更新日 2017.01.30
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 伊藤 明弘
組織再編等を活用して繰越欠損金や含み損を利用することがありますが、実務上の具体的な判断が難しいケースも少なくありません。また、租税回避行為に対応するために様々な制限規制が課せられているため、制度趣旨を理解する必要もあります。当コラムでは、組織再編の中でも合併と欠損法人等を買収するケースを取り上げ、繰越欠損金の利用と制限について解説します。
会社が他社に買収された際に、その会社の繰越欠損金や含み損の使用が制限されることがあります。その一例として、繰越欠損金を有する休眠会社を買収し、その買収後、休眠会社に所得が発生することが見込まれる事業を移転して休眠会社の繰越欠損金を使用しようとするスキームが考えられます。今回のコラムでは、この様な明らかに欠損金利用目的の企業買収が行われた場合の制限規定である「特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用」の規定を解説します。
規定の概要
欠損等法人は、特定支配日以降5年を経過した日の前日までに一定の事由に該当する場合には、その該当日の属する事業年度の前事業年度以前に生じた繰越欠損金を使用することができなくなります。合併等による繰越欠損金の使用制限規定とは違い特定支配関係の発生した後に生じた欠損金についても使用制限が掛かってしまう点が本規定の特徴的なところとなります。
欠損等法人
欠損等法人とは、下記の(1)(2)に該当する内国法人のことです。
- (1) 株主構成が変更したことに伴って他の者との間に他の者による特定支配関係を有することとなったこと。
- (2) 特定支配関係が生じた事業年度において、その前事業年度以前に生じた繰越欠損金又は評価損資産を有するもの。
- ※特定支配関係とは、発行済株式等の50%超を直接又は間接に保有する一定の関係で、一定の債務処理計画に基づく株式の発行等により関係が生じた場合を除きます。
- ※評価損資産とは、含み損の金額が1,000万円と資本金等の額の1/2のうち小さい金額以上である固定資産、有価証券、金銭債権、資産調整勘定等のことです。
制限のきっかけとなる事由
制限のきっかけとなる一定の事由は、5つの類型が規定されています。それぞれある一定の状況にあり、さらにトリガーとなる事由が生じるといった2段階の要件が規定されています。
(1) 休眠会社にて事業を開始する場合
前提事由 | トリガー事由 |
---|---|
|
|
(2) 旧事業を廃止して、新事業を開始する場合
前提事由 | トリガー事由 |
---|---|
|
|
(3) 特定債権を取得し、新事業を開始する場合
前提事由 | トリガー事由 |
---|---|
|
|
※特定債権とは、債権金額の50%未満の金額で取得された債権で、特定支関係を有することとなった者及びその関連者の有するその債権の額が欠損等法人の債務の総額の50%超であるものをいいます。
(4) (1)~(3)の前提事由の発生後、合併又は残余財産が確定する場合
前提事由 | トリガー事由 |
---|---|
|
|
(5) 従業員を退職させ、新事業を開始する場合
前提事由 | トリガー事由 |
---|---|
|
|
プロフィール
税理士法人 髙野総合会計事務所
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
・公認会計士・税理士 髙野 角司(たかの かくじ)
・税理士 石井 宏和(いしい ひろかず)
・税理士 内藤 敦之(ないとう あつし)
・税理士 伊藤 明弘(いとう あきひろ)
- 著書等
-
- 『(二訂版)繰越欠損金と含み損の引継ぎを巡る法人税実務Q&A』(税務研究会出版局)
- ホームページURL
免責事項
- 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
- 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
- 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。