インボイス制度の実務でハマる具体的な論点

第1回 消費税インボイス制度の確認ポイント(パート1)

更新日 2023.09.25

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税理士 金子 真一

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

税理士 金子 真一

消費税インボイス制度の実務において、皆さんがつまずくと思われるポイントをQ&A方式で解説します。

当コラムのポイント

  • 公共交通機関特例と出張特例の区別
  • これまでの処理が認められるか
  • 消費税インボイスのいろんな形態の端数処理
目次

 インボイスかどうかの判断は登録番号の記載の有無で行えばよいと考えていらっしゃる実務担当者の皆様。インボイス省略のルールが絡んでくると一筋縄で判断できない事例もあります。今回は実務担当者がつまずくと思われるポイントの一部をQA形式でご紹介します。
 なお、国税庁のQAに記載されていないものについても、実務上判断が必要になると考えられるものについて敢えて踏み込んだコメントをしています。執筆者の私見によるものもあり、税務当局との判断が異なる可能性があることを予めご了承ください。

 では始めましょう。以下の設問について、消費税インボイス制度として正しい内容であれば「○」、誤った内容であれば「×」のいずれかをご自分で回答した後で、解説を確認ください。

― 設問 ―

第1問 インボイス制度は何の改正か

消費税インボイス制度は、請求書に関するルール変更であり、帳簿は関係ない。

<回答>

 正解は、「×」です。

<解説>

 消費税インボイス制度は帳簿及び請求書に関する消費税上のルール変更です。

  • 請求書等に、インボイスの6要件を記載する必要があります。
  • 帳簿記載要件は、インボイスの導入前後で基本変わっていませんが、インボイス省略の際に追加の情報を記載する必要があります。

 日本の消費税は平成元年の導入当初から請求書等の保存と共に帳簿への記載をルール化しました。これを請求書等保存方式といいます。
 令和元年10月に消費税が初めて複数税率化され、10%の標準税率と8%の軽減税率が存在することになりました。そこで、請求書及び帳簿についても税率ごとに区分して記載することとし、これを区分記載請求書等保存方式といいます。

 そして令和5年10月より適格請求書等保存方式(インボイス方式)に変更されます。
 適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書(以下「インボイス」)とそれを記帳した帳簿の保存がルール化されました。その結果、消費税上は請求書等をインボイスとインボイス以外の2種類に区分することになります。
 仕入税額控除の対象となるのは、インボイスに限られ、インボイス以外に記載されている消費税は仕入税額控除の対象外となります。

【参考資料】

<ここがポイント>

 今まで消費税上仕入税額控除が認められていた請求書等が、インボイスでないと認めないというルールになるため、実務上の混乱を避けるための激変緩和措置として経過措置が設けられています。インボイス以外に記載されている消費税額についても

  • 令和5年10月~令和8年9月までは消費税額の80%相当額
  • 令和8年10月~令和11年9月までは消費税額の50%相当額

を仕入税額控除の対象にするとされました。
 これが意味することは、インボイスを交付してもらえない事業者からの課税仕入れについては、本来であれば本体価格10%のコストアップとなるところを、当初3年間は2%、その後の3年間は5%のコストアップで済むということになります。

第2問 請求書に明記される?

消費税インボイス制度では、請求書等にインボイスであることが明記されている。

<回答>

 正解は、「×」です。

<解説>

 参考資料の6項目が記載されている請求書等(1枚に全て表現されている必要はなく、納品書や通知書等複数の書類で確認できれば問題ありません)がインボイスとされ、その6項目の中には、当該請求書等がインボイスであることを明記することは含まれていません。
 いまのところ多くの事業者は「インボイスである旨」を明記しないことが予想されており、受け取った者が登録番号等をキーにして個別に判断することになります。

【参考資料】

<ここがポイント>

 6要件のうち、②から⑥までの5要件は基本、現在の請求書等で表現されていると考えると、ポイントは①の登録番号が追加の要件となります。したがってインボイスの交付を受ける側では、この登録番号の有無がインボイスかどうかを見分ける判断基準になります。

