2019年4月号Vol.114
【特集】新たな時代迎える「行政サービス」──未来に向け何を考え、どう行動するか
平成が終わり、新たな時代がスタートする。この30年間に自治体の情報化はIT基本法・e-Japan戦略に始まった「電子政府・自治体」から「デジタル・ガバメント」へと、大きな進化を遂げてきた。そして、その動きは今後一段と加速する。未来に向けて何を考え、どう行動すればいいのか──さまざまな変化とともに考察する。
振り返ると平成は、さまざまな意味で“激変”の時代だったといえる。
経済ではバブル景気とその崩壊があった。これにより地方財政も悪化。「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」が施行され、自治体には実質的な赤字や将来負担などを示す健全化判断比率と各公営企業の資金不足比率の公表が義務付けられた。これをきっかけに地方財政に対する住民の視線も一段と厳しくなった。
また、大規模災害の脅威を思い知らされた30年間だった。特に東日本大震災の発生はデータ保管に対する意識を180度転換させクラウド化へ大きく舵を切るターニングポイントとなった。昨今では異常気象による豪雨災害などの被害も相次ぎ、重要インフラが機能停止に陥るケースも発生している。そうした万一の場合に備えて、「情報システム運用継続計画」(ICT-BCP)の策定も全国で進んでいる。
さらに、急速なデジタル化の進展だ。90年代半ばからインターネットや携帯電話が普及し、その後のスマートフォンの利用拡大により人々の意識や行動は様変わりした。国民全体のITリテラシーも向上したことで、政府は日本が目指すべき未来社会の姿として「Society5・0」を提唱。その実現に向けて国が取り組む重点分野の一つが、「デジタル・ガバメントの実現」だ。推進目標として2020年3月末までに、行政手続コストの20%以上削減などを掲げている。
その意味では、新たな時代を迎えるいま、行政サービスや業務にも〈イノベーション〉が迫られているのである。
自治体を取り巻く四つの変化
TKCでは、イノベーションの源泉には〈法律〉〈社会制度〉〈IT業界のイノベーション〉〈顧客の価値観〉の四つの変化があると考えている。
法律の変化で、特に自治体の今後の業務に大きく影響するのが「デジタル手続法案」であろう。これは〈デジタルファースト〉〈ワンスオンリー〉〈コネクテッド・ワンストップ〉の3原則を柱に、行政のデジタル化を後押しするというもの。添付書類の撤廃に向けた法整備も進め、デジタル・ガバメントへの取り組みを一段と加速する。
社会制度の変化の代表例が「人口減少・少子高齢化」への対応だ。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、50年頃に総人口が1億人を下回り、65歳以上人口の割合が50%以上を占める市区町村は3割に達する。また生産年齢人口はいまよりも2割以上減り、40年には5978万人になると推計。世帯数は5076万世帯となり、高齢者の独居率も上昇して男女ともに2割を超える。これに伴い医療・介護費が増大し、また福祉課題の多様化・複合化も一段と進むことは間違いない。
その担い手である地方公務員数も年々減少し、総務省の試算では40年にはいまよりも2~3割近く少ない職員数で行政運営を担う可能性も。そのため、団塊ジュニア世代が30年代に退職期を迎えることを見据えた、体制整備が求められる。
ITの変化は、予測が難しい。『日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年』(ガートナージャパン)によれば、クラウドについては利用して当たり前のものになりつつあるとする一方で、AIやRPAは過度な期待のピーク期を過ぎ、成熟した技術として市場に広まるまでに5年以上かかるとみている。
この点では当面、AIやRPAの活用は限定的となり、自治体が目指す〈業務の効率化〉の実現にはコスト・効率の両面で効果が期待できるAPIによる〈システム間連携〉が主流になると考えられる。またデジタル化の進展に伴い、データ保護やデータプライバシーの強化がこれまで以上に重要となることにも留意したい。
これらさまざまな変化を背景に、顧客(住民)の価値観も大きく変わる。『生活者の意識・行動・価値観の時系列観測調査』(博報堂生活総合研究所)では、キャッシュレス指向や個の重視などが一段と進み、生活者は旧来の考え方にとらわれない自由な意識・行動へと向かうと結論付ける。
こうした価値観の変化は行政サービスのあり方にも大きな影響を及ぼす。その一つが窓口サービスの“コンビニ化”への期待だろう。自治体では従来の半分の職員でも本来担うべき機能を発揮する〈スマート自治体〉の実現とともに、利用者の価値を最大化する“手軽で便利”な窓口サービスへの改善が急がれる。
行政サービス改善への対応
では、具体的に何を考え、どう行動すればいいのだろうか。
まず、行政サービスデジタル化は確実に進む。『デジタル・ガバメント実行計画』では、23年3月末までに優先的に取り組む15の施策を挙げている。その一つがワンストップサービスで、子育てに次いで今年度は介護もスタートし計画が着々と進行していることを実感できる。
