補助金活用における圧縮記帳の実務

第2回(最終回) 補助金と圧縮記帳~会計処理と税務調整

更新日 2024.09.24

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 吉田 公彦

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ税務システム普及部会会員

税理士 吉田 公彦

補助金により資産を取得した場合の圧縮記帳について、会計と税務の基本的事項を解説します。

当コラムのポイント

  • 国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮記帳の基本
  • 設例による会計処理の解説
  • 会計処理に応じた税務調整と別表の記載方法
目次

前回の記事 : 第1回 補助金と圧縮記帳~制度の概要

1.会計処理と税務調整

 圧縮記帳の具体的な経理処理について、特に直接減額方式(損金経理による方法)と剰余金処分による方式(積立金として積み立てる方法)に焦点を当てて、設例を用いて解説します。
 今回の設例は、補助金の交付パターンとして最近増加している「対象資産を先行取得したケース」を想定しています。なお、便宜上、税効果会計の適用はないものとします。

(当期)
国庫補助金の申請を行い、目的資産であるソフトウェア5,000,000円(耐用年数5年、定額法)を取得した。また当期に当該資産の減価償却費として250,000円を計上した。
(翌期)
期首に補助金の2,500,000円の交付が確定し入金があった。
(1) 直接減額方式 
  • ①会計処理

     直接減額方式は、取得した固定資産の帳簿価額から圧縮損相当額を直接差し引きます。
     この方法は、企業会計上、取得原価主義の観点から問題があるとされており、大企業あるいは上場企業ではほとんど採用されていません。
     一方で会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額が一致することから、次年度以降を含め税務調整が不要であり、処理がシンプルです。そのため、企業会計面での制約が少ない中小企業において採用されることがあります。

    ※1.圧縮限度額の計算
    固定資産を先に取得し、その翌事業年度以後に補助金等が交付確定する場合には、圧縮限度額の計算に当たり、次の調整を行います。

    (5,000,000円-250,000円)×2,500,000円/5,000,000円=2,375,000円

    ※2.圧縮記帳後の減価償却費は「取得価額-補助金等の額(※1の調整がないものとした場合の圧縮限度額相当額)」を基礎として計算します。(法令54③)
    (5,000,000円-2,500,000円)×0.2=500,000円

  • ②当期の税務調整(申告調整)

    • 1) 別表4、5(1)
      会計上の簿価と税務上の簿価が一致していることから調整は不要となります。
    • 2)別表13(1)
      当期の確定申告書に別表13(1)の添付が必要となります。
      本設問のように前期以前に目的資産を先行取得し、既に減価償却を行っている場合は、15欄で取得価額に算入しない金額が算定されます。
    • 3)別表16
      会計上も取得価額が圧縮(減額)されていることから償却超過額は発生しません。
(2) 剰余金の処分による方式
  • ①会計処理

     企業会計上の原則的な処理であり、大企業においては通常こちらが採用されます。
     取得した資産の帳簿価額は実際の取得価額により記帳し、別途圧縮損相当額を当期の確定した決算において剰余金の処分により積立金として積み立てます。
     貸借対照表の純資産の部に圧縮積立金を計上し、株主資本等変動計算書にはその積立額を記載します。損益計算書に圧縮損が計上されないため、法人税の申告にあたって圧縮損相当額の調整が必要となります。

    ※1.減価償却費は、圧縮記帳前の本来の取得価額を基礎にして計算します。
     5,000,000円×0.2=1,000,000円

    ※2.圧縮限度額の計算方法は直接減額方式と同様です。

    ※3.圧縮積立金を減価償却に応じて取崩します。

  • ②当期の税務処理(申告調整)

    • 1)別表4、5(1)

      ・圧縮記帳と圧縮積立金の積み立て

      • (a) 会計上積み立てられた圧縮積立金の額を、株主資本等変動計算書に合わせ別表5(1)上で調整します。
      • (b) 圧縮損は会計上損金経理されていないことから、別表4において圧縮損相当額を減算し、同額を別表5(1)に転記します。

      ・減価償却に伴う圧縮積立金の取り崩し

      • (c) 株主資本等変動計算書より、会計上減価償却に応じて取り崩された圧縮積立金の額を、別表5(1)へ反映させます。
      • (d) 減価償却費に対応して取り崩された圧縮積立金相当額(上記c)を、税務上加算するため別表4へ記載、同額を別表5(1)へ転記します。(法基通4-1-1(2))
      • (e) 圧縮記帳により、「取得資産の会計上の簿価>税務上の簿価」となることから、減価償却超過額が発生。別表4、別表5(1)にて加算調整します。
      • (f) 上記e.の償却超過額のうち圧縮積立金の取崩額に相当する金額までは、当事業年度の損金に算入(認容)されます。(法基通10-1-3)
        (e)と(f)が相殺され、結果として(d)の圧縮積立金取崩額相当額のみが加算調整されることになります。
    • 2)別表13(1)
       直接減額方式の場合と記載内容に変わりはありません。
    • 3)別表16
       資産を先行取得した本設問のケースでは、8欄(償却額計算の対象となる取得価額に算入しない金額)には別表13(1)の15欄で算定した金額を記載します。
       また、会計上と税務上で簿価が異なることから、会計上の減価償却費と税務上の償却限度額に差異が発生することに注意が必要です。上記1)の調整に合わせて、37欄(償却超過額)、40欄(積立金取崩しによるもの)を記載します。

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税理士 吉田 公彦(よしだ きみひこ)

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税理士法人ベルーフ

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