更新日 2024.06.03
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 金子 真一
令和5年10月消費税インボイス制度、令和6年1月改正電子帳簿保存法の新たな経過措置がスタートしましたが、その後も国税庁から実務に配慮した情報発信が行われています。これから3回に分けて、国税庁から発信された情報の中から企業実務に影響を及ぼす可能性が高いものを抜粋してご紹介させていただきます。
当コラムのポイント
- 制度改正後、実務では様々な混乱が発生しています。
- 国税庁はその混乱に対して情報を発信しています。
- その中から企業実務に影響を及ぼす可能性が高いものを解説します。
- 目次
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前回の記事 : 第2回 制度改正後に発信された情報~消費税インボイス制度(その2)~
1.はじめに
改正電子帳簿保存法は、令和6年1月1日より新たな経過措置となる猶予措置がスタートしました。この改正電子帳簿保存法(猶予措置を含む)についても、消費税インボイス制度と同様に、猶予措置の施行後に「お問合せの多いご質問(令和6年3月)」で情報が発信されています。
※出典: 国税庁「お問合せの多いご質問(令和6年3月)」
今回はこれらの中から、実務上注目しておきたい部分をピックアップしてお伝えします。なお、これは、電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】、【スキャナ保存関係】、【電子取引関係】(令和5年6月版)の公表後、ご質問の多かった事項について追加問として整理し、集約したものであり、令和6年1月1日以後に適用されます。
2.お問合せの多いご質問(令和6年3月)
■電取追1【制度の概要等】 ※追加問の改問
経理部門の担当者は、保存しなければならない電子データの範囲について、社内でどのように指図すべきか悩んでいる方も多いと思われます。電子帳簿保存法が想定しているのは、法人税や所得税における書類の保存範囲と変わらないとされていますので、基本的に会計処理につながる又はつながる可能性がある書類、正式な相見積もりで比較検討としたもの等は対象になると考えられます。
一方、例えば「見積書」との名称の書類で相手に交付したものであっても、連絡ミスによる誤りや単純な書き損じ等があるもの、事業の検討段階で作成された正式な見積書前の粗々なもの、取引を希望する会社から一方的に送られてくる見積書などは、保存の必要はないとされました。
また、労働条件通知書や雇用契約書についても、通常契約期間、賃金、支払方法等に関する事項等が記載されていることから、法第2条第5号に規定する取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項)に該当するため、電磁的方式により授受する場合は、取引データとして保存する必要があるとされました。
以上を踏まえると、税務当局が考える電子帳簿保存法が対象とする電子データの範囲は、経理担当者の常識からするとかなり広いという印象です。
一方、令和5年12月末までに行う電子取引を対象とした宥恕措置では、出力書面のみを保存する方法で対応することが認められていましたが、令和6年1月以降に行う電子取引を対象とした猶予措置では、出力書面のみを保存することで対応することは認められておらず、出力書面の提示等に加え、電子データそのものも保存しておき、提示等ができるようにしておく必要があるとされています。まずは電子データを破棄することなく保存しておくことを最低限のルールにして頂くのがよいのではないでしょうか。
■電取追2【保存方法】 ※追加問の改問
ECサイト上で領収書等データの確認が随時可能な状態である場合には、ECサイト提供事業者が、電子取引に係る保存義務者(物品の購入者)において満たすべき真実性の確保及び検索機能の確保の要件を満たしていることを前提※に、その領収書等データをダウンロードして保存していなくても良いとされました。ただし、閲覧期限に制約があり、調査のタイミングでダウンロードできない場合は、予めダウンロードして保存しておく必要があります。
経理部門はサイトごとに定められているデータの入手可能期間を踏まえ、ダウンロード可能期間が短いものは予めダウンロードしておくよう指示することが必要です。
※基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者又は電磁的記録を出力した書面を取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものを提示・提出できるようにしている事業者については、全ての検索機能の確保の要件が不要とされることから、ECサイト上の購入者の購入情報を管理するページ内において、検索機能の確保がなされている必要はありません。
■電取追2-2【保存方法】
インターネットバンキングは電子取引に該当し、取引年月日・金額・振込先名等のデータは電子データでの保存が必要ですが、個々の取引について電子データをダウンロードして保存する必要があるかどうかが不明確でした。今回示されたのは、このオンライン上の通帳等による保存の場合、オンライン上の通帳等の確認が随時可能な状態であるときは、必ずしもオンライン上の通帳等をダウンロードして保存していなくても差し支えないとされました。
期間や件数で閲覧制限が設けられているケースもあるため、経理担当者は、金融機関ごとに定められているデータの入手可能期間をチェックし、ダウンロード期間の短いものは予めダウンロードしておくことが必要です。
3.最後に
今回執筆するに際して、いまさら消費税インボイスや電子帳簿保存法でもないだろうと思う反面、現場での様々なお悩み、お困りごとが解消されていない現実があり、国税庁がそれに対して情報発信している点をお伝えしようと考えました。情報発信の仕方について、個人的には租税法律主義の観点から課題はあるものの、少しでも混乱を少なくしようとタイムリーに情報発信する姿勢は評価すべきと考えています。
消費税インボイス、電子帳簿保存法は当面の間、制度定着の観点から実務に配慮した情報が今後も発信されることが予想されます。こういった情報を自分で入手する努力は大切ですが、それ以上に仲間同士で情報交換することが重要であり有意義だと思います。いずれの制度もまだ始まったばかりです。一緒に頑張りましょう!
了
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プロフィール
税理士 金子 真一(かねこ しんいち)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
- 略歴
- 1992年東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社、2002年から住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に移り、主に会計、税務業務を担当。2019年に退職し金子真一税理士事務所を開業。現在、消費税インボイス制度への対応支援やグループ通算対応支援、会計業務の効率化支援等に取り組む。
- 肩書
- TKC大企業・中堅企業支援研究会会員
東京税理士会 目黒支部 租税教育委員長 - 著書等
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- 『時間がない!?消費税インボイス導入へのサクセスロード』(税務研究会)
- ホームページURL
- 金子真一税理士事務所
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