2019年10月号Vol.116

【特別寄稿】デジタルファースト時代の
地方自治体の「デジタル化」を考える

内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室
企画官 浦上 哲朗

1990年代から急速に進んだ地方自治体の情報化。新たな転換点を迎えたいま、「デジタル化」があらためて注目されている。そこで内閣官房IT総合戦略室企画官の浦上哲朗氏に、地方自治体のデジタル化についてご寄稿いただく。

「デジタル化」は目的?
デジタル化について理解を深めよう

長谷川尚一 情報政策調整官

●浦上 哲朗(うらかみ・てつろう)
1999(平成11)年、総務省(旧自治省)入省。総務省自治行政局住民制度課課長補佐、内閣府沖縄振興局総務課課長補佐、総務省自治行政局行政課大都市制度専門官、同省自治行政局行政課行政企画官、和歌山県総務部長などを経て、2018年7月より現職。

 2019年5月に「デジタル手続法」が成立しました。
 「地方自治体は努力義務」ということもあるのでしょうか、自治体職員の間でデジタル手続法の認知度はまだまだ高いとはいえないと感じています。手続オンライン化も重要な論点ですが、本法によりデジタル3原則が法律に規定されたことはあまり知られていません。これは国も地方自治体もどちらにも適用されるルールです。その意味を各職場で、少し立ち止まって考えてみていただきたいと思います。
 例えば、3原則の一つ「デジタルファースト原則」とはどういうことでしょうか。これは〈原則として、個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結すべき〉というルールです。このルールは、従来の紙を基本とする行政の仕事のやり方を根本的に変えることを迫っています。確かに、これだけでは「デジタル化」が目的化していると誤解を生む恐れがあります。このような規定が〈なぜ法制化されたのか〉ということへの理解が非常に重要で、そのためには〈デジタル技術の進歩により世の中がどのように変わりつつあるのか〉を考える必要があります。
 一番分かりやすいのは、政府が国を挙げて推進する「Society5・0」という施策でしょう(政府広報で1分程度の紹介ビデオがあるのでぜひご覧ください)。そこには近未来の社会が描かれています。
 注目していただきたいのはSociety5・0を可能とする技術です。
 例えば、ドローン宅配のシーン。これは物理的な情報をセンサー等によりデジタル化したデータとし、そのデータを自動的かつ大量に集めてAI等で処理をして、人や物を動かすという仕組みです。これによりルーティンの仕事から人を解放し、真に人が行うべき仕事に集中させることや、これまで人ができなかった仕事を行えるようにすることで、人口減少社会を克服し、地域社会の維持・活性化を図る狙いがあります。
 デジタル化は今後の新しい社会を構築する上で鍵になります。それは民間事業者だけの話ではありません。行政においても労働力不足が大変深刻になることが確実です。総務省は地方自治体に対し、2040年に持続可能な形で行政サービスを提供できるよう事務処理方法や体制の見直しを求めています。デジタル化はその解決のための一つの手段です。デジタル手続法にデジタルファースト原則が盛り込まれたのは、そのような背景があるからです。

「地方自治体のデジタル化」が
目指す姿を共有しよう

 では、地方自治体が事務を処理する上で「デジタル化」とはどういうことなのでしょうか。例えば、真っ先に「AIの活用」をイメージする方もいると思います。保育所の入所調整にAIを活用した事例では、手作業で延べ約1500時間要していた業務が数秒で完了し、結果も手作業とほぼ同じでした。この事例は今後の「地方自治体のデジタル化」の姿を示す画期的なものといえるでしょう。今後も技術の進化に伴い、さまざまな分野でさまざまなAIが活用されていく可能性があります。
 他方、自治体職員であれば利用調整に関する事務がそれだけではないことは容易に想像がつくでしょう。住民からの申請を受け、その情報をシステムに入力して管理し、そのデータを使って保育所の利用調整を行い、その結果を住民に通知する──など一連の業務が存在します。その中で住民から相談を受けたり、苦情処理をしたり、保育所との調整をする等の業務もあります。
 この場合、紙で申請を受け付けているならば〈オンラインで申請を受け付ける〉。あるいは、申請に必要な情報を得るために、住民に多くの添付書類を求めているのであれば〈他団体との情報連携等により添付書類を削減〉する。また、申請データは〈RPA等を活用してシステムに自動入力〉する。さらに自治体が個別にシステムを所有するのではなく、〈クラウド技術を活用して共同利用〉する。このようなデジタル化の取り組みを一貫して行うことで業務を自動化して事務の効率化を進め、その結果として浮いた時間や資金を〈保育に悩む親の相談に費やす〉など、職員が真にやるべきことに集中することができます。
 このほか、AIを活用して経験や勘ではなくデータに基づき保育園設置を政策決定する(EBPM※)ことも考えられます。住民の状況に応じて必要なサービスをプッシュ型でお知らせすることや、行政が持っている保育園の入所空き情報等を〈機械判読可能〉な形でオープンデータとして公開すれば、住民や民間事業者がそれを活用して保育に悩む若い世代への新しいサービス提供につながるかもしれません。
 このように、地方自治体のデジタル化とは、単に〈情報システムを構築する〉〈手続きをオンライン化する〉のではなく、利用者視点に立ってエンドツーエンドで一連のサービスを見直し、デジタル化することで、①事務を効率化するとともに、行政サービスを〈すぐ使えて・簡単・便利〉に向上させる②それに影響された民間事業者にもデジタル化の取り組みを促す──といった姿を目指しているものです。

デジタル手続法時代のオンライン化
これまでと、何が違うのか?

