災害時の開示

第16回 国税庁の法令解釈通達「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」と質疑応答事例

更新日 2011.04.25

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公認会計士 中田 清穂TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

災害による決算発表や報告書の期限延長に関する解説や、決算短信や有価証券報告書での記載事例を解説します。

 国税庁は4月18日「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「費用通達」)を公表しました。
 また、「東日本大震災関係諸費用(災害損失特別勘定など)に関する法人税の取扱いに係る質疑応答集」(以下「費用通達Q&A」)も合わせて公表しました。

 2011年3月期の税務申告だけでなく、連結決算にも影響があるので注意が必要です。2011年4月以降から、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、遡及処理基準)の適用がスタートするので、慎重かつ適切に、法人税計算と税効果会計の適用をするように心がけてください。

 また、「費用通達」と「費用通達Q&A」ということで、2つの文書に分かれているために、理解を進めにくい部分もあると思われるので、2つの文書を合体させて、関連する項目に一覧性をもたせるように表形式にまとめました。
 作成した一覧表は、本コラムの末尾にある「費用通達とQ&Aの一覧表」からダウンロードしてください。

 ただし、今2011年3月期の税務申告と連結決算に関する部分に焦点を当てたため、税務上の中間仮決算や来年度以降に必要となる災害損失特別勘定の戻入などに関しては、一覧表からは割愛しています。
 したがって、中間仮決算や災害損失特別勘定の戻入などについても内容を確認されたい方は、「費用通達」と「費用通達Q&A」を直接ご参照ください。
 「費用通達」と「費用通達Q&A」の参照先も本コラムの末尾でお知らせしています。

 さて、今回の通達での重要ポイントは、以下だと思います。

  1. 見積額の損金算入を認めていること
     被災資産の修繕費用について、2011年3月期には実際の支出がなく、2011年4月以降に実際の修繕費用に関する支出が見込まれる場合に、「災害損失特別勘定」として見積計上した金額を損金として認めています。
     税務会計では、財務会計と比べて、費用の見積もり計上をあまり認めないので、特例的です。
  2. 損金経理を要件としていないこと
     3月決算法人など、すでに決算作業が終了している可能性があるので、申告調整での損金算入を認めています。
     すなわち、「災害損失特別勘定」の繰入額を2011年3月期の損益計算書に“計上していなくても”、申告書で損金算入(課税所得の減算処理)できるのです。
     損金経理要件は、日本の税制の大原則なので、こちらは極めて特例的だと言えるでしょう。

 上記重要ポイントから、2011年3月期決算においては、以下の点に留意することが望まれます。

  1. 連結財務諸表における「未払法人税」及び「法人税等」の適切な計上
     被災した子会社や親会社の個別財務諸表がすでに作成済みで、連結決算作業に突入している上場企業は多いと思います。
     被災した子会社や親会社の個別財務諸表では、今回の「費用通達」や「費用通達Q&A」の内容を知らなかったことから、課税所得を計算する際に、見積計上した「災害損失特別勘定」の繰入額を否認し、「未払法人税」及び「法人税等」が多めに計上されていることが予想されます。
     この場合、以下の対応が考えられます。
    1. 個別財務諸表を作り直させて、連結決算担当者に再送付させて、連結決算作業を合算処理からやり直す。
    2. 個別財務諸表は作り直さず、各社の「未払法人税」及び「法人税及び住民税等」が適切な金額になるように、連結手続きとして、修正仕訳を作成し、すでに合算している金額に、当該修正仕訳を加味して、連結決算手続きを進める。
       少なくとも、有価証券報告書では、親会社単体の個別財務諸表は開示する必要があるので、親会社は①の方法、すなわち個別財務諸表を作り直す必要があるでしょう。
  2. 税効果会計での適切な対応
     被災した子会社や親会社の個別財務諸表では、今回の「費用通達」や「費用通達Q&A」の内容を知らなかったことから、課税所得を計算する際に、見積計上した「災害損失特別勘定」の繰入額を否認していた場合には、将来減算一時差異として税効果会計を適用していたと思われます。
     しかし、損金算入が認められることになると、一時差異ではなくなるので、「災害損失特別勘定」の繰入額に対して計上していた税効果仕訳を取消す手続が必要になるでしょう。
     この場合も、上記(1)と合わせて、以下の対応が考えられます。
    1. 個別財務諸表を作り直させて、連結決算担当者に再送付させて、連結決算作業を合算処理からやり直す。
    2. 個別財務諸表は作り直さず、各社の「繰延税金資産」及び「法人税等調整額」が適切な金額になるように、連結手続きとして、修正仕訳を作成し、すでに合算している金額に、当該修正仕訳を加味して、連結決算手続きを進める。
       少なくとも、有価証券報告書では、親会社単体の個別財務諸表は開示する必要があるので、親会社は①の方法、すなわち個別財務諸表を作り直す必要があるでしょう。
  3. 決算スケジュールの再確認
     冒頭でも触れたように、2011年4月以降から、遡及処理基準が適用開始になるので、上記(1)や(2)の処理を適切にしておかないと、2011年3月期の財務報告に「誤謬」があることになります。
     そうなると、2011年4月に開始する事業年度以降に作成する財務諸表や連結財務諸表を「修正再表示する」つまり作り直す必要があります。
     このため、連結決算手続きを無理に例年通りのスケジュールで進めても適切に対応できるかどうかを見極めて、必要があれば、決算発表、有価証券報告書の提出及び株主総会のための計算書類の作成などの日程を後ろにずらすことも、真剣に検討されることをお勧めします。
     3月決算企業の有価証券報告書の提出期限を、6月末から延期するかどうかは、金融庁からまだ正式には発表されていませんが、「3月決算企業などについては、本年9月末までに提出すれば済む特例を設ける予定です。」という記載が、金融庁のサイトに掲載されています。

東京証券取引所からは、3月18日に以下の概要の発表が行われています。

1.決算発表について
  1. 決算発表の時期
     通期の決算発表及び四半期の決算発表については、本地震災害により速やかに決算の内容を把握・開示することが困難な場合には、「45日以内」などの時期にとらわれる必要はない。
     決算内容が確定できたところでの発表で良い。
  2. 決算短信における業績予想
     本地震災害により業績の見通しを立てることが困難な場合には、決算短信及び四半期決算短信において、業績予想を開示する必要はない 。
2.有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延に係る上場廃止基準の適用について

 当該特別措置の適用を受けた上場会社に対しては、政令で定める期限 を有報等の提出期限とみなして適用する。
 したがって、「有報」や「四報」の提出が本来の期限に間に合わない場合でも、監理銘柄に指定したり、上場廃止基準に該当するか否か確認したりすることもない。

詳しくは、当コラム第2回を参照してください。

「費用通達」と「費用通達Q&A」を合体させて作成した一覧表は、以下からダウンロードしてご利用してください。A4で4枚の表形式です。

費用通達とQ&Aの一覧表

 

国税庁の文書「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」(費用通達)へのリンクはこちらからです。確定申告書への添付書類のフォーマットと記載要領もあります。

また、国税庁の文書「東日本大震災関係諸費用(災害損失特別勘定など)に関する法人税の取扱いに係る質疑応答集」(費用通達Q&A)へのリンクはこちらからです。

本文は有限会社ナレッジネットワーク社ホームページの『カレントトピックス(災害時の開示)』に掲載された記事の転載となります。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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