新リース会計基準の論点解説

第4回(最終回) 新リース会計基準の実務対応課題【後編】

更新日 2023.09.29

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TKC企業グループ会計システム普及部会会員

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

公認会計士・税理士 岸田 泰治

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

公認会計士・税理士 大谷 信介

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

公認会計士・税理士 宮嶋 芳崇

2016年にIFRS会計基準、米国会計基準で、リース取引に関する会計基準が公表され、日本でも2019年3月から、新リース会計基準の開発に着手してきました。
2023年5月2日に企業会計基準委員会から、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」が公表され、リース取引の会計処理について、国際的な会計基準との整合性を図ろうとしています。
「新リース会計の実務はどうなっていくの?」という視点から、今後想定される実務対応上の論点や課題を対話形式で解説します。

当コラムのポイント

  • リースの範囲拡大による影響
  • 新リース会計基準と会計・税務実務(法人税・消費税)
  • 財務諸表への影響と親子会社間取引の取扱い
目次

前回の記事 : 第3回 新リース会計基準の実務対応課題【前編】

 本コラムの第1回は「新リース会計基準の概要」、第2回では「新リース会計基準で想定される実務上の論点」を解説してきました。
 今回、新リース会計の実務は「どうなっていくの?」という視点から、対話形式で解説します。

【登場者のご紹介とコメント】

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 会員

公認会計士・税理士 岸田先生
 「新リースに関する税制への影響や実務上の課題を整理していきましょう。」

公認会計士・税理士 大谷先生
 「公開草案とIFRS16号の視点で色々お話しします。」

公認会計士・税理士 宮嶋先生
 「これからの税制改正がどうなるのかウォッチし、実務対応の方法を考えていきましょう。」

(左から、宮嶋先生、岸田先生、大谷先生)

(左から、宮嶋先生、岸田先生、大谷先生)

6.新リース会計基準と税務実務

岸田先生:本コラムの第3回「新リース会計基準の実務対応課題【前編】」では法人税の取扱いについて触れましたが、消費税はどうでしょう?

宮嶋先生:消費税はわかりやすいと思います。
 ただ、消費税は、「法人税法の取り扱い例による」と基本通達で規定しているので、法人税法の取り扱いが変わると、消費税法も改正が必要になるかと。

岸田先生:特殊な例を考えてみたいと思います。
 リース契約があり、契約期間は4年ですが、再リースをする前提なので、合理的利用期間を6年とした場合についてです。

設例:機械装置のリース取引 「使用期間がリース契約期間と相違する場合」

宮嶋先生:利用期間を変更した時とかも大変です。利用期間を伸ばすときは使用権資産とリース債務を同額再計上し、短縮するときは取崩しです。利用期間での割引計算も含め、表計算ソフトだけでは大変ですよね…。

岸田先生:現在の消費税法上は、「法人税法の規定により売買があったものとされるリース取引については、引き渡しを行った日に資産の譲渡があったとして、その時期に控除する。」と扱われます。「売買があったものとされるリース取引」って何?と考えることがポイントですね。

大谷先生:消費税法は法人税法のリースの規定により、控除時期が変わります。使用権資産計上時に6年分を一括控除可能とすると、初年度消費税額がすごく減りそうです。

宮嶋先生:インボイス制度が開始されると、インボイスがない使用権資産に対して、一括仕入税額控除が認められるのか、という視点で考えると、消費税は、リース契約があれば、リース契約期間に相当するリース料総額に対して、一括税額控除は認められそうですね。再リース期間分は、支払の都度の仕入税額控除にならざるを得ないでしょうか。

大谷先生:消費税法は、現行の法人税のリースの取り扱いを残して、契約に応じて税額控除時期を決めるようになるのではないでしょうか?

岸田先生:法人税法は、現行のリース契約に基づくリース取引に関する規定を残しつつ、使用権資産に係る費用計上分を容認する規定を追加しないと、別表調整が必要になりそうですね。

岸田先生:また、外形標準課税(付加価値割)は、賃借料の計上がなくなるので税収が減りそうです。付加価値割の概念には、賃借料と支払利息は含まれ、減価償却費は含まれないですし。

宮嶋先生:使用権資産を計上した場合、今まで賃借料だったものは、引き続き付加価値割を構成するように改正が入るのでしょうか?

