法人税法における収益の計上基準

第3回(最終回) 収益の計上時期の「原則」は何か

更新日 2017.03.27

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

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税理士 朝長 英樹

「法人税法における収益の計上基準」というテーマで全3回にわたって解説をします。法人税法における収益の計上基準に関しては、法人税法22条の条文に即して「取引」の捉え方と「収益の額」や「損失の額」の捉え方を正しく認識し、同条の創設趣旨等も確認した上で、正しく理解する必要があります。

 収益の計上時期の原則に関しては、現在、権利確定主義(権利確定基準)によることとなっているという誤った理解が広く存在します。
 本コラム(収益の計上時期の「原則」は何か)においては、この誤った理解を正す解説をします。

1.現在の法人税法の創設(昭和40年)前における収益の計上時期の「原則」は「権利確定主義」

 現在、収益の計上時期の原則は「権利確定主義」(「権利確定基準」と読み替えてもよいでしょう。)であるという解説等が数多く存在する状況となっています。法令及び通達が収益の計上時期の「原則」を「権利確定主義」としていないことが明らかであるにもかかわらず、何故、このような状況が生じているのかということも、興味あるテーマではありますが、それは措くとして、まず、「権利確定主義」が収益の計上時期の「原則」とされていた昭和40年前の状態を確認してみましょう。
 昭和40年度税制改正前の旧法人税法においても、収益の計上時期の「原則」に関する定めは設けられていませんでしたが、税制調査会の税法整備小委員会の昭和39年1月20日の「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」の次の記載から分かるとおり、旧法人税法においては、収益の計上時期の「原則」は「権利確定主義」であるという説が有力であったことは、間違いありません(注)。

「4 所得の発生時期

(1) 税法は、期間損益決定のための原則として、発生主義のうちいわゆる権利確定主義をとるものといわれているが、税法上個々の規定について検討するときは、現行税法全体の構造としては、権利確定主義を中核としながらも、その具体的適用は相当広く弾力性に富み、経済の実態及び企業会計の進展に伴つた期間損益決定についての一つの体系を形成しているものと考えられ、細目において差異の生ずるのは課税の公平という租税目的上の要請から当然としても、企業会計における場合の発生主義と結果的には一致している面が多い。
(中略)

(3) 法人税法基本通達「249」は、本文における権利確定主義のただし書として、商品、製品等の販売については引渡基準を認めている。」(15・16頁)

(注)この答申の「発生主義のうちいわゆる権利確定主義」という部分に関しては、後に述べるとおり、「発生」と「権利の確定」は異なる概念ですし、「発生主義」と「現金主義」のいずれになるのかということと、「権利確定主義」になるのか否かということは、そもそも切り口が異なる議論ですから、「発生主義」と「権利確定主義」の位置付け方が適切ではない、と言わざるを得ません。

 この答申にある「法人税法基本通達「249」」は、次のようなものでした。

(売買損益の帰属の時期)

二四九 資産の売買による損益は、所有権移転登記の有無及び代金支払の済否を問わず売買契約の効力発生の日の属する事業年度の益金又は損金に算入する。但し、商品、製品等の販売については、商品、製品等の引渡の時を含む事業年度の益金又は損金に算入することができる。

 この通達は、確かに、本文において、「売買契約の効力発生の日」の属する事業年度において売買損益の益金算入を求めるものとなっています。
 しかし、「契約の効力の発生」と「権利の確定」は異なるため、「売買契約の効力発生の日」を基準としたものを「権利確定主義」と言い得るのかという点には、疑問があります。「法人税法基本通達「249」」は、正確に言えば、「契約効力発生主義」を原則とするものと言わなければならなかったものと考えます。
 このような点からもうかがわれるとおり、昭和40年前においては、収益の計上時期の「原則」は、一応、「権利確定主義」と言われてはいるものの、その内容に関しては、何を以って「権利の確定」と判断するのかということが明確ではなかったり私法上の「権利の発生」の時期を明確にするのが難しかったりするなどの問題があり、当時も、さまざまな批判がなされています。

