更新日 2026.10.26

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 小形 剛央
企業経営の羅針盤である中期経営計画とはどのようなものか、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)で求められている企業経営における中期経営計画への取り組み方法について紹介します。
当コラムのポイント
- 企業価値とは企業が将来にわたって稼ぐ能力
- 中期経営計画は企業価値の向上につながる
- 魅力的な中期経営計画のポイントは経営理念・経営戦略・顧客ニーズ・成長・変化・対話
- 目次
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1.中期経営計画とは
企業では、経営理念を念頭において、長期ビジョン(5~10年)に基づいて経営戦略が策定されます。さらに、経営戦略に基づいて、中期経営計画(3~5年)が策定され、中期経営計画に基づいて短期利益計画(1年)が策定されます。そして、利益計画に基づいて、ボトムアップを基調とした予算管理(1年)が実施されます。
【中期経営計画の位置付け】
中期経営計画とは、企業が目指す将来像を実現するために、今後3〜5年間の経営目標と、その達成に向けた具体的な戦略・行動・経営資源の配分を明確にした計画です。単なる売上高や利益の数値目標ではなく、「どのような企業になりたいのか」「どの事業で成長するのか」「どのように競争優位性を確立するのか」「ヒト・モノ・カネをどこに配分するのか」を体系的に示すものです。
中期経営計画は、企業の使命を具体的な目標と行動に転換するための経営管理の仕組みと捉えることができます。
2.中期経営計画の策定目的
中期経営計画を策定する目的は次の通りです。
(1) 経営の方向性を明確にする
企業が目指す将来像と、その実現に向けた優先順位を明確にし、経営の羅針盤とします。
(2) 持続的な成長と企業価値の向上を図る
既存事業の売上高や利益の拡大だけでなく、世の中の大きな流れを捉え、新規事業も含めて、収益性、資本効率、競争優位性を高めるための戦略を明確にします。
(3) 経営資源を最適に配分する
限られたヒト・モノ・カネを、どの事業や活動に優先的に投入するかを決定します。
(4) 大きな変化を可能にする
求められる変化の度合いが大きいほど、単年度では取り組むことが難しいため、3年から5年で取り組むことになります。また、適度な危機意識を生み出します。
(5) 組織の一体感と実行力を高める
全社目標を部門別・個人別の目標に展開し、従業員が自分の仕事と企業の成長との関係を理解できるようにします。
(6) ステークホルダーとの信頼関係を構築する
株主・金融機関・取引先などに経営方針や成長戦略を説明し、対話や協力を促進します。
3.中期経営計画の策定方法~経営目標の設定~
中期経営計画は、単に「3〜5年後の売上・利益目標」を作るのではなく、「どこを目指し、そのために何を変え、何に経営資源を集中するか」を決めるものです。中期経営計画で必要となる具体的な目標は、ピーター・F・ドラッカーが著書『現代の経営』で提唱した「目標を設定すべき8つの領域」が参考になります。中でも、マーケティングとイノベーションが中心となります。
(1) マーケティング
市場地位について目標を設定するには、まず初めに「顧客は誰か」から始めます。つまり、「自らの市場はどこか」「顧客は誰か」「顧客はどこにいるか」「顧客が何を買うか」「顧客は何を価値と見るか」「顧客の満たされていない欲求は何か」を知る必要があります。
市場地位についての目標は、①既存の製品についての目標、②既存の製品の廃棄についての目標、③既存の市場における新製品についての目標、④新市場についての目標、⑤これらの目標を達成するための流通チャネルおよび価格政策についての目標、⑥顧客が価値ありとみなすサービスについての目標があります。
(2) イノベーション
イノベーションには、①製品とサービスのイノベーション、②製品とサービスの提供の仕方のイノベーションがあります。それらのイノベーションは、市場と顧客のニーズあるいは技術や知識の進歩のための活動から生まれます。
(3) 資金と資源
マーケティングやイノベーションに関わる目標の達成に必要な人的資源、物的資源、資金という3つの経営資源について、確保するための目標を設定します。
また、設備計画も重要です。場当たり的ではなく、計画的に予め十分に検討していることが必要です。
(4) 生産性
人的資源、物的資源、資金という3つの経営資源について、生産性の目標を設定します。付加価値は、生産性の合理的な分析とその改善のための目標設定に有効な数値です。
(5) 利益
事業が生み出し得る最大の利益ではなく、事業があげなければならない最小限の利益を明らかにします。ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)は、要求される利益の目標設定に有効な指標です。
(6) マネジメント能力
マネジメント能力については、①目標と自己管理による方向づけ、②経営管理者の仕事の設計、③組織の文化、④組織の構造、⑤明日の経営管理者の育成に関して目標を設定することが必要です。
(7) 人的資源
人的資源については、人材の価値を最大限に引き出すことが重要です。2020年9月に公表された「人材版伊藤レポート」において、人材戦略における3つの視点と5つの共通要素が示されています。
- 「人材戦略は経営戦略やビジネスモデルに応じて個社性がある一方で、①経営戦略と人材戦略の連動、②As is‐To be ギャップの定量把握、③人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着、といった3つの視点から俯瞰することが可能である。
- また、人材戦略については、①動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化(②知・経験のダイバーシティ&インクルージョン、③リスキル・学び直し、④従業員エンゲージメント)、⑤時間や場所にとらわれない働き方といった、5つの共通要素も存在。こうした、3 つの視点(Perspectives)、5 つの共通要素(Common Factors)は、3P・5F モデルとして整理できる。
- 企業においては、こうした共通の要素に加え、自社の経営戦略上重要な人材アジェンダについて、経営戦略とのつながりを意識しながら、具体の戦略・アクション・KPI を考えることが有効である。」
出典:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」2020年
(8) 社会的責任
社会的責任とは、「世のため人のため」の目標です。
正しいことをして儲けるということが大切です。社会に貢献し、仁義道徳に基づいた経営を実践する考え方であり、一万円札の肖像にもなっている渋沢栄一氏の『論語と算盤(そろばん)』にも通じるものです。近年では、「パーパス経営」や「ESG経営」がこれに該当します。
今回は、中期経営計画の策定目的と策定方法について解説しました。
次回は、魅力的な中期経営計画について解説します。
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プロフィール
税理士・公認会計士 小形 剛央(おがた たけひさ)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
- 略歴
- 専門:企業会計(財務会計、管理会計)、戦略経営、事業承継
上場会社の会計顧問・税務顧問を基軸に、多数の中小企業の健全発展を伴走支援によりサポートしている。日本の課題である事業承継についても注力している。 - 著書等
- 『これだけは知っておくべき社長の会計学』幻冬舎
- 『いきなり事業承継成功読本』講談社
- ホームページURL
- ON税理士法人
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