更新日 2026.11.02

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 小形 剛央
企業経営の羅針盤である中期経営計画とはどのようなものか、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)で求められている企業経営における中期経営計画への取り組み方法について紹介します。
当コラムのポイント
- 企業価値とは企業が将来にわたって稼ぐ能力
- 中期経営計画は企業価値の向上につながる
- 魅力的な中期経営計画のポイントは経営理念・経営戦略・顧客ニーズ・成長・変化・対話
- 目次
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1.「資本コストや株価を意識した経営」のポイントを踏まえた中期経営計画
(1) アップデートの概要
東京証券取引所では、上場会社の企業価値向上に向けた自律的な取り組みや投資者との建設的な対話を促すため、2023年3月から、プライム市場・スタンダード市場の全上場会社を対象に「資本コストや株価を意識した経営」を要請しており、2026年4月に、これまでの要請をアップデートする形で、「経営資源の適切な配分」を中心とした投資家の期待や取り組みのポイントを取りまとめました。
更なる取り組みの推進に向けた対応のポイントは、①中長期的な経営方針(目指す姿や成長の道筋) を明確に示せているか、②目指す姿に向けた資本の使い方(配分や優先順位) を明確に示せているか、③保有する資産について、価値創出のため最適な状態となっているか、④ ①~③について、取締役会レベルで、実効的な議論・監督を行っているかです。
(2) 対応のポイント①中長期的な経営方針
中長期的な経営方針として、「どのような強みや競争優位性を軸として、どう価値を創出していくのか」「それはなぜ可能なのか」といった事業戦略・成長戦略を明確にするとともに、その実現に向けて「経営資源をどの分野・事業に重点的に振り向けていくのか」といった優先順位や、その結果として目指す事業ポートフォリオを整理し、示すことが期待されます。あわせて、収益性や資本効率等に関する定量的な目標や、現状の課題認識等を示すことにより、企業が目指す成長の道筋を具体的に伝えていくことがポイントとなります。
(3) 対応のポイント②資本の使い方
中長期的な経営方針に沿って、将来の稼ぐ力の向上につながる成長投資を、積極的かつ規律を持って進めていくことが期待されます。その上で、手元資金の適正水準も踏まえ、余資がある場合には機動的に株主還元を行うという考え方が重要です。成長投資の対象としては、設備・研究開発・人的資本・その他無形資産等への投資、M&A等が考えられます。
(4) 対応のポイント③保有する資産
バランスシートにおいて着目すべき点は、「持つべき資産を持っているか」「不要な資産を保有していないか」という点です。具体的には、バランスシート上の資産について、成長投資や事業運営、リスクへの備え等の観点を考慮しつつ、現預金の水準が適切であるかどうかを検証するとともに、現預金以外の資産についても、資本コストを意識して中長期的な価値創出の最大化に資する状態となっているかを検証し、必要な改善につなげていくことが期待されます。
あわせて、バランスシートに表れない人的資本や知的財産などの無形資産についても、目指す姿の実現に向けて必要な資産の形成・維持・強化ができているかを検証し、必要な投資を積極的に進めていくことが重要となります。
2.経営理念・長期ビジョン・経営戦略に基づいた中期経営計画
(1) 経営理念~企業の存在意義~
経営理念は、企業の存在意義や社会的使命、大切にする価値観を明確にしたものであり、時代や環境が変化しても揺らぐことのない経営の羅針盤です。魅力的な中期経営計画を策定するためには、まず「自社は何のために存在し、どのような企業を目指すのか」を明確にし、経営者と従業員がその理念を共有することが不可欠です。経営理念は企業の魂であり、目指す姿と具体的な経営戦略を結びつけ、魂の通った中期経営計画を実現するための原点となります。
また、創業の精神をもつ企業もあります。社是・社訓のほか、近年ではパーパス・ミッション・バリューといったものも該当します。
ピーター・F・ドラッカーは、「成功を収めている企業の成功は“われわれの事業は何か”を問い、その問いに対する答えを考え、明確にすることによってもたらされている。」という言葉を残しており、経営理念の大事さを説いています。
(2) 長期ビジョン~企業はどこに向かおうとしているのか~
長期ビジョンは、企業が5~10年後に実現したい「目指す姿」を明確にしたものであり、ワクワクするような大きな夢や高い目標、高い志を示すものであることが望まれます。
その際には、「なぜそのようなビジョンを掲げているのか」を経営理念等との関係で明確にするとともに、「どのようにそのビジョンを達成していくのか」という具体的な成長の道筋を経営戦略等において示すことが不可欠です。
長期ビジョンは、企業の未来に向けた挑戦の方向性を示し、経営者と従業員の夢や志を共有するとともに、魅力的な中期経営計画を実現するための道しるべとなります。