2.現在の法人税法における収益の計上時期の「原則」は「引渡基準」であることが明白

 法人税法22条2項に関して、『昭和40年 改正税法のすべて』においては、次のような説明がなされています。

「また、この項の規定は、益金の額の内容を規定するものであると同時に、いわゆる期間損益に関する事項を規定したものであります。この点は「当該事業年度の収益の額」というこの「の」によって表現されているのであって、「当該事業年度に帰属する収益の額」と解されます
 この点については、「当該事業年度において実現した収益の額」とするべきかどうかについて検討の行われたところでありますが、この実現という用語は主として企業会計の用語であって、この実現という用語の確定した内容というものも必ずしも統一的に解されているかどうかについて疑問があるのみならず、現在の税務慣行上の収益計上時期についての取り扱いがこの実現の内容にほぼ近いものと考えられるとしてもこれが一致するという保証がないため、実現という用語を用いることは避けられることとなったものです。なお、この収益の額をどのような基準によって当該事業年度に帰属させるべきか、あるいは如何なる表現によって具体的にその帰属関係を明らかにするかについては、なお今後の検討にゆだねられている事項と考えられます。」(103頁)

 この説明の前半部分からは、収益の計上時期の「原則」の問題は、法人税法22条2項の「当該事業年度の収益の額」の「当該事業年度の」という部分の解釈の問題であるということを確認することができます。この部分の解釈について、『昭和40年 改正税法のすべて』においては、上記の説明の前半部分にあるとおり、「当該事業年度の」の「の」は「帰属する」と「解されます」という見解が述べられているわけです。昭和40年に法人税法の立法を担当された方々の当時の『昭和40年 改正税法のすべて』以外の解説においても、この「の」が重要である旨の説明が各所で行われています。しかし、筆者としては、「の」と規定したとしても収益の計上時期の「原則」の問題が何ら解決するわけではないことから、「当該事業年度の」の「の」は、あまり重要ではなく、しかも、法令において用いられる「の」という用語は、「係る」などの用語よりも、なお一層、前後のつながりを多義的で曖昧に示す用語ですから、さまざまな解釈が可能であり、この「の」が「帰属する」と解されるとする見解には、賛成し難いと考えています。この「の」が「帰属する」という意味内容のものであれば、「帰属する」という法令用語(注)が存在し、他の法人税法の規定でも用いられているわけですから、「の」ではなく、「帰属する」という用語を用いるべきです。「帰属する」という用語を用いずに、「の」という用語を用いながら、「の」の解釈が「帰属する」ということであるという主張には無理があると感じます。

(注)「帰属する」という法令用語は、「通常、何らの行為又は処分を要せずに、法律上当然に移転の効果が国その他の者に対して発生する場合に用いられる用語である。」(吉国一郎他『法令用語辞典』)とされています。

 上記の説明の後半部分の「今後の検討」は、法律に定めるための「今後の検討」を意味するのか、あるいは、通達によって解釈を示すための「今後の検討」を意味するのか、必ずしも明確ではありませんが、昭和44年には、40年の法人税法の創設を受けて、法人税基本通達の抜本改正が行われており、その中で、棚卸資産の販売による収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-1)や固定資産の譲渡による収益の額の帰属の時期(同2-1-3。現在は、同2-1-14)に関して、法人税法22条2項の「当該事業年度の」の解釈が示されています。収益の計上時期の「原則」に関する定めが法律に定められなかったとしても、実務においては、常に問題となるわけですから、国税当局としては、収益の計上時期の「原則」に関する解釈は、必ず、示さなければなりません。

(注)上記の「今後の検討」が何を意味するのかということは必ずしも明確ではないわけですが、昭和40年に大蔵省主税局において法人税法の創設に携わられた武田昌輔先生他の方々が同年から昭和44年までの間に書かれた解説等は、いずれも次に述べる法人税基本通達の解釈を支持する内容となっています。

 昭和44年当時のこれらの通達は、次のとおりです。

(たな卸資産の販売による収益の帰属の時期)

2-1-1 たな卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあつた日の属する事業年度の益金の額に算入する。

(固定資産の譲渡による収益の額の帰属の時期)

2-1-3 固定資産の譲渡による収益の額は、その引渡しがあつた日の属する事業年度の益金の額に算入する。ただし、法人が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日以後引渡しの日までの間における一定の日にその譲渡による収益が生じたものとして当該日の属する事業年度の益金の額に算入したときは、これを認める。

