2022.10.11
業務上過失往来危険、業務上過失致死被告事件
LEX/DB25593276/神戸地方裁判所 令和 4年 8月 8日 判決 (差戻第一審)/令和3年(わ)第164号
被告人は、漁船Y丸(総トン数1.7トン)の船長として同船の操船業務に従事していたものであるが、平成29年10月14日午後8時2分頃、兵庫県淡路市α地先西防波堤南東端所在のB港西防波堤東灯台から真方位340度、約95メートル付近海上を、真針路152度、速力約20ノットで航行するに当たり、前方左右の見張りを十分に行い、自船針路上の他船の早期発見に努め、航路の安全を確認しつつ航行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、他船はいないものと軽信し、航行先である右前方に気を取られ、左前方の見張りを十分に行わず、航路の安全確認不十分のまま漫然前記速力で航行した過失により、その頃、前記灯台から真方位29度、約17メートル付近海上において、左前方から航行してきた漁船X丸(総トン数1.5トン)に気付かないまま、自船船首部を前記X丸船尾部に衝突させるなどして前記X丸の右舷船尾外板に亀裂等の損傷を与え、もって艦船の往来の危険を生じさせるとともに、自船船首部を前記X丸に乗船中のC(当時77歳)に衝突させるなどし、同人に右側頭部頭蓋冠骨折及び中頭蓋底横断骨折等の傷害を負わせ、同人を前記傷害による外傷性脳くも膜下出血及び脳挫滅・脳挫傷により死亡させたとして、業務上過失往来危険、業務上過失致死の罪で起訴され、差戻前第1審は無罪を言い渡したため、検察官が控訴し、差戻前控訴審は、本件事故発生時点において、被害船のローラー部分が前向きであったとの事実が認められないとした差戻前第1審には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとして、同判決を破棄し、第1審に差戻しを命じことに対し、弁護人が上告したが、上告審は上告棄却の決定をした。その後の差戻後第1審判決の事案で、被告人は、被告船の進路前方左右の見張り等を十分行っていれば、遅くとも本件衝突の約8秒前よりも若干衝突時に近い時点(衝突位置の約85メートル手前の位置よりも若干衝突位置寄りの位置)から本件衝突までの間、被害船(その両色灯)を視認することが可能だったと認められ、被告船を一定針路かつ速力約20ノットで航行させた際の最短停止距離が約35.5メートルであったことに照らすと、前記の時点(位置)で直ちに制動(全速後進)措置を講じていれば、被害船に衝突する前に被告船を停止させることが十分に可能であったと認められ、被告人には前方左右の見張り等の注意義務を怠った過失が認められ、業務上過失往来危険及び業務上過失致死の各罪が成立することは明らかであるとして、被告人を禁錮1年2月に処し、この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予するとした事例。