不動産リースの会計・税務調整~差入保証金の償却を含めて~

不動産リースの会計・税務調整~差入保証金の償却を含めて~

更新日 2025.12.11

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 藤井規生

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会 部会長
TKC企業グループ税務システム小委員会委員

税理士 藤井 規生

新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)が令和9年4月1日以降の事業年度から強制適用されることに伴い、不動産リース取引における会計処理と税務処理の乖離が顕著になっています。特に、差入保証金の償却や礼金・更新料に関する取扱いに留意する必要があります。そこで、不動産リース取引に係る特有の処理について、仕訳の設例を用いて詳しく解説します。

当コラムのポイント

  • 不動産リースにおける差入保証金の取扱い
  • 不動産リースにおける賃料の前払処理
  • 不動産リースにおける別表調整
目次

1.はじめに

 令和9年4月1日以降に開始する事業年度から強制適用される「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)に対応する税務法令及び通達等がようやく出揃ってきました。リース取引の中でも特に従来オフバランス処理されていたオペレーティング・リースが、原則としてオンバランス処理を求められることとなり、不動産賃貸借契約もリースとして認識されるケースが多くなると予想されます。今回は、不動産リースにおいて差入保証金の償却がある場合の会計・税務調整の一例をご紹介します。

2.不動産リースの会計処理の変更点

(1) 使用権資産とリース負債の計上

 借手は、契約にリースが含まれると判断された場合、以下の資産・負債を計上します。

  • 使用権資産:リース期間中に物件を使用する権利
  • リース負債:将来のリース料支払義務の現在価値

 これにより、損益計算書では「減価償却費」と「支払利息」が計上され、従来の「支払賃借料」とは異なる費用構成となります。

(2) 税務との乖離と調整

 法人税法においてオペレーティング・リースは従来通り賃貸借処理(オフバランス)とされ、支払賃借料のうち債務が確定した部分が損金算入されます。(法人税法第53条)
 このため、会計上の費用(減価償却費+支払利息)と税務上の損金算入額(支払賃借料)に差異が生じ、別表四・五(一)での税務調整が必要となります。

3.差入保証金の償却部分に係る会計上の処理および税務上の取扱い

(1) 会計上の処理

 不動産賃貸借契約において、差入保証金を償却する場合、従来は「長期前払費用」として処理し、契約期間にわたり償却することが一般的でした。しかし、新リース会計基準では、契約にリースが含まれると判断された場合、返還されない保証金も使用権資産の取得価額に含め、減価償却により費用化されます。(企業会計基準適用指針第33号 34項)

(2) 税務上の取扱い

 税務上、差入保証金のうち返還されないことが明らかな金額については、原則として法人税法第32条に基づき「繰延資産」として取り扱われ、契約期間またはその支出の効果が及ぶ期間にわたり、償却費として損金経理をした金額のうち、繰延資産の償却限度額に達するまでの金額を各事業年度の損金の額に算入します。また、契約締結時点で返還されないことが確定している金額に係る消費税の仕入税額控除については、消費税法第30条および消費税法基本通達5-4-3に基づき、原則として契約を締結した課税期間において仕入税額控除の対象となります。

4.実務対応ポイント

5.設例「不動産リース取引」

【前提条件】

  • 税務上の取扱いはオペレーティング・リース取引(賃貸借取引)に該当する。
  • 新リース会計基準では、契約にリースを含むと判断した。
  • リース開始日:X 1年4月1日(期首)
  • 保証金差入及び初回賃借料支払日:X-1年3月某日
  • リース期間:6年(契約期間:5年)
  • 月額賃借料:1,650,000円(税込)
  • 消費税率:10% 
  • 割引率:年利3%(月利0.25%)
  • リース負債の算定方法:利息相当額を利息法により処理
  • 支払タイミング:前月末に当月分支払(前払い)
  • 所有権移転条項および割安購入選択権:なし
  • 契約期間満了後の1年間も同条件で継続
  • 借手の付随費用:なし
  • 保証金:20,000,000円(うち、返還されない金額は4,400,000円(税込))
  • 繰延資産の支出の効果が及ぶ期間:5年
  • 決算日:3月31日
  • 単位:円
(1) 賃借料支払予定表

(2) 仕訳等

6.まとめ

 上記の会計処理や税務調整の方法は一例に過ぎず、他にも適切な手法が存在するものと思いますが、新リース会計基準の導入により、不動産リースは税務との乖離が顕著になります。今回ご紹介した差入保証金の償却のほか、礼金や更新料についても、税務上は従来通り繰延資産としての処理が求められます。実務では、契約内容の精査、会計・税務の整合性の確保、正確な別表調整が必要になります。

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