 これらの通達に関する昭和44年当時の解説は、それぞれ次のとおりです。

1 たな卸資産の販売による収益
 商品、製品等のたな卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあつた日の属する事業年度の益金の額に算入するものとされている(基通2-1-1)。
 これは、商品、製品等の販売収益は、いわゆる引渡基準によるべきことを明らかにしたものといえよう。
 この考え方は、今回の新基本通達で初めて明らかにされたわけのものでもなく、従来からあつたものであるが、ただ、従前の考え方では、売買契約の効力発生日基準を原則とし、商品、製品等については、引渡基準によることができることとしていたものを、今回、商品、製品等の一般の会計処理基準の考え方をとり入れ、引渡基準を原則とすることとしたものである。」(国税庁法人税課課長補佐 米山 鈞一「資産の販売損益等について」税経通信(昭和44年11月臨時増刊)6頁 税務経理協会)

2 固定資産の譲渡による収益
 固定資産の譲渡による収益の額は、その引渡しのあつた日の属する事業年度の益金の額に算入するものとされている(基通2-1-3)。
 これは、固定資産の譲渡収益についても、たな卸資産と同じく基本的には引渡基準によることを明らかにしたもので、従来の考え方が売買契約の効力発生の日を基準としたのに比べるとかなりの改正があつたものといえよう。しかし、固定資産の譲渡については、一般に引渡基準による慣行が確立していると断定するには問題があり、契約内容の実態に応じてその引渡しの日前に収益として計上することが行われることも否定できないところである。
 そこで、税務上の取扱いとしても、法人がその固定資産の譲渡に関する契約の効力の発生の日以後引渡しの日までの間における一定の日にその譲渡による収益が生じたものとしてその日の属する事業年度の益金の額に算入したときは、その処理を認めることとしている(基通2-1-3ただし書)。 」(同前6・7頁)

 これらの解説からも、収益の計上時期の「原則」は、「権利の確定」や「実現」ではなく、「引渡し」とされたことが明確であり、旧法人税基本通達249の「権利確定主義」が「引渡基準」に変更されていることを明確に確認することができます。
 第1回(法人税法における「取引」をどのように捉えるか)において図で示した「取引」の捉え方の例でいうと、債権者(現物出資法人)は「債権 1,000」の「引渡し」があった時に「損失 900」を損金の額に算入しなければならない、ということになります。この損金算入時期は、債務者(被現物出資法人)が「債権 100」を取得した時や債権者自身が「株式 100」を取得した時ではないという点に留意する必要があります。「取引」を正しく捉えた上で、収益の計上時期の原則が「引渡基準」であることを正しく理解すれば、収益の計上時期に関しても、着眼点が明確になって的確な判断ができるようになる、ということです。

 収益の計上基準に関しては、法人税基本通達や個別通達に多くの取扱いが定められていますので、実務においては、「原則」が何かということを考える必要はあまりないはずですが、これらの通達の定めに当てはまらないケースやこれらの通達の定めにあるケースとは少し違いがあるというケースなどが出てきた際には、注意が必要です。収益の計上時期の「原則」を「権利確定主義」と勘違いして収益の額を計上すると、過大申告や過少申告となることがあり得ます。

 以上で「法人税法における収益の計上基準」に関する解説を終わります。
 この3回の解説は、第1回が法人税法における「取引」の捉え方、第2回が「収益の額」や「損失の額」の捉え方、第3回が収益の額の計上基準の「原則」というように、いずれも法人税法を理解する上での基礎と言ってもよいものですが、これらを正しく理解せず、収益の計上基準の「原則」は実現主義であるとして課税が行われたり権利確定主義であるとして課税が行われたりするケースも現に生じています。この3回の解説で述べさせて頂いたことは、広く他の項目の理解にも関係することとなる基礎知識として必須のものであるとともに、収益の計上時期に関する実務においてもしっかりと理解しておくことが求められるものである、ということです(注)。

(注)法人税法における収益の計上基準の「原則」は権利確定主義によるべきであるとする主張が出てくるのは税法の解釈論に原因があると考えられるわけですが、これについては、「借用概念を巡る学説を検証する―第3回」(T&Amaster(ロータス21)2017.2.13 No.678)において説明をしていますので、ご参照下さい。

 この3回の解説が法人税に関わるお仕事をされる皆様方に僅かなりともお役に立つようであれば、幸いです。

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