 ただし、消費税インボイス制度上では一枚の請求書等でインボイスの要件を満たす必要はなく、複数の情報との合わせ技でもインボイスの要件を満たすとされました。すなわち、請求書自体に登録番号の記載がなくとも、取引先から入手した登録番号が記載されている通知書等との合わせ技でインボイスと判断することができます。また、インボイスの保存省略が認められる取引もありますので、誰がどこまで確認するのかの仕組みづくりが重要です。

第3問 公共交通機関特例

駅の券売機でICカードに5,000円チャージして4,000円を電車とバスで使用。
1,000円は前払費用で処理し、残り4,000円については費用処理。
4,000円については公共交通機関特例の適用を受けられるためインボイスは不要である。

<回答>

 正解は、「〇」です。

<解説>

 ICカードを使って電車、バス、船舶の公共交通機関を利用した場合は公共交通機関特例の適用を受けられるためインボイスは不要です。
 なお、ICカードでタクシーの支払いを行った場合は、インボイスを取得する必要があります。

【参考資料】

<ここがポイント>

 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合の、帳簿に通常必要な記載事項には

  • 課税仕入れの相手方の住所又は所在地
  • 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨

を記載することが必要とされています。

 ただし、インボイス通達4-7で課税仕入れの相手方の住所又は所在地の記載が免除されるものが①、③、④、⑤、⑥、⑧、⑨となっているため、「公共交通機関特例」「3万円未満の鉄道料金」等のコメントを追加し、帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受ける旨を表示する必要があります。
 一方、住所又は所在地の記載が免除されない②と⑦については、「目黒区自販機」「三菱UFJ銀行目黒支店」といった程度の情報でよいとされています。

第4問 出張旅費特例

東京から広島まで新幹線で往復し、新幹線往復切符購入代金約4万円を個人のクレジットカードで支払った。個人が会社宛てに立替経費の請求をする際、3万円以上のため公共交通機関が発行するインボイスが必要である。

<回答>

 正解は、基本「×」と考えます。

<解説>

 東京から広島への移動は、日帰りであっても一般的には出張と考えられます。
 出張旅費特例によりインボイス保存義務省略の適用を受ける場合、インボイスの保存は不要となります。もし出張ではないと整理する場合は3万円以上のため、公共交通機関が発行するインボイスが必要となります。
 なお、公共交通機関特例は1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定する(インボイス通達3-9)ため、今回は片道ずつ購入すれば公共交通機関特例の適用が受けられると考えられます。

【参考資料】

<ここがポイント>

 公共交通機関特例は、事業者が従業員を通じて公共交通機関へ支払っていると考え、原則インボイスが必要としつつ、3万円基準を設けて省略可能な範囲を限定しました。
 一方、出張旅費特例は、事業者が従業員に支払ったと考えます。従業員からインボイスの交付を受けることはできないため、出張旅費であれば電車代、飛行機代、宿泊代、タクシー代も不要という整理になりました。
 出張旅費特例の適用を受けるためには、出張旅費規程の有無は関係なく、当該行為が出張であれば良いと考えられます。

第5問 出張旅費特例とコーポレートカード

東京から大阪まで出張し、新幹線往復切符購入代金28,000円をコーポレートカードで支払った。
出張旅費特例により、インボイスは不要である。

<回答>

 正解は、「○」ですが、理由は「×」と考えます。

<解説>

 出張旅費特例は従業員個人に対する支払いに適用され、会社が鉄道会社に支払う場合は適用されません。コーポレートカードの場合、会社が直接鉄道会社に支払っていることになるため、出張旅費特例は適用されません。
 一方、今回は3万円未満のため公共交通機関特例によりインボイスは不要となります。

【参考資料】

<ここがポイント>

 会社によっては、出張に係る飛行機代やタクシー代については領収書の提出をルール化しているところもあります。今回の出張旅費特例は消費税インボイス制度におけるインボイスの保存省略のルールに過ぎず、会社の現行ルールを変える必要はありません。