(3) 経営戦略~そのために、企業は何をなすべきか~
経営戦略は、経営理念や長期ビジョンを実現するために、「企業は何をなすべきか」を明確にし、目指す姿を具体的な行動へと結びつけるものです。
実行性を高めるために、顧客ニーズや市場環境の変化を的確に捉え、企業の持続的な成長に向けた戦略を描くことが不可欠です。そのためには、PEST分析、3C分析、SWOT分析、ファイブフォース分析等による現状分析を踏まえて本質的な課題を把握し、アンゾフの成長マトリクス、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント) 、競争戦略、ブルーオーシャン戦略等を活用して、企業が進むべき方向性と成長の道筋を明確にすることが重要です。
経営戦略は、経営理念や長期ビジョンを「絵に描いた餅」に終わらせることなく、「現状分析→戦略立案→経営目標の設定→個別計画の策定」を通じて、魅力的な中期経営計画を実現可能な行動計画へと具体化するための要となります。
3.非財務情報を含む中期経営計画
非財務情報は、将来の財務業績や企業価値を生み出す要因を示すものであり、企業の持続的な成長を実現するための重要な先行指標です。また、人的資本、知的資本、社会・関係資本、自然資本等を有効活用し、継続的な研究開発や設備投資、人材育成を通じて、中長期的な企業価値の向上を図ることが重要です。そのため、売上高や利益等の財務目標だけでなく、ブランディング、顧客ロイヤルティ、研究開発活動、人材育成、従業員エンゲージメント、ESG等に関する非財務目標を明確にすることが不可欠です。
非財務情報は、将来の財務業績を生み出す「成長の種」であり、財務目標と非財務目標の因果関係を明確にすることで、魅力的な中期経営計画の実行力を高め、持続的な企業価値の創造を支える重要な役割を果たします。
4.PDCAが行われる中期経営計画
PDCAは、中期経営計画を「絵に描いた餅」に終わらせることなく、経営目標の達成に向けて継続的な改善を図るための重要なマネジメントサイクルです。
中期経営計画を実現するためには、経営者が主体的に取り組み、経営計画の策定(PLAN)、従業員への周知と実行(DO)、KPIやバランスト・スコアカード等を活用した進捗管理(CHECK)、計画と実績の差異分析及び解決策の実行(ACTION)、さらに経営計画を修正(PLAN) 、実行していくという「PDCAサイクル」を繰り返すことが必要です。
また、従業員の自発的な行動を促すためには、現実的かつ具体的な行動目標に落とし込むことが重要です。さらに、柔軟性のある行動目標にするために、自己の努力で達成すべき「必達活動」と、外部環境の影響も受ける「チャレンジ活動」を明確にすることが効果的です。加えて、短期的な成果を積み重ねることで、従業員の達成感と意欲を高め、計画の実行力を強化します。
PDCAは、経営者のリーダーシップと従業員の主体的な行動を結びつけ、環境変化に応じた計画の見直しと継続的な改善を通じて、魅力的な中期経営計画を確実な成果へと導くための原動力となります。
5.対話できる中期経営計画
ステークホルダーとの対話は、企業の目指す姿や成長の道筋を共有し、経営計画への共感と信頼を高めるとともに、持続的な企業価値の向上を実現するための重要な取り組みです。
株主・投資家、金融機関、顧客、取引先、地域社会等のステークホルダーが企業に何を求めているのかを的確に把握し、その期待にどのように応えていくのかを明確に示すことが不可欠です。
また、経営理念から長期ビジョン、経営戦略、具体的な行動計画に至るまでを一貫したストーリーとして語り、企業が社会にどのような価値を提供し、どのように成長していくのかを分かりやすく伝えることが重要です。
ステークホルダーとの対話は、企業の目指す姿と社会からの期待を結びつけ、共感と信頼に基づく協力関係を築くことで、魅力的な中期経営計画の実現と持続的な企業価値の向上を支える重要な役割を果たします。
今回は、魅力的な中期経営計画について解説しました。ぜひとも、経営理念・経営戦略との結び付きを強固にした中期経営計画を魅力的なストーリーで語れるようになっていただければと思います。また、常に顧客ニーズから始め、成長と変化を入れ込むこと。社内外のステークホルダーとの対話により、皆でブラッシュアップを図り、実行力を伴った中期経営計画を皆のものにすることで、より魅力的な中期経営計画となります。
了
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プロフィール
税理士・公認会計士 小形 剛央(おがた たけひさ)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
- 略歴
- 専門:企業会計(財務会計、管理会計)、戦略経営、事業承継
上場会社の会計顧問・税務顧問を基軸に、多数の中小企業の健全発展を伴走支援によりサポートしている。日本の課題である事業承継についても注力している。 - 著書等
- 『これだけは知っておくべき社長の会計学』幻冬舎
- 『いきなり事業承継成功読本』講談社
- ホームページURL
- ON税理士法人
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