「改ざんさせない電子インボイス」の作成は、企業の責務 ~「誰が」「いつ」作成したかの見える化が肝心~

第3回(最終回) デジタル化の進展を加速する「電子契約」

更新日 2024.12.25

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株式会社スカイコム

株式会社スカイコム 代表取締役社長
(株式会社TKC 取締役専務執行役員)

川橋 郁夫

多くの企業では請求書などのインボイスをPDFで作成し、電子インボイスとして送受信を行っています。そのPDFが「どのような電子文書であるのか」を紹介し、「改ざんを許さない電子インボイスの導入ポイント」を解説します。

当コラムのポイント

  • PDFは環境に依存しないISO規格の電子文書
  • 「電子署名」から学ぶ、電子インボイス
  • デジタル化が加速する「電子契約サービス」と信頼性
目次

前回の記事 : 第2回 「改ざんを許さない電子インボイス」導入のポイント

1.コロナ禍を機にニーズが高まった電子契約

 前章では電子インボイスにおける電子署名の役割について述べましたが、同じように電子署名を活用することで拡がりつつあるのが「電子契約」です。
 日本で電子契約が普及し始めたのは、コロナ禍が契機となりました。外出禁止で出社できない環境下において、契約手続きをクラウド上で完結できるサービスが社会のニーズにマッチしたものですが、本当の普及はこれからです。

 電子契約は、紙で行う署名や記名押印に替わり、電子契約書に契約当事者の電子署名を行う方法により契約を締結する行為です。前述の「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」の第三条に以下の記述があります。

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

 「契約当事者同士が契約当事者の電子証明書を使用して電子署名した電子契約(当事者型電子契約)は、真正に成立したものと推定できる」とされるものですが、現在主流となっている電子契約は立会人型(事業者署名型)電子契約です。これは電子契約サービス事業者が自身の電子証明書を使用して、契約当事者に代わって電子署名を行うというものです。

 コロナ禍においてデジタル化のニーズが高まる中、政府は一定の要件を満たせば立会人型の電子契約でも「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」第二条、第三条が適用されるというQ&Aを出しました。これを機に国内では立会人型の電子契約サービスが数多く誕生し、利用されるようになってきました。2023年9月27日付でデジタル庁デジタル社会共通機能グループの調査結果として発表された統計では、何らかの電子契約を利用している企業は全体の56.3%、利用したことがある企業は74.5%ということでした。皆さんの企業も、この中に含まれているでしょうか。

2.紙文書同様に、電子契約にもルールの策定が必要

 このように利用が進みつつある電子契約ですが、注意しなければならない点もあります。それは、電子契約を開始するに当たっては、従来の紙での契約締結とは異なるルールを作る必要があるということです。

 紙での契約については、一般的に印章管理規定や押印規定、契約に係る社内稟議規定等を整備して運用されていますが、電子契約に係る流れは紙と異なります。
 先ほど挙げた立会人型の場合は、印鑑に代わる電子証明書の管理はありません。契約書は最終版が印刷からPDF出力に替わるだけで紙の契約書の作成手順と変わりませんが、その後の電子契約サービスへのアップロード、原本保管、自社署名(注)、相手方への署名(注)依頼と結果確認、電子契約書(PDF)の保管などを規定として定める必要があります。

(注)一般的な立会人型の電子契約サービスでは、電子契約サービス事業者が契約当事者双方に「合意」や「承認」を依頼し、これらの操作が行われると、電子契約書に電子契約サービス事業者自身の電子証明書を使用して電子署名を行います。

 また、自社が主体で電子契約書を作成する場合の手続きだけでなく、契約相手側が作成した電子契約書への署名依頼が届く場合の手続きにも注意が必要です。紙の契約手続きでは契約書2通が双方を往復して押印がなされますが、電子契約では電子署名の依頼がメールで届くことになります。そのため、このメールアドレスも契約担当部門ごとに定める必要がありますし、相手先にも通知する必要があります。このメールアドレスの通知を忘れたために、現場の担当者宛てにメールが届いてしまい、担当者がメールにあるURLを開いて署名(「合意」ボタンを押す)をしてしまったというケースを聞きます。こうしていつの間にか契約が終了して担当者宛てに契約書が送付され、そのままになっていたということもあり得ますので、電子契約の導入時には社内ルールや手順の再確認をお勧めします。

3.電子契約サービスは、信頼性の高さで選ぶ

 日本では電子契約の普及が始まったばかりですが、海外では日本より早くに電子契約サービスが普及したこともあり、本人が否認したことにより裁判が行われたケースが出ています。
 参考:電子認証局会議の事例紹介『海外の電子契約サービス裁判例』
 日本でも、自社の電子契約の手続きを厳格化しても相手先の状況が不明のままでは、同様の事例が出てくる可能性があります。相手先の電子契約に係る内部統制の状況を確認の上、それぞれの企業と電子契約をスタートする必要があります。

 こうしたニーズに応え、当社も電子契約サービス『SkySign』を提供しています。日本で初めて、手元にある電子証明書を利用してクラウド上の電子契約書に電子署名を行う(「クライアントリモート署名」と呼んでいます)ことを可能としていることが特長で、法務局が発行する商業登記電子証明書や民間認証局が発行する電子証明書、政府認証基盤(GPKI)が発行する官職証明書、地方公共団体組織認証基盤(LGPKI)が発行する職責証明書に対応しているので、立会人型では不安があった契約にも安心して利用できます。もちろん、立会人型電子契約も可能です。その他、テキストや数値などの入力フィールド、チェックボックスやラジオボタン、リストボックスを配置したPDFを利用して、申込や変更手続きを行う機能も備えています。

 現在、当社以外に、日本国内だけでも20社以上が電子契約サービスを提供しています。そのほとんどが立会人型電子契約サービスですが、中には前述した政府のQ&Aに合致しないサービスも見受けられます。サービスを選ぶときには試用をして署名された電子契約書(PDF)の署名検証を行うなどして、信頼性の高低を確認してください。
 下記が参考になります。

 参考:電子認証局会議の解説『事業者署名型電子契約サービスと当事者型電子署名』

※本文中に記載されている会社名、システム名、サービス名、製品名等は各社の登録商標または商標です。なお、本文および図表中では、「®」、「™」は明記しておりません。

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川橋 郁夫(かわはし いくお)

株式会社スカイコム 代表取締役社長
(株式会社TKC 取締役専務執行役員)

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