 一方、地方自治体のデジタル化の取り組みはどうなっているのでしょうか。「官民データ活用推進基本法」に基づく計画策定状況を見ると、積極的に取り組もうとする自治体と、何をしていいのか分からないでいる自治体とに二分されるようです。このような状況の中で、国全体で、まずどこからデジタル化を進めるかを考えたとき〈住民との接点〉の部分ではないか、ということでデジタル手続法が制定されました。
 住民との接点部分がアナログのままだと、その後の行程でのデジタル化がなかなか進みません。また、これをデジタル化することで、行政だけでなく民間のデジタル化を促す狙いもあります。もちろん、地方自治体はこれまでも手続オンライン化へ取り組んできました。総務省が指定する重点手続は年々利用率が増え、最新では52・4%となっています。一方で、まだ260団体で電子申請システムがなく、さらに〝汎用〟的な電子申請システムがない市町村はそれ以上に存在すると思われます。
 デジタルファーストの原則が規定され、あらゆる事務でこの原則が適用されると考えれば、まず第1ステップとして、どのような事務でも手続オンライン化ができる環境を整えるべきです。つまり、すべての自治体に汎用の電子申請システムがあることが必要です。
 この点、これまでと違うのは、国が地方自治体も利用できる汎用の電子申請受付システムとして「マイナポータル」を提供していることです。マイナポータルは子育てや介護、被災者支援などの分野でガイドラインを出しているため、その手続きしか登録できないと思われがちです。しかし、実はマイナポータルへ一度つなげば、地方自治体が自由にさまざまな事務の手続きを登録することができます。
 現に、職員採用試験や市長への投書等の手続きを登録している自治体があります。まずはガイドラインにある子育てや介護の手続きを登録し、さらにさまざまな分野の手続きをマイナポータルに登録していただきたいと思います。それには、国も地方も協力して「マイナポータルを育てていく」という意識が重要でしょう。
 では、汎用の電子申請システムがすでにあり、マイナポータルにもさまざまな手続きを登録した市町村では何をすべきでしょうか。
 例えば、「対面の手続きをデジタルで受け付けること」を考えてはいかがでしょう。これまでは、手続オンライン化は書面で行うものに追加的に行う措置という位置付けでした。しかし、デジタルファーストが原則となり、なぜ非対面の時だけデジタルで、対面の時は住民に紙の申請書を書かせるのでしょうか。今や、タブレット等は安価なものとなりました。マイナンバーカードがあれば、カードから読み取ることで4情報を住民に記入してもらうことがなくなります。職員にとっても、申請内容をシステムに入力する手間がなくなるわけです。ぜひ、窓口改革を実施していただきたいと思います。
 また、例えば「バックオフィスも含めたエンドツーエンドのデジタル化」を目指してみてはいかがでしょうか。非対面でオンライン申請を受け付けた後、紙に出力してから、審査後にシステムへ入力する──という団体が多いと思いますが、これは大変もったいない話です。デジタルで受け付けたものをそのままシステムに取り込めるよう見直しをしていただければと思います。
 これらと並行して、積極的に取り組んでいただきたいのはマイナンバーカードの普及です。デジタル化された社会はとても便利で効率化された社会です。一方、本人確認をどのように確実に行うかが最も大きな課題です。
 マイナンバーカードは、対面でも非対面でもセキュアに本人確認できる国家的なインフラです。現場では、交付等の事務執行に大変ご苦労をおかけしていますが、これまでと違ってカードの重要性に多くの方が気付き始めています。2020年度には国民全体に普及されているよう、国と地方がともに協力して取り組めればと考えます。

図1 運用時間の拡大〈納税者等に対するサービス時間〉

デジタル化された地方自治体を
後輩につないでいこう

 このほかにも、添付書類の見直しや手数料納付のオンライン化、さらには自治体クラウド、事務・システム・データの標準化、RPAやAIの活用など、ここでは書き尽くせない課題がたくさんあります。
 IT総合戦略室では、開発の段階から地方自治体の共同利用を前提としたシステム等を提案する場として、「自治体ピッチ~Pitch to Local Governments~」を企画しています。職員の皆さんの意見がシステムを育てます。オンライン中継もありますので、ぜひご参加ください。
 地方自治体のデジタル化への道のりはまだまだ長いですが、国と地方自治体が協力して、山積する課題を一つ一つ解決していきたいと考えています。そして、デジタルネイティブ世代に、デジタル化された地方自治体をしっかりと引き継ぐこと──それが、私たち世代の使命だと思います。

政府広報オンライン Society5.0
https://www.gov-online.go.jp/cam/s5/

※EBPM:Evidence Based Policy Making/証拠に基づく政策立案

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