大谷先生:今までの賃借料が付加価値割を構成するとしたら、リース債務に係る支払利息分だけ増税となります。使用権資産に係るリース債務の支払利息だけ付加価値割の計算から除くのは、無理でしょう。外形標準課税も改正が入りそうですね。

大谷先生:また、法人税法上の取扱いが明確でないため不透明な部分がありますが、仮に、使用権資産とリース負債が法人税法上認められない場合には、使用権資産とリース負債をそれぞれ税務調整する必要が出てきます。使用権資産は将来加算一時差異として繰延税金負債を計上する必要がありますが、リース負債は将来減算一時差異となるので、繰延税金資産の回収可能性の検討が必要となります。スケジューリングで上手く相殺できれば影響はあまりないでしょうが、使用権資産部分についてのみ繰延税金負債を計上することになると損益インパクトも大きくなると考えられます。

7.減損会計基準の改正

岸田先生:減損の会計基準も改正が入っていますね。

大谷先生:使用権資産は固定資産に計上されますので減損会計基準の適用対象になることが明記されています。仮に減損損失の認識の判定で減損が必要であると判断された場合には、使用権資産も減損する必要がありますので、減損損失金額はリース会計基準案を適用する前より、大きくなります。
 また、減損の兆候はあるけど、減損する必要がないと判定された資産グループに対して特に資産除去債務見合いの使用権資産が計上されると、資産グループの帳簿価額が大きくなるので、将来キャッシュ・フローが変わらなければ、減損対象となる場合もありそうです。

宮嶋先生:使用権資産を計上した時、将来の現金支払額は変わらないですが、将来キャッシュ・フローも変わらないでしょうか?

大谷先生:減損判定の際に使う将来キャッシュ・フローには、将来の支払リース料が含まれないこととされています。これは減損会計で使用する将来キャッシュ・フローは「営業キャッシュ・フロー」であり、将来の支払リース料のうち、リース債務の元本返済相当額は「財務キャッシュ・フロー」になるので、「営業キャッシュ・フロー」に影響しないからでしょうね。
 結果的に、使用権資産をBS計上することで資産グループの帳簿価額も大きくなりますが、将来の「営業キャッシュ・フロー」も増加することになると思います。

岸田先生:減損の判定の際には、資産の範囲が広がることと、営業キャッシュ・フローの計算が変わることに留意が必要ですね。減損の判定をする際の計算式も変える必要がありそうです。

8.財務諸表への影響

岸田先生:連結・個別の財務諸表や、各種指標への影響もありそうです。

大谷先生:使用権資産とリース負債が計上され、総資産・総負債は大きくなりますので、総資産を使用したROAや自己資本比率等への影響は大きいですね。借入契約等で財務制限条項が付いている会社については特に注意が必要ですね。
 一方、損益計算書では、支払家賃より少額の減価償却費が営業損益に計上され、利息分が営業外費用に計上されるため、損益計算書上の営業利益は良くなりそうです。

宮嶋先生:キャッシュ・フロー上は、リース債務の元本返済分が営業活動から財務活動に振り替わるため、小計や営業活動のキャッシュ・フローは良くなります。
 財務活動で、リース債務の支払額が増えます。

岸田先生:連結キャッシュ・フロー計算書も変わりますね。
 使用権資産の取得額は、重要な非資金取引として注記が必要になります。

9.親子会社間の取引

岸田先生:不動産賃貸借契約において、貸手側はリース取引ではなく、従来通り賃貸処理で良いですよね?

大谷先生:貸手側の記載は基本的に変わっていないので、現行の不動産賃貸借契約でリースとしていなくて、今後も契約内容が変わらなければ、貸手は従来通り賃貸処理で良いと思います。
 借手はリース取引となり、使用権資産・リース債務を計上します。

岸田先生:借手は、連結消去されるからと言って、単体で計上しなくて良いわけではなく、会社法上、使用権資産を計上する必要はありますね。

宮嶋先生:連結上は、グループ会社間での不動産賃貸借契約において使用権資産を計上した場合、使用権資産とリース債務、使用権資産の償却を取り消して、リース債務の支払額と支払利息を、支払家賃に振り替えて、借手の支払家賃と、貸手の受取家賃を相殺する必要があります。

設例:親会社所有不動産を子会社が利用している場合

宮嶋先生:本コラムの第2回「新リース会計基準で想定される実務上の論点」で仕訳例を載せましたが、【賃貸料の振替処理】仕訳を連結上取り消すイメージです。
 単体では、従来通り現金支払い時に賃借料を計上しておいて、賃借料の振替仕訳を入力する仕訳を掲載していますが、連結上はその振替仕訳を取り消せば良いと思われます。

岸田先生:連結上は、使用権資産・リース債務を取り消すことになるので、税効果仕訳も必要になりそうですね。

宮嶋先生:なお償却資産税は所有している会社が払いますので、リース資産、使用権資産には償却資産税はかかりません。

岸田先生:長時間にわたり座談会を行ってきましたが、新しいリース会計基準では、これまで資産として計上していなかったリースも資産として計上しなければならないので、影響を受ける会社が多数あることが想定されます。また、税務にも大きな影響があることがよくわかりました。今後の会計基準の動向や税制改正に注目して、引き続き情報発信を行っていきたいと思います。本日は、ありがとうございました。

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事 公認会計士・税理士 岸田 泰治

公認会計士・税理士 岸田 泰治(きしだ やすはる)

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