災害時の開示

第2回 特定非常災害特別措置

更新日 2011.04.01

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公認会計士 中田 清穂TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

災害による決算発表や報告書の期限延長に関する解説や、決算短信や有価証券報告書での記載事例を解説します。

 平成23年3月13日(日)に、内閣府(防災担当)、総務省及び法務省から以下の名称の政令が公布されました。

「平成23年東北地方太平洋沖地震による災害についての特定非常災害及び
 これに対し適用すべき措置の指定に関する政令」

 以下、この政令の概要と上場企業の開示業務に与える影響を解説しますが、結論を先に示すと、2月期決算の企業までは有価証券報告書の提出期限は、6月30日まで延長できますが、3月期決算企業の有価証券報告書の提出期限については、元々6月30日が提出期限なので、まだ対象になっていないということになります。

【内閣府(防災担当)、総務省及び法務省】
 まずは、政令について解説します。

1 政令の趣旨

 「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」という法律があります。(本コラムでは、略して「特定非常災害特別措置法」と呼びます)。
 阪神・淡路大震災に対応するために立法された行政上の権利利益の満了日の延長等に関する各種特別措置を、政令で定められるようにして、将来の大規模災害発生時に「迅速に発動できるよう」制度化したものです。
 1996年6月7日に成立し、同年6月14日に施行されています。大規模な非常災害(特定非常災害)について適用されるものです。
 今回、これが活かされたのです。
 今回の東北地方太平洋沖地震も大規模な非常災害であることから、「特定非常災害」として指定して、「行政上の権利利益の満了日の延長等」を行うことにより、被災者の権利利益の保全等を図ろうとしているのです。

2 政令の概要

  1. 東北地方太平洋沖地震による災害を特定非常災害として指定する。(法第2条)
     特定非常災害発生日は、平成23年3月11日とする。
  2. この特定非常災害に対し、次に掲げる措置を適用する。
    1. 行政上の権利利益の満了日の延長(運転免許証の有効期限の延長等)
       特定非常災害の被害者が、自動車運転の免許のような有効期限のついた許認可等の行政上の権利利益について、更新等のために必要な手続をとれない場合があることを考慮して、許認可等に係る有効期限を一定程度(平成23 年8 月31 日までの範囲)延長することができる。(法第3条)
      ※ 延長措置を講ずる具体的な行政上の権利利益は、各府省等の告示により別途指定。
    2. 期限内に履行されなかった行政上の義務の履行の免責
       履行期限のある法令上の義務が、特定非常災害により本来の履行期限までに履行されなかった場合であっても一定期限まで(平成23 年6 月30 日まで)に履行された場合には、行政上及び刑事上の責任を問われない。(法第4条)
    3. 法人に係る破産手続開始の決定の留保
       特定非常災害により債務超過となった法人に対しては、支払不能等の場合を除き、一定の期間(平成25 年3 月10 日まで)破産手続開始の決定をすることができない。(法第5条)

 上記政令により、特に上場企業への影響がある項目として、金融庁や東京証券取引所から以下のような内容の公表が行われています。

【金融庁】

1.有価証券報告書、半期報告書、四半期報告書について

 東北地方太平洋沖地震は、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」第2条第1項に規定する特定非常災害に指定された。
 これにより、東北地方太平洋沖地震による災害により本来の提出期限までに提出されなかった場合であっても一定期限まで(平成23年6月30日まで)に提出された場合には、行政上及び刑事上の責任を問われないこととなる。
 これらの書類について、同災害により提出期限までに提出できないおそれがある場合には、開示書類の提出先財務局に相談することが必要。

(中田の解説)
 「一定期限」を「平成23年6月30日まで」としたのは、上述の「特定非常災害特別措置法」第4条第1項で「政令で、特定非常災害発生日から起算して四月を超えない範囲内において特定義務の不履行についての免責に係る期限を定めることができる」という規定があるからです。今回の起算日は平成23年3月11日です。
 したがって、まだ3月期決算の企業については、特別措置は行われていないということになります。

2.臨時報告書について

 東北地方太平洋沖地震という不可抗力により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱う。
 なお、臨時報告書そのものの作成は可能な状態にあるが、被災資産の帳簿価額の算定等ができない場合には、

  1. まずは重要な災害が発生した旨の臨時報告書を提出し、
  2. 概算額ないし見込額を算定した段階で、その額等を記載した訂正臨時報告書を提出

という手続きで差し支えないこととする。

 次に東京証券取引所のWEBサイトで公表された内容をまとめます。

【東京証券取引所】

1.決算発表について:

  1. 決算発表の時期
     通期の決算発表及び四半期の決算発表については、本地震災害により速やかに決算の内容を把握・開示することが困難な場合には、「45日以内」などの時期にとらわれる必要はない。決算内容が確定できたところでの発表で良い 。
     また、本地震災害により決算発表が大幅に遅れる場合には、以下の項目の開示が望ましい。
    1. 本地震災害により決算発表が大幅に遅れる旨
    2. 開示時期の見込みが立つようであればあわせてその旨
  2. 決算短信における業績予想
     本地震災害により業績の見通しを立てることが困難な場合には、決算短信及び四半期決算短信において、業績予想を開示する必要はない 。

2.有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延に係る上場廃止基準の適用について:

 当該特別措置の適用を受けた上場会社に対しては、政令で定める期限を有報等の提出期限とみなして適用する。したがって、「有報」や「四報」の提出が本来の期限に間に合わない場合でも、監理銘柄に指定したり、上場廃止基準に該当するか否か確認したりすることもない。
 また、有報等を本来の提出期限までに提出できず、特別措置が適用されることとなった旨の開示も必要ない。
 ただし、特別措置の適用を受ける場合には、東証に連絡するよう要請されている。

3.意見不表明を受けた場合の上場廃止基準の適用について:

 本地震災害により、上場会社の財務諸表又は四半期財務諸表等に添付される監査報告書又は四半期レビュー報告書において意見不表明等が記載されることとなった場合でも、監理銘柄指定及び上場廃止の対象とはならない。
 またその旨の開示も必要ない。

 以上が、「特定非常災害特別措置法」に関連する政令が公布されたことによる上場企業の開示に関連する動きです。

 今後は、前回のコラムでも触れたとおり、今月末を目途としている、日本公認会計士協会からの実務指針が待たれます。

 また、3月期決算の企業の有価証券報告書についての取扱いについても、延長等が認められるような措置が望まれます。

***今回のコラムで参照したWEBサイトは以下です。***
【内閣府(防災担当)、総務省及び法務省】
「平成23年東北地方太平洋沖地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」について:
http://www.bousai.go.jp/oshirase/h23/110313-2kisya.pdf

【金融庁】
平成23年3月11日発生の東北地方太平洋沖地震を踏まえた金融商品取引法に基づく開示書類の取扱い:
http://info.edinet-fsa.go.jp/

【東京証券取引所】
東北地方太平洋沖地震を踏まえた決算発表等に関する取扱いについて:
http://www.tse.or.jp/news/07/110318_e.html

本文は有限会社ナレッジネットワーク社ホームページの『カレントトピックス(災害時の開示)』に掲載された記事の転載となります。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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