました通り、外国子会社の留保利益に対する税効果については、日本の本社で子会社の利益を配当せずに再投資する方針をとっている場合を除き、下記の通り算定されます。

 上記の算式では、外国子会社の留保利益を配当で回収した場合の日本の親会社における課税関係に基づいて繰延税金負債が算定されています。しかし、外国子会社株式の売却の意思決定が行われた場合には、株式売却損益に対する日本の親会社における課税関係に基づいた繰延税金負債の算定に変更されることになるため、繰延税金負債の追加計上が必要となり、連結実効税率が上昇(及びROEの低下)することになります。
 一方で、株式売却に先立ち利益剰余金について配当を行う場合や清算を行う場合については、日本の親会社における課税が配当に対する課税で完結し、繰延税金負債の追加計上が不要となる可能性があります。

IV まとめ

 海外撤退時には、以下の留意点等について現地の専門家への確認を含めた十分な検討を行い、グループとして全体最適な手続きを選択する必要があります。

(1)外国子会社の清算の場合
  • 従業員の解雇の法的手続きや最終の税務調査に要する期間が長期化する可能性
  • 外国子会社の所在地国における清算所得に対する課税関係により、タックス・ヘイブン税制の適用を受ける可能性
  • 外国子会社への出資の経緯(出資VS買収)により日本の親会社における課税所得に変動が生じる可能性、等
(2)外国子会社株式の売却の場合
  • 清算よりも法的な手続きの煩雑さはないが、事前に配当を行わない場合には清算の場合と比較して税務コストが大きくなる可能性、等

 海外進出件数の増加が著しい昨今において、その都度発生する国際税務上の論点等に付け焼刃的に対応した結果、国際税務及び連結実効税率の観点から極めて非効率な結果となっている例は枚挙に遑がありません。連結実効税率を低減しROEの向上を図るためには、進出前の検討段階において、進出時~撤退時までを見据えた国際税務及び連結実効税率の低減戦略を本社主導で決定し、継続的にマネジメントしていく必要があるでしょう。

参考文献

  • 大河原健、須藤一郎 『国際取引のグループ戦略』 東洋経済新報社
  • 仲谷栄一郎、井上康一、梅辻雅春、藍原滋 『外国企業との取引と税務(第4版)』  商事法務研究会
  • 佐和周 『海外進出企業の資金・為替管理Q&A』 中央経済社
  • 手塚仙夫 『税効果会計の実務(第8版)』 清文社

プロフィール

税理士・中小企業診断士 西村 道浩(にしむら みちひろ)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

ホームページURL
西村&パートナーズ総合会計事務所

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。