更新日 2025.06.16
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 佃 百合
新たに税務担当となった方が法人税における固定資産の取扱いや償却資産税について網羅的に学んでいただけるよう解説します。また、実務経験者の方が、改めて固定資産の税務についての知識を整理する際にもご活用いただけます。
当コラムのポイント
- 法人税法における減価償却についての一定の制限と減価償却超過額の考え方について解説します。
- 法人税の別表四、五(一)、十六の記載方法について具体例を挙げて解説します。
- 法人税における固定資産の申請・届出について解説します。
- 法人税法の減価償却と償却資産税の違いについて解説します。
- 目次
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企業会計において減価償却を適正に行うためには、取得価額、償却方法、耐用年数などを合理的に見積もる必要があります。しかしながら、これらの決定をすべて法人の判断に委ねた場合には、税の公平上問題が生じるおそれがあることから、法人税法は恣意性を排除し、課税上の公平性を確保する観点から減価償却に関する事項について規定し一定の制限を設けています。
この会計上の減価償却費と税務上の償却限度額との差額が減価償却超過額となります。
第1回と第2回は、法人税法における減価償却についての一定の制限と減価償却超過額の考え方について解説します。
減価償却の基本的な考え方については既出のTKC WEBコラム「減価償却の論点解説と実務」もご参照ください。
1.減価償却資産の意義
法人税法上、減価償却資産とは棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)で償却をすべきものをいいます。
- (1) 建物及び附属設備
- (2) 構築物
- (3) 機械及び装置
- (4) 船舶
- (5) 航空機
- (6) 車両及び運搬具
- (7) 工具、器具及び備品
- (8) その他一定のもの(無形固定資産や生物)
事業の用に供していないもの(遊休資産など)や時の経過によりその価値の減少しないもの(美術品など)は原則、減価償却は認められません。
2.減価償却の開始時期 ~取得年月日と事業供用日~
「取得年月日」(取得の日)とは、原則として、その減価償却資産の引渡しを受けた日です。取得日に資産計上します。
「事業供用日」(事業の用に供した日)とは、いつでも本来の用途に供することができる状態に至り、使用を開始する日をいいます。例えば、機械装置等の設備を取得し、検収目的で試運転を行っている期間は、本来の用途に供することができるかどうかを確かめている段階であり、まだ事業の用に供していないことになります。
それでは、減価償却の開始はいつからでしょうか?
法人税法上、事業の用に供していない減価償却資産について減価償却は認められませんので、事業供用日が減価償却の開始時期となります。例えば、3月中に減価償却資産を取得、4月から事業の用に供している場合は、4月から減価償却を開始します。
また、租税特別措置法上の優遇税制(特別償却、税額控除)は、事業供用日で適用可否が異なってくる場合がありますので注意が必要です。
3.取得価額
法人税法上、購入した減価償却資産の取得価額は、原則として、その資産の購入代価に購入費用を加算した金額とその資産を事業の用に供するために直接要した費用(事業供用費)の額との合計額とされています。例えば、購入費用には、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税などその資産の購入のために要した費用が含まれます。また、事業供用費には、機械装置等の試運転費などが含まれます。
ただし、次に掲げるような費用については、減価償却資産の取得に関連して支出した費用であっても、取得価額に算入しないことができます。(法基通7-3-1の2、7-3-2、7-3-3の2)
- (1) 次のような租税公課等
- ①不動産取得税または自動車取得税
②新増設に係る事業所税
③登録免許税その他登記または登録のために要する費用 - (2) 建物の建設等のために行った調査、測量、設計、基礎工事等でその建設計画を変更したことにより不要となったものに係る費用
- (3) いったん結んだ減価償却資産の取得に関する契約を解除して、他の減価償却資産を取得することにした場合に支出する違約金
- (4) 減価償却資産を取得するための借入金の利子(使用を開始するまでの期間に係る部分)
(注) 使用を開始した後の期間に係る借入金の利子は、期間の経過に応じて損金の額に算入します。 - (5) 割賦販売契約などによって購入した減価償却資産の取得価額のうち、契約において購入代価と割賦期間分の利息や売手側の代金回収のための費用等が明らかに区分されている場合のその利息や費用
4.償却方法 ~償却方法の選定と法定償却方法~
法人税法では、減価償却資産の償却限度額の計算上選定できる償却方法と法定償却方法が定められています。
法定償却方法とは、複数の償却方法が認められている資産について、償却方法の選定の届出を行わなかった場合によるべき償却方法をいいます。(下表の太字が法定償却方法です。)
したがって、選定できる償却方法が1つである場合には、法定償却方法を定める必要もなく、その方法でしか原則的に償却を行うことができません。
償却方法の選定の届出については第4回で解説します。
出典:日本実業出版社「令和6年度版 法人税申告の実務全書」一部改変
5.法定耐用年数と償却率
減価償却資産の償却限度額の計算で使用する耐用年数と償却率は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表」において、資産の種類、構造、用途等に応じて定められています。法令で定められていますので、これを「法定」耐用年数と言います。
- 別表第一
- 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表
- 別表第二
- 機械及び装置の耐用年数表
- 別表第三
- 無形減価償却資産の耐用年数表
- 別表第四
- 生物の耐用年数表
- 別表第五
- 公害防止用減価償却資産の耐用年数表
- 別表第六
- 開発研究用減価償却資産の耐用年数表
- 別表第七
- 平成19年3月31日以前に取得をされた減価償却資産の償却率表
- 別表第八
- 平成19年4月1日以後に取得をされた減価償却資産の定額法の償却率表
- 別表第九
- 平成19年4月1日から平成24年3月31日までの間に取得をされた減価償却資産の定率法の償却率、改定償却率及び保証率の表
- 別表第十
- 平成24年4月1日以後に取得をされた減価償却資産の定率法の償却率、改定償却率及び保証率の表
- 別表第十一
- 平成19年3月31日以前に取得をされた減価償却資産の残存割合表
出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」
出典:国税庁「減価償却資産の償却率等表」
例えば、測定工具を令和7年5月15日に取得した場合、耐用年数は5年、償却方法として定額法を選定する届出をしていれば償却率は「0.200」となり、償却方法の選定の届出をしていなければ法定償却方法である定率法(200%定率法)、償却率は「0.400」となります。
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プロフィール
佃 百合(つくだ ゆり)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
- 略歴
- 20年以上、税理士業界に従事。主に法人の税務に関与。現在、中野洋税理士事務所に所属。
過去に開催したセミナーでは税法を分かりやすく解説することに定評がある。 - 主な執筆コラム等
- TKC WEBコラム「償却資産申告の留意点~よくある質問Q&A~」
TKC 税務・会計基礎講座「印紙税基礎講座」 - ホームページURL
- 中野洋税理士事務所
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