 とはいえ、消費税上のルールと会社のルールとの折り合いをどうつけるかの整理は必要かと考えます。会社のルールを踏まえ、インボイスのない部分について公共交通機関特例で打ち取るのか、出張旅費特例で打ち取るのかを整理するのが分かりやすいのではないでしょうか。

 そのためにも、まず出張旅費の定義を行い、それ以外を公共交通機関特例の対象とするなどの整理をすることをお勧めします。

第6問 内定者に支給する交通費等

内定者が内定式など入社日前の会社イベントに参加する際、会社が内定者に支払う交通費や宿泊費については、内定者は従業員ではないため出張旅費特例は使えず、インボイスの無い取引として処理した。

<回答>

 正解は、「×」と考えます。

<解説>

 出張旅費特例における従業員等は、役員、使用人とされています。使用人は、企業と雇用関係がある者を示すため、例えば企業と業務委託契約を締結している者の出張旅費については適用されません。
 内定者は入社前ですが、企業と雇用関係があると認められ、従業員に含まれると考えられますので、出張旅費特例の適用を受けインボイスの取引として処理します。

第7問 採用面接者に支給する交通費

採用面接で来社した者に対し、交通費として一律2千円を支給していますが、インボイスの提供を受けることは困難な状況です。
ただし、出張旅費特例によりインボイスの保存省略が適用されるため、インボイスの保管は不要である。

<回答>

 正解は、「×」と考えます。

<解説>

 今回は一律2千円を交通費相当額として支給しています。その金額には交通費以外の要素も含まれるため、公共交通機関特例の適用は受けられないと考えられます。
 では、問6と同様の出張旅費特例の適用は受けられないでしょうか。出張旅費特例における従業員等は、役員、使用人とされており、使用人は企業と雇用関係がある者とされています。採用面接で来社した者は、内定者とは異なり、入社前での企業と雇用関係がある者とは認められないため、インボイスが必要な取引となりますが、課税事業者でないケースが殆どのためインボイス以外の取引として処理する必要があります。

<ここがポイント>

 採用面接に来社した者に対して、交通費の実費を支給する場合はどうでしょうか?
 会社が面接試験のために来社した者を通じて公共交通機関に支払ったと整理できると考えますので、公共交通機関特例の適用を受けられるのではないかと考えます。

第8問 社員に支給する通勤手当

社員に支給する通勤手当については通常3万円以上のため、公共交通機関特例の適用は受けられず、社員には公共交通機関から交付を受けたインボイスを提出するよう指示した。

<回答>

 正解は、「×」です。

<解説>

 通勤手当のうち、通勤に通常必要と認められる部分※の金額については、消費税上は一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
 したがって従業員に公共交通機関から交付を受けたインボイスを提出させる必要はありませんが、会社がその提出をルール化している場合は、これを敢えて変更する必要はありません。

※通勤に通常必要と認められる部分
「通勤者につき通常必要であると認められる部分」とは、インボイス通達4-10にて、事業者が通勤者に支給する通勤手当が、当該通勤者がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとした場合に、その通勤に通常必要であると認められるものをいう。したがって、所得税法上の《非課税とされる通勤手当》に定める金額を超えているかどうかは関係ありません。

第9問 タクシーチケット

取引先を接待した後、当社が用意したタクシーチケットを取引先に渡して自宅まで帰宅頂いた。
タクシー会社の領収書は当社には無いため、インボイスの無い取引として取り扱った。

<回答>

 正解は、「○」と「×」が考えられます。

<解説>

 タクシーチケットにはいろんな種類があります。例えば、組合に加入している複数のタクシー会社で利用できるケースの場合、使用されたタクシーチケットの請求書が当該組合から会社宛てに送付されますので、そこでの請求書がインボイスの要件を満たしているかどうかで判断することになります。
 また、JCBやVISAといったクレジット会社が発行するタクシーチケットの場合、手元にはクレジット会社からの利用明細書しかありません。この場合はインボイスが無い取引になると考えられます。
 いずれにしても制度がスタートした後、個々の状況で判断する必要があります。

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