更新日 2022.03.28
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
税理士 小山 勝
請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)などについては電子データでの保存が義務付けられましたが、現行では、従来と同様の対応(書面に出力しての保存)でよいとする宥恕措置が設けられています。
しかし、この宥恕措置の期間は令和5年12月31日までとされていますので、すべての事業者は、その間に電子取引に係る電子データ保存への対応を進めていく必要があります。
当コラムでは、電子取引データを電子保存する対応を進めていくにあたり、ポイントとなる点を解説します。
当コラムの第1回では、電子取引データを電子保存する体制を構築するための進め方を整理しました。第2回では、より理解を深めていただけるように、電子取引データの保存に関して企業からよく受ける質問を中心に解説します。
※解説にあたっては、宥恕措置が無くなる令和6年1月以降の対応を想定しています。
1.電子取引の範囲
- Q1-1
- 電子取引とは、どのようなものをいいますか。
- A
- 「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいい、「取引情報」とは、取引に関して受領し又は交付する注文書・契約書・送り状・領収書・見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。
電子取引の具体例は、WEBコラム「電子取引に係るデータ保存制度の実務ポイント」(掲載日:2021.11.29)を参照してください。
- Q1-2
- 一連の取引において、一つでも紙によるやりとりが存在すれば、電子取引に該当せず、紙での保存が認められるのでしょうか。
- A
- 通常は、一連の取引過程において、紙と電磁的記録が混在するケースが多いと考えられます。例えば、発注→納品→請求→支払いという過程の場合で、発注は電子メール本文で受け、納品書は紙で渡し、請求書は電子メールに添付して送り、支払いはATMで振り込む、とするとします。このような場合は、発注(電子)→納品(紙)→請求(電子)→支払い(紙)となり、発注と請求が電子取引に該当します。
電子取引については、「真実性の確保」と「可視性の確保」の保存要件を満たした上で、その電子取引データを保存することが求められます。
- Q1-3
- 電子メールで交付した見積書について金額の変更があったため、見積書を再交付しました。この場合、最初に交付した見積書は、電子取引データの保存の対象となりますか。
- A
- 同じ取引に関して、複数の見積書を相手方に交付するケースがあります。一般的には、相手方に交付した見積書は、それぞれの時点において保存の対象になると考えられます。
したがって、見積り内容の変更の都度、相手方に電子メールで見積書を交付した場合は、最終的に合意した見積書のみならず、交付したすべての見積書が電子取引データの保存の対象となります。
- Q1-4
- 請求書を取り急ぎ電子メールで受領し、その後、同じ内容で紙の請求書が郵送されてきた場合、電子メールで受領した請求書は、電子取引データの保存の対象となりますか。
- A
- 電子メールにより請求書を受け取った場合(添付ファイルで受け取る場合も含みます)は、電子取引に該当するため、「真実性の確保」と「可視性の確保」の保存要件を満たした上で、電子取引データを保存しなければなりません。
ただし、取引慣行や社内のルール等により、電子取引データとは別に紙の請求書を原本として受領している場合は、その原本(紙)を保存する必要があります。
- Q1-5
- インターネットバンキングで振込依頼の手続を行っており、入出金情報などをインターネットバンキングからダウンロードしています。これらの情報は、電子取引データの保存の対象となりますか。
- A
- インターネットバンキングによる振込等は、EDI(エレクトロニック・データ・インターチェンジ)取引に該当するため、これらに係る情報は、電子取引データの保存の対象となります。
したがって、振込先名・金額・日時のように銀行窓口で振込等をしたときに受領する控えに相当する情報をダウンロードできる場合は、そのダウンロードしたデータを保存する必要があります。あるいは、控えに相当する情報のダウンロードが難しい場合は、振込依頼の受付後に画面に表示される「振込結果画面」をPDF等にデータ化し、電磁的記録として保存するなどの対応が必要となります。
- Q1-6
- FAX(ファクシミリ)で請求書等を授受する場合は、電子取引に該当しますか。
- A
