令和8年度税制改正のポイント

第2回 ミニコラム「所得税に逆ざやは無い!?」

更新日 2026.05.25

税理士 若山 昌美

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ税務システム普及部会会員

税理士 若山 昌美

令和8年度税制改正について、令和8年度においても、改正で大きな目玉となった年収178万円の壁について実務に与える影響や法人税・消費税・その他の税制改正について解説します。

当コラムのポイント

  • 令和8年度税制改正の概要
  • 所得税の基礎控除等の見直し(いわゆる年収178万円の壁)の解説
  • 法人税・消費税・その他の税制に関する改正点の解説
目次

5.ミニコラム「所得税に逆ざやは無い!?」

(1) 所得税に逆ざやは無い!?

 「所得税は超過累進課税です。所得が増えて適用税率が変わっても、超えた部分のみ高い税率が適用され、超えない部分は低い税率が適用されます。そのため、社会保険のように稼ぎすぎて手取りが減ることはありません!」
 超過累進課税は、担税力(所得者の税負担を加味した経済的能力)に配慮したすばらしい課税方式だと思っておりました。

 そして令和7年、年収の壁が103万円から160万円に引き上げられ、パートの奥様(ここでは奥様とさせていただきます)が今まで以上に働けますね!良かった!と思っておりました。

 時は令和7年の年末、私の担当する関与先の年末調整実務はほぼ電子化※されており、紙の申告書ではなく社員が自ら入力したデータで正しく入力されているかを確認します。年末調整計算のシステムは給与計算システムと連動しているため、基礎控除の基礎となる給与所得の申告額が実績より少ない場合には、本人の申告額ではなく実績に基づき正しく計算されます。しかし、1社だけいろいろと諸事情があり、扶養控除等申告書をはじめ、全て従来通りの紙の申告書の提出で年末調整を行う関与先があります。その関与先の年末調整を最終チェックしたところ、ご自身で記載した基礎控除の金額が違う・・・。よくよく確認したところ、ご本人は合計所得金額が336万円以下として88万円の基礎控除が取れるものと思って基配所申告書を記載していましたが、実際は336万円をほんの数千円超えてしまい基礎控除は68万円となってしまいました。
 所得控除を加味すると税率は10%ですので、基礎控除88万円と68万円の場合では、所得税額に2万円の差が生じます。

 令和6年度までの基礎控除は、所得が2,400万円以下であれば一律48万円となっており、高額所得者を除きこの壁についてはあまり気にすることもなかったですが、令和7年度税制改正により基礎控除額が階段状になることで、ちょっとした年収の差で控除額が大きく変わることとなりました。

 さらに、令和8年度税制改正では「基礎控除の上乗せ特例」により、所得金額489万円が”隠れた大きな壁”となりそうです。所得の金額が489万円(給与収入のみの場合は約665万円)以下であれば、104万円(62万円+42万円)の基礎控除がとれるものの、給与収入が666万円となると基礎控除は67万円(62万円+5万円)となります。
 わずかな1万円の収入の差により所得税の負担がぐんと増えてしまうということは、ご理解いただけるかと思います。

 しかし、この点をあまり厳密に考えすぎてしまいますと、奥様の「年収の壁によるパートの就業制限」と同じく、ご本人についても「基礎控除の壁による正社員の残業制限」や「基礎控除の壁による正社員の年末手当の不受理」というおかしな話になってしまいます。実務上、細かい年収の管理はそうそうできないかと思いますので、当コラムの落としどころとして、「基礎控除の多階層化により逆ざやも場合によってはありますが、そこはあまり気にせず・・・」とさせていただきます。

※2025年秋に幕張メッセで開催された「総務・人事・経理WEEK」におけるイベントで、「『年収の壁』の見直しで、何がどうなる?年末調整への影響は」について講演させていただいた際に、年末調整を紙ではなく電子で行っている方に手を挙げていただいたところ、約100人中およそ半数の方が手を挙げられました。
逆に手を挙げられなかった方の「えっ!?」という反応がとても印象的で、年末調整の電子化については、実務対応にまだ大きなばらつきがあることを実感しました。

会場の様子
イベント会場の様子
(2) 基礎控除の計算の基礎となる合計所得金額とは

 第1回 1.(3)で配偶者控除等の「所得控除の要件の見直し」 の項で「要件となる所得」には「合計所得金額」と「総所得金額等の合計額」の二種類がある旨をお伝えしました。
 細かな違いではありますが、この2つが並べて整理される機会はほとんどないため、この場で触れさせていただきます。
 国税庁のホームページでは、これらの用語について次のように説明されています。
 純損失・雑損失の繰越控除等が無ければ合計所得金額と総所得金額等の合計額は同じと考えていただいて問題ありません。

① 合計所得金額
国税庁「合計所得金額の計算について(令和7年分)」より)

 次の(1)と(2)の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額をいいます。

※申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。

  • (1) 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
  • (2) 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額

 ただし、純損失や雑損失の繰越控除、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除、特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除、特定中小子会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用を受けている場合は、その適用前の金額をいいます。

② 総所得金額等の合計額
(国税庁「確定申告書等作成コーナーよくある質問」より

 次の①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です。

※申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。

  • ① 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
  • ② 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額

 ただし、次の繰越控除を受けている場合は、その適用後の金額をいいます。

  • 純損失や雑損失の繰越控除
  • 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
  • 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
  • 上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
  • 特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除
  • 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除

① 合計所得金額≧②総所得金額等の合計額となるため、②の方が控除を取りやすいと言えます。

 基礎控除の判定に用いる「合計所得金額」は、上記のとおり、給与所得に加えて退職所得金額や山林所得金額を加算します。
 給与所得者に山林所得はそうそうないかと思いますが、退職所得には注意が必要です。
 例えば65歳で正社員として一区切りをつけ、退職金を受け取った後に嘱託職員として働く方は多いと思います。その場合も、従前通り年末調整を行うことが一般的かと思いますが、基礎控除申告書(基配所)には、給与所得だけでなく退職所得も加味しなければならないということです。
 奇しくも(?)、令和8年分以降の退職所得の源泉徴収票は役員以外の一般社員も法定調書合計表提出時に税務署へ提出の義務が課せられます。(従来:役員のみ)
 退職金が支給され、退職所得が生じているのにも関わらず、基礎控除が給与所得のみで計算されているということがあれば是正対象となろうかと思いますので、ご本人への周知も含め、十分ご注意ください。

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プロフィール

税理士・公認会計士 若山 昌美

税理士 若山 昌美(わかやま まさみ)

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八重洲税理士法人

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