更新日 2020.02.03
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
税理士 吉田 公彦
令和元年度(平成31年度)税制改正では、消費税率の引上げに対する税制上の支援策等が講じられたほか、イノベーション促進のための研究開発税制の見直し、国際課税の見直しや納税環境整備等が行われました。当コラムでは令和2年3月期決算法人向けに令和元年度税制改正の内容と本年度申告に影響を与える平成30年以前の改正の項目についてポイントを解説します。
4.中小法人の範囲の見直し
平成29年度税制改正において「適用除外事業者」の除外規定が、令和元年度(平成31年度)税制改正においては「みなし大企業」の範囲の見直しが行われました。これらの規定により資本金の額または出資金の額が1億円以下であっても租税特別措置法上の中小企業者向けの特例措置の適用に制限がかかることになります。さらに、中小法人等の軽減税率の特例(措法42の3の2)の適用有無等、両改正項目で制限される特例措置の内容が微妙に異なっていることにも注意が必要です。
自社の資本金の額または出資金の額が1億円超である法人には直接関係のない項目ではありますが、子会社等を含めるならば改めて要件の確認が必要となるでしょう。
(1) 「みなし大企業の範囲」の見直し
資本金または出資金の額が1億円以下の法人のうち、以下のいずれかに該当するものを「みなし大企業」といいます。
- ① その発行済株式等の2分の1以上が同一の「大規模法人」に所有されている法人
- ② その発行済株式等の3分の2以上が複数の「大規模法人」に所有されている法人
令和元年度(平成31年度)税制改正により「大規模法人」の範囲が次の通り拡充されるとともに、その判定対象となる法人の発行済株式等からその有する自己株式を除外するものとされました。(措法42の4⑧七、42の6①)
(2) 適用除外事業者
その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える中小企業者は「適用対象事業者」に該当し、租税特別措置法上の中小企業者向けの特例措置の適用に制限がかかることとなります。なお、ここでいう所得金額とは各事業年度における欠損金の繰越控除適用後の金額をいいます(措法42の4⑧八、措令27の4)。所得金額の3年平均により判定することから、適用除外事業者への該当有無が微妙な法人については、事前のシミュレーションも必要と考えられます。
5.その他
(1) 法人の保有する仮想通貨の取扱い
企業会計基準委員会から実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」が公表されたことに伴い、令和元年度(平成31年度)税制改正により法人税法上の取扱いが整備されました。一部において会計上の取扱いと異なることに注意が必要です。主な内容は以下の通りです。
(2) 定期保険等の保険料の取扱いに関する改正
過度な節税効果を持つ保険商品を規制するため、国税庁は以下のとおり法人税基本通達の一部改正を行いました。
- ① 令和元年7月8日以後契約分の定期保険等で、最高解約返戻率が50%超のものについては、以下の通り保険料の一部を資産計上することが原則とされました。(法基通9-3-5の2)
- ② 令和元年10月8日以後契約分の解約返戻金相当額の無い短期払いの定期保険又は第三分野保険(短期払いのがん保険等)について、支払事業年度で損金算入を認められるためには、年間支払保険料が30万円以下であることが要件の一つとされました。(法基通9-3-5(注)2)
6.おわりに
本稿では割愛していますが、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制等については適用期限が延長されたほか、令和元年度(平成31年度)税制改正では事業継続力強化税制(BCP対策税制)が創設される等、中小企業向けの優遇税制が数多く盛り込まれています。
また、消費税に関しては税率の改正と複数税率への移行、これに伴う経過措置等が数多くあります。詳細については他稿に譲りますが、申告の実務としては令和元年10月前後の取引の再確認、各種経過措置の適用の有無を確認するとともに、申告書の様式も大幅に変更となることから事前のチェックを行っておく必要があります。
なお、「収益認識に関する会計基準」については令和3年4月1日以後開始事業年度からの強制適用を控えており、本申告年度で早期適用を行う会社については、これに対応する法人税法及び通達の改正についても合わせて確認して頂ければと思います。
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