更新日 2017.03.21
株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹
「法人税法における収益の計上基準」というテーマで全3回にわたって解説をします。法人税法における収益の計上基準に関しては、法人税法22条の条文に即して「取引」の捉え方と「収益の額」や「損失の額」の捉え方を正しく認識し、同条の創設趣旨等も確認した上で、正しく理解する必要があります。
第1回(法人税法における「取引」をどのように捉えるか)で述べた「取引」から生ずるものとされている「収益の額」や「損失の額」が法人税法22条においてどのように捉えられているのかということも、正しく理解しておかなければならないわけですが、現在、これに関しても、少なからず、誤解が生じている、と考えられます。
本コラム(「取引」から生ずる「収益の額」「損失の額」はどのように捉えられているか)においては、この誤解を解く解説をします。
1.現在の法人税法の創設(昭和40年)前の利益・損失と資本等取引の関係
現在の法人税法が創設される前(昭和40年前)においては、法人税法における利益や損失(現在の法人税法における「収益の額」や「損失の額」)の捉え方は、現在とは大きく異なっていました。昭和20年以後に関して言えば、昭和25年を境に大きく前後に分けることができると考えられますが、同年前においては、資本等取引から生ずる利益や損失もその殆どが「總益金」や「總損金」となるものとされていました。
例えば、大蔵省主税局や国税庁の職員として法人税法の改正や法人税の執行に携わっておられた方が昭和24年に著された書籍(松井静郎『税務會計の實務』中央経済社、昭和24年)には、次のような記述があります。
「法人が額面以上の價格を以て株式を発行した場合の額面超過額及び株式の消却・切下等の場合に於ける計算上の差額も總益金を構成する。」(46頁)
「法人が資産の出資又は譲渡に因る利益に對する課税を免れんとして、右の如く譲渡の對價として交付された資産を時價以下に評価して受入れた場合は、時價と受入れた價額との差額はこれを交付資産に對する評價減と見て、法人の損益を益算するのが原則である。」(66頁)
「法人の總益金とは資本の拂込以外に於て純資産增加の原因となるべき一切の事實をいふのであるから、資本の減少に因る差益も亦法人の總益金を構成する。」(181頁)
※上記引用中の下線は、筆者が付したものであり、以下、同様です。
昭和25年以後は、額面超過金及び払込剰余金の益金不算入(旧法法9の2)、加入金の益金不算入(旧法法9の3)、減資益金の益金不算入(旧法法9の4)、合併減資益金等の益金不算入(旧法法9の5)、減資払戻超過額の損金不算入(旧法規16)などの規定が個別に定められ、これらによって、額面超過額等の多くは、「總益金」や「總損金」に算入されないこととなりました。しかし、このように個別に額面超過額等を「總益金」や「總損金」に算入しないという定めを設けるということは、額面超過金等は原則として「總益金」や「總損金」になるという前提があるということを意味しています。
このように、昭和40年前は、資本等取引から生ずる利益や損失も原則として「總益金」や「總損金」となるとされていたため、資本等取引から生ずる利益や損失も、損益取引から生ずる利益や損失と同じように、その計上基準が問題となっていました。
2.現在の法人税法の創設時(昭和40年当時)の「収益の額」「損失の額」と資本等取引の関係
現在、法人税法においては資本等取引から「収益の額」や「損失の額」は生じないものとされていると考えておられる方が殆どではないかと考えられますが、これは、明らかに誤っています。資本等取引から「収益の額」や「損失の額」が生ずると考えるのか、あるいは、生じないと考えるのかにより、法人税法22条の理解が変わってきます。
『昭和40年 改正税法のすべて』においては、法人税法22条3項3号において「損失の額で資本等取引に係るもの」と規定した理由が次のように説明されています。
「資本取引による損失が生ずる場合があるので、これを除外したものであります」(103・104頁)
そして、さらに、次のような記述もなされています。
「この資本等取引により生じた収益または損失の額は、益金の額または損金の額に算入されないこととなっている」(104頁)
また、昭和40年度税制改正を主導された武田昌輔先生は、『法人税法〔理論篇〕』(財経詳報社、昭和43年)の「3 資本取引に係る収益および損失」と題したところで、次のように述べておられます。
「税法が究極において問題にしているのは、資本等取引によって生ずる収益および損費についてである。したがって、資本増加の場合において生ずる収益および損失の発生、つまりプレミアム、減資益、合併差損および減資差損等は、課税所得の計算上益金の額および損金の額にそれぞれ算入されないこととなる。」(204頁)