加えて、スマートフォンへの利用者証明用電子証明書の搭載も今後可能となる見込みだ。スマートフォンについては、いまや13~19歳(中学生以上)から40代までの世代の9割が「インターネットはスマホで」という時代。決済サービスの利用者数も急拡大していることからも行政サービスでの利用ニーズは高いと思われ、マイナンバーカード普及拡大のトリガーとなることも期待される。
とはいえ、本誌12~13ページでも取り上げたように、オンラインで全ての手続きを“完結”させるのは現実的ではない。当面は、〈オンラインで事前申請を受け付ける〉あたりから着手することになるだろう。ただし、並行して住民が窓口で効率よく手続きができる仕組みや庁内レイアウトの見直しなど〈窓口改革〉は欠かせない。特に住民が紙の申請書に手書きし、これを職員がシステムに入力するスタイルは、ICTの活用ですぐにでも改善できる。
バックオフィスでは、部門やシステム間の情報連携がこれまで以上に重要となる。代表例が、今年10月に稼働予定の「地方税共通納税システム」だろう。納税者からの納付情報データは地方税ポータルシステム(eLTAX)を通じて各団体に送られる。データを受け取る準備が不十分だと、職員の業務負荷が増えることになりかねない。納付情報データを税務システムに連携する方法は〈帳票印刷〉〈ファイルダウンロード〉〈サーバ間連携〉の三つがあるが、業務効率やセキュリティーを考慮すればデータを自動連携できるサーバ間連携とすることが望ましい。
情報連携が重要になるのは福祉分野も同様だ。制度ごとに対応窓口が異なる従来の体制では、複合的な福祉課題を抱える世帯への対処は難しい。自治体に求められる総合的な相談支援体制の構築には世帯情報や支援内容などを共有する〈福祉相談支援システム〉の整備とともに、プライバシーに配慮した利用者権限の設定やシステム利用上の運用ルールなどの検討が欠かせない。
さらには、標準システムを積極展開する国の動きも注視したい。これにより業務の“共通化・標準化”が確実に進む一方で、住民に最も身近なサービス提供者としては、これまで以上に “独自性”が問われることになる。
内部事務の高度化・効率化
昨年のTASKクラウドフェアに参考展示した オンライン事前申請のシステム
内部事務の高度化・効率化ということでは、〈公会計情報の資産・債務管理や予算編成、行政評価等への活用〉が急がれる。統一的な基準による財務書類の作成や固定資産台帳の整備はほぼ全ての団体で完了したが、活用はまだ一部に限られる。こうした状況を踏まえ、国は21年度を目標年度として比較可能な形で情報公開の徹底・拡充を促進する方針を打ち出した。
財務情報の活用には財務書類等の作成・公表の早期化が重要で、国は「財務書類を8月中に作成し、9月末までに公表する」ことを求めている。実現には、財務書類や固定資産台帳の更新などを日々の業務に組み入れ、“見える化”することが望ましいといえる。このことから期末一括仕訳を採用した団体では、今後〈日々仕訳〉への転換、それに伴うシステムの切り替え・改修が必至となると考えられる。
行財政改革の点では〈内部統制〉も無視できない。都道府県と指定都市では20年4月1日の策定・公表が求められている。その他の団体は努力義務だが、動向には注目したい。
また、急速なキャッシュレス化への対応も必要だ。すでに税金の支払いにLINE Payなどを導入するところも登場している。
行政サービスデジタル化の実践は自治体にとっても例外ではない。代表例が〈電子申告義務化〉だ。詳しくは本誌10~11ページで解説したが、対応には事務手続きの見直しやシステム改修などの準備が必要で、早急な着手を心がけることが肝要といえる。
さらに、各業務システムのクラウド化が一段と進む。導入や運用・保守にかかるコストの削減に加え、頻発する自然災害等に備えて〈重要データを守る〉ということでもクラウドは有効だ。国も、23年度末までにクラウド導入市区町村数を約1600団体、自治体クラウドを約1100団体にするとの目標を設定し取り組みを加速する。
導入にあたっては、情報セキュリティー管理基準の改定などが必要となる。加えて、従来の業務フローをそのままクラウドで実現するのではなく、働き方改革の観点からも“本来あるべき業務のあり方”を考え、抜本的に業務を見直す〈BPR〉の視点が欠かせない。
◇ ◇ ◇
本誌が発行される頃、新元号が決まり、いよいよ新たな時代が幕を開ける。デジタル・ガバメントの実現もまったなしだ。目指すのは〈利用者中心の行政サービス改革〉。この利用者には住民や事業者だけでなく、自治体の職員も含まれる。つまりは“行政も、住民ももっと便利に”ということなのだ。
そのためにTKCではお客さまサポートの強化に加え、クラウドの一層の推進による「コスト・ミニマム」の実現支援や、デジタル化時代を見据えた利用者視点の「行政サービスデジタル化支援システム」の提供に注力する。ぜひ、今後の取り組みに注目していただきたい。
掲載:『新風』2019年4月号