事業所税の基礎知識

第1回 事業所税の基本的な仕組み(その1)

更新日 2025.06.02

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TKC税務研究所 特別研究員 鈴木 久志

TKC税務研究所 特別研究員

鈴木 久志

事業所税は、都市環境の整備および改善に関する事業に要する費用を充てることを目的とした税金です。このコラムでは、事業所税の歴史、課税団体、課税標準額、納税義務者、非課税規定、税率、免税点、申告・納付方法などについて、事業所税の基礎知識を解説していきます。

当コラムのポイント

  • 事業所税の基本的な仕組み
  • 課税団体と納税義務者
  • 非課税規定
  • 税率と免税点
  • 申告・納付方法
目次

1.事業所税の変遷

 事業所税は、昭和50年に創設され、今年で満50年を迎えることになります。本稿では、その事業所税についての基本的な事項をご紹介します。
 事業所税が創設される前の昭和48年11月に開催された地方制度調査会の答申には「大都市地域においては、人口、企業等の著しい集中に伴い、交通混雑、居住環境の悪化、地価の高騰等の諸問題が発生し、その結果、都市機能が著しく低下し、住民生活に重大な支障を生じている。このような状況に対処するため、各種の都市施設の整備を図る必要があるので、人口、企業等の集中によって増加している財政需要に対応する大都市の税源を充実するとともに、あわせて集中の抑制に資するため、大都市の集積の利益を受けている事務所、事業所に対して新たに負担を求めることとし、小規模のものを除き、目的税として事務所・事業所税を課税することとすべきである」といった内容の記述があります。
 現在も状況はあまり変わっていないのかもしれませんが、当時は、都市部への人口、企業等の集中化による都市機能の低下が生じており、また、都市施設の整備のための財源不足が顕著になっていたという当時の時代的な背景があり、その対応策として事業所税を創設することで、都市部への過剰な集中を抑制し、併せて財源の確保を行うということが事業所税創設の目的であったようです。
 当初の自治省案では、事業所税は、事業所等の新増設に係る税として、その新増設が行われたときに1度だけ課税するという案や、事業を行う者ではなく、その事務所、事業所の所有者に課するという案などもあったようですが、既存の企業等に対しても課税しなければ公平ではないといった意見や、不動産の所有者に課すとした場合には、固定資産税との二重課税といった問題があるのではないか?などの意見を踏まえ、議論を重ねた結果、現行の制度に近い形で落ち着いたようです。
 昭和50年の事業所税の創設時は、現在の事業所税と同様の事業に係る事業所税(事業所割と従業者割)と、現在は廃止されていますが、事業所等の新増設に係る事業所税による課税が行われていました。課税団体については、創設時は、人口50万人以上の市が対象となっていましたが、翌昭和51年には、現在と同様に人口30万人以上の市が対象となり、創設時に設けられていた事業所等の新増設に係る事業所税については、平成15年に廃止されるといった改正を経て、現行の制度となっています。

2.事業所税の概要

(1) 事業所税の課税団体・納税義務者・課税標準

 事業所税は、指定都市等が、都市環境の整備及び改善に関する事業に要する費用に充てることを目的とした目的税であり(地法701の30)、指定都市等が、当該指定都市等に所在する事務所又は事業所(以下「事業所等」といいます。)において法人又は個人が行う事業を課税客体とし、その事業所等において事業を行う法人又は個人を納税義務者として、事業所割(事業所床面積を課税標準とする事業所税)及び従業者割(従業者の給与総額を課税標準とする事業所税)の合算額によって課する税金です(地法701の32①)。

① 課税団体

 課税団体となる指定都市等とは、事業所税を課することができる課税団体のことで、令和7年1月1日現在で77団体あり、具体的には、次のイからエの各都市とされています(地法701の31①一、735①、地令56の15)。

  • イ 東京都(特別区(23区)の存する区域に限る。)(地法735①)
  • ロ 地方自治法第252条の19第1項の政令指定都市(地法701の31①一イ、地方自治法第252条の19第1項の指定都市の指定に関する政令)
    札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市(20市)
  • ハ 上記ロ以外の市で首都圏整備法第2条第3項に規定する既成市街地を有する市又は近畿圏整備法第2条第3項に規定する既成都市区域を有する市(地法701の31①一ロ、首都圏整備法施行令2、近畿圏整備法施行令1)
    川口市、武蔵野市、三鷹市、守口市、東大阪市、尼崎市、西宮市、芦屋市(8市)
  • 二 上記ロ及びハ以外の市で人口30万人以上の市のうち政令で指定する市(地法701の31①一ハ、地令56の15)
    旭川市、秋田市、郡山市、いわき市、宇都宮市、前橋市、高崎市、川越市、所沢市、越谷市、市川市、船橋市、松戸市、柏市、八王子市、町田市、横須賀市、藤沢市、富山市、金沢市、長野市、岐阜市、豊橋市、岡崎市、一宮市、春日井市、豊田市、四日市市、大津市、豊中市、吹田市、高槻市、枚方市、姫路市、明石市、奈良市、和歌山市、倉敷市、福山市、高松市、松山市、高知市、久留米市、長崎市、大分市、宮崎市、鹿児島市、那覇市(48市)
② 納税義務者
 事業所税の納税義務者は、指定都市等に所在する事業所等において事業を行う法人又は個人とされています(地法701の32①)。
③ 課税標準

 事業所税は、資産割と従業者割の合計額とされていますが、その課税標準は、それぞれ次のとおりです。

  • イ 資産割
     資産割の課税標準は、課税標準の算定期間の末日における事業所床面積とされています(地法701の40①)。
     課税標準の算定期間とは、法人にあっては事業年度、個人にあっては、基本的には、暦年、年の中途で事業を開始した場合や廃止した場合は、事業を行っていた期間となります(地法701の31①八、701条の34⑥)。
     また、事業所床面積とは、事業所用家屋の延べ面積をいいます。その事業所用家屋に共同の用に供する部分がある場合には、その部分を面積按分したものと、専ら事業所等の用に供する部分との合計面積となります(地法701の31①四、地令56の16)。
  • ロ 従業者割
     従業者割の課税標準は、課税標準の算定期間中に支払われた従業者給与総額とされています(地法701の40①)
     この従業者給与総額というのは、事業所等の従業者(役員を含みます。)に対して支払われる俸給、給料、賃金及び賞与等の総額(白色事業専従者に係る事業専従者控除額を含みます。以下「給与等」といいます。)とされており(地法701の31①五)、この従業者給与等には、扶養手当、住居手当、通勤手当、時間外勤務手当、現物給与等が含まれ(所得税の取扱い上、非課税とされる通勤手当等は除かれます。)、退職給与金、年金、恩給等は含まれないものとされています(取扱通知(市)第9章三⑹イ(ア))。
     そして、従業者給与総額からは、政令で定める障害者及び65歳以上の者(いずれも役員は除かれます。)に対する給与等が除かれることとされており、従業者割の課税の対象とはなりません。また、55歳以上65歳未満の者のうち雇用改善助成対象者(雇用保険法などの法令の規定に基づく国の雇用に関する助成に係る者で政令で定めるもの)については、支払われる給与等の額から、その二分の一を除いて計算することとされています(地法701の31①五、地令56の17)。
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TKC税務研究所 特別研究員 鈴木 久志

鈴木 久志(すずき ひさし)

TKC税務研究所 特別研究員

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