これらの記述から、現在の法人税法においても、資本等取引から「収益の額」や「損失の額」が生ずると考えられていることを明確に確認することができます。
第1回(法人税法における「取引」をどのように捉えるか)において引用した法人税法22条2項と3項3号に関しても、それらの文言を正確に読んでみると、資本等取引から「収益の額」や「損失の額」が生ずることが分かります。すなわち、資本等取引から「収益の額」や「損失の額」が生ずるということでなければ、「資本等取引以外のものに係る(中略)収益の額」(2項)や「資本等取引以外の取引に係るもの」(3項3号)という規定の仕方はできないわけです。
ところで、この資本等取引から生ずる「収益の額」や「損失の額」を益金の額や損金の額に算入すべきか否かという問題に関しては、「算入すべきでない」という答になることが自明であると思われるかもしれませんが、実は、そうではありません。法人税法22条2項の「当該事業年度の収益の額」という部分の前にある「資本等取引以外のものに係る」という部分には、そもそも、資本等取引から生ずる「収益の額」や「損失の額」を昭和40年に一括して益金の額や損金の額としないとしたことは適切ではなかったのではないか、という非常に重要な問題が存在します。
ただし、本コラムは、法人税法22条2項の「当該事業年度の収益の額」の解釈について解説をするものですから、「資本等取引以外のものに係る」という部分に存在する問題にまでは言及せず、そのような問題が存在するということだけを指摘しておくこととします。
3.純資産を増減させるものは全て「収益の額」「損失の額」という前提
昭和40年度税制改正によって制定された現在の法人税法も、同改正前の法人税法と同様に、法人の純資産を増加させたり減少させたりするものは全て「収益の額」と「損失の額」になるという前提に立ち、22条他の規定を設けています。現在の法人税法には、純資産の増加が所得の金額となるという旨の文言自体が存在するわけではありませんが、昭和40年当時の解説を読むと、現在の法人税法における所得の金額の計算に関する規定は、そのような考え方に基づいて設けられていることが明確です(注)。
(注)法人税法22条について、資本等取引に伴うものを除いて全ての「収益の額」が益金の額となると解するためには、2項の「その他の取引」がその文言の前に掲げられている「資産の販売」等と同種のものに留まらず広く「取引」を含むものとなっていなければならないわけですが、「その他の」という用語は、その前にある用語が例示となる関係にありますので、その前にある用語が例示となっていると言い得るものしか含まず、「その他」より、その指す範囲が限定されることになります。
このため、現在のように「その他の」とした場合の対象範囲と「その他」とした場合の対象範囲とを比べて、前者の対象範囲は後者の対象範囲よりも狭い、という議論が有り得ます。つまり、2項の「・・・資産の譲受けその他の取引で・・・」という部分を「・・・資産の譲受け、その他取引で・・・」とすれば、「取引」は「資産の販売」等が例示となる概念ということにはならないため、「取引」の概念を積極的に説明することが必要となるわけですが、そのように手間が掛かることとはなっても、本来は、その方が適切ではなかったのか、という指摘が有り得るということです。
このため、「収益の額」として計上基準が問題となるものは、資本等取引に伴うものを除いて法人の純資産を増加させる全てのものということになり、その範囲が非常に広くなります。
ところで、法人税法22条においては、「収益の額」や「損失の額」と「益金の額」や「損金の額」とは異なるものとして位置付けられており、同条2項において問題となるのは、厳密に言えば、「収益の額」の計上基準がどのようなものかということではなく、「収益の額」を「益金の額」に算入する基準はどのようなものかということです。このため、一般に「収益の計上基準」と呼ばれているものは、「収益の額の益金の額への算入基準」と言い換えて検討するべきであるという指摘が有り得ます。
この点に関しては、「収益の額」を計上すれば純資産が増加して純資産が増加すれば所得の金額が増加するという関係を前提にして考えると、この「収益の額」が資本等取引に係るものを除いたものであるという事情があったとしても、最終的には「収益の額の益金の額への算入基準」の問題となるものを「収益の計上基準」の問題と捉えることには、特段、弊害はない、と言ってよいものと考えられます。換言すれば、「収益の額」や「損失の額」と「益金の額」や「損金の額」とは異なるものとして位置づけられていることを承知した上で、法人税法22条の解釈を「収益の計上基準」の問題と捉えるということであれば、特に問題は生じない、ということです。
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