新リース会計基準による税効果会計への影響

第2回(最終回) オペレーティング・リース取引に係る税効果会計への影響

更新日 2025.10.14

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 小山勝

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC全国会 システム委員会 FXクラウド(固定資産)小委員会会員

税理士 小山 勝

新リース会計基準においては、原則としてすべてのリース取引についてオンバランスすることになる一方で、法人税では、いわゆる現行のオペレーティング・リース取引に対して賃貸借処理が継続します。
そのため、多くの企業において、会計上と税務上の処理が不一致となるため、申告調整が必要となります。これらは、税効果会計における将来減算一時差異、または将来加算一時差異となります。

当コラムのポイント

  • 新リース会計基準の税務への影響
  • オペレーティング・リース取引に係る申告調整
  • オペレーティング・リース取引に係る税効果会計
目次

前回の記事 : 第1回 新リース会計基準の税務への影響

1.オペレーティング・リース取引に係る税効果会計

 第1回コラムの「2.オペレーティング・リース取引に係る申告調整」の設例のケースでは、会計と税務で乖離が生じることとなるため、税効果会計の対象となります。新リース会計基準が適用された際に、オペレーティング・リース取引についての税効果会計の処理がどのようになると予想されるか、引き続き、この設例の金額を用いて考えてみます。

(1) 繰延税金資産の回収可能性

 使用権資産に係る部分は「将来加算一時差異」となり、将来にわたって、減価償却見込額を通じて解消していきます。
 一方、リース負債に係る部分は「将来減算一時差異」となり、将来にわたって、リース負債の元本返済見込額を通じて解消していきます。

 繰延税金資産の回収可能性の判断は、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針11項に従って、以下の7ステップで進めていきます。

繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順(一部要約)

  • ① 期末における将来減算一時差異のスケジュールを行う。
  • ② 期末における将来加算一時差異のスケジュールを行う。
  • ③ 将来減算一時差異と将来加算一時差異の解消見込額を解消見込年度ごとに相殺する。
  • ④ 上記③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込み額については、解消見込基準年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異の解消見込額と相殺する。
  • ⑤ 上記①から④により相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングによる見積額を含む)と解消見込年度ごとに相殺する。
  • ⑥ 上記⑤で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見込額と相殺する。
  • ⑦ ①から⑥で相殺し切れなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとし、繰延税金資産から控除する。
(2) 仕訳例・法人税別表5(1)の記載例

 法定実効税率を30%とすると、使用権資産に対する繰延税金負債は、325,673千円×30%=97,701千円となります。また、リース負債に対する繰延税金資産は、333,656千円×30%=100,096千円となります。
 そして、両者の差額である100,096千円-97,701千円=2,395千円が、法人税等調整額として計上されます。

① 仕訳例

② 別表5(1)の記載例

2.(考察)長期にわたる一時差異

 上記の設例では契約期間を4年としましたが、不動産に係る賃貸借取引の場合は、契約期間が数十年であるなど長期にわたることもあります。
 そのような場合に回収可能性の判断をどう考えればよいか、ここでは繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針で設けられている企業区分のうち、分類2と分類3について簡単に考察します。

(1) 分類2についての考察

 分類2に該当する会社が不動産に係る賃貸借取引の契約を締結した場合、そこで発生するリース負債については、スケジューリング可能な将来減算一時差異として、全額が回収可能と判断されるケースがあると考えられます。
 分類2の会社においては、スケジューリング可能な将来減算一時差異については、具体的な解消時期が明確に見積もれる場合、その全額について回収可能性が認められることとされています。そして、不動産に係る賃貸借取引では、毎年の減価償却費の計上見込額やリース負債の返済見込スケジュールを、合理的に見積もれることが多いと思います。したがって、スケジューリング可能な将来減算一時差異に該当するものと思われます。
 ただし、使用権資産に係る減損処理については、スケジューリング不能な将来減算一時差異に該当する可能性がありますので、注意が必要です。

(2) 分類3についての考察

 分類3に該当する会社が、例えば、賃借期間20年の不動産に係る賃貸借取引の契約を締結した場合、そこで発生するリース負債については、解消時期が長期にわたる一時差異として、全額が回収可能と判断されるケースがあると考えられます。
 分類3の会社は、原則として合理的に見積もり可能な期間(おおむね5年)の将来課税所得に基づいて回収可能性を判断しますが、退職給付引当金や減価償却超過額のように解消時期が長期にわたるものであっても、スケジューリングについて合理的に説明することができれば、回収可能性があるものと考えられることとされています。
 したがって、解消時期が見積もり可能な期間(5年)を超えたとしても、最終解消年度(20年後)までに解消されることを合理的な根拠をもって説明することができれば、5年を超える部分も含め、全額について回収可能性が認められるものと考えます。
 この場合の説明は、会社の過去の実績、業績予測、中長期計画に拠るなど、合理的な根拠をもってすることが必要と思われます。

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 小山勝

税理士 小山 勝(こやま まさる)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC全国会 システム委員会 FXクラウド(固定資産)小委員会会員

略歴
2011年9月まで株式会社TKC勤務を経て、現在、税理士法人青山アカウンティングファームに勤務。株式会社TKCでのシステム設計・営業経験を活かし、上場企業から中小企業までの税務顧問業務、会計・税務申告システムの導入・運用コンサルティング等に従事。
主要著書
ホームページURL
税理士法人 青山アカウンティングファーム

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