- FAXは、一般的に、送信側も受信側も、送受信したデータを紙に印刷して確認し、保存することを前提としているため、紙による取引として取り扱われ、電子取引に該当しません。
しかし、電子データの取り出し・保存ができる複合機等のFAX機能(いわゆるペーパレスFAX等を含みます。)を用いて電子取引データを送受信し、紙に印刷せずに保存する場合は、電子取引に該当します。
2.電子取引データの保存要件
- Q2-1
- 電子取引データは、どのように保存しなければならないのでしょうか。保存方法を教えてください。
- A
-
電子取引データの保存にあたっては、「可視性の確保」と「真実性の確保」をする必要があります。
(1) 可視性の確保次の2つを満たす必要があります。
①ディスプレイやプリンタ等を備え付け、保存した電子取引データを画面や書面に整然、かつ、明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておく。
②前回のWEBコラム「中堅・大企業における電子取引対応のポイント」(掲載日:2022.3.14)の「ポイント4」に掲げた検索機能を確保する。
(2) 真実性の確保
不正な改ざんを防止するための措置で、前回のWEBコラム「中堅・大企業における電子取引対応のポイント」(掲載日:2022.3.14)の「ポイント5」に掲げた4つの方法のうち、どれか一つを満たす必要があります。
- Q2-2
- 従業員が企業の経費等を立て替えた場合において、その従業員が支払先から領収書を電子データで受領した行為は、企業としての電子取引に該当しますか。該当するとした場合には、どのように保存すればよいのでしょうか。
- A
- 従業員が経費等を立て替えた際に、その支払先から領収書の電子データを受領する行為についても、その行為が企業の行為として行われる場合には、その企業が行う電子取引に該当します。したがって、その電子取引データについては、Q2-1のように保存する必要がありますので、従業員から集約し、企業として取りまとめて保存することが望ましいとされています。
しかし、直ちに電子データを集約することが困難な場合も想定されることから、一定の間であれば、従業員のパソコンやスマートフォン等に保存しておくことも認められます。ただし、この場合においても、「真実性の確保」をするとともに、その従業員が保存する電子データについて、税務調査の際に税務職員の質問検査権に基づくデータのダウンロードの求めに応じるなどの対応ができる体制を整えておく必要があります。
整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができないような場合には、結果として、その電子取引データを適正に保存していたものと認められない可能性もありますので、注意が必要です。
- Q2-3
- 「速やかに」タイムスタンプを付与することとしている場合で、やむを得ない事由によりおおむね7営業日以内にタイムスタンプを付与できないときは、要件違反となるのでしょうか。
- A
- おおむね7営業日以内にタイムスタンプを付すことができない特別な事由がある場合は、その事由が解消した後直ちに付与すれば、速やかにタイムスタンプを付したものとして取扱われます。これは、電子データ改ざんの可能性を低くする観点からは7営業日を基本とすることが合理的と考えられる一方で、毎日事務所へ出勤しない勤務形態の従業員がおおむね7営業日を超えてタイムスタンプの処理を行う場合などに、それらを一律に排除することは経済実態上合理的ではないとの考えによるものです。
また、企業において、取引情報の授受からその記録事項にタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合は、その業務の処理に係る通常の期間(最長2か月の業務処理サイクル)を経過した後、おおむね7営業日以内にタイムスタンプを付せばよいこととされています。
3.その他
- Q3-1
- 電子取引で授受したデータについて、法人税と消費税で取扱いにどのような違いがありますか。
- A
- 電子取引データの保存義務者は、法人税に係る保存義務者に限られます。一方、消費税の仕入税額控除の適用にあたっては、必要な事項が記載された帳簿及び請求書等を紙で保存することが求められています。そこで、消費税においては、電子取引データの保存の有無が税額計算に影響を及ぼすことなどを勘案して、電子取引データを紙に印刷して保存することも認められています。
また、紙での請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合には、帳簿のみを保存することにより仕入税額控除の適用を受けることができるとされています。
請求書等を電磁的記録により受領した場合に考えられる保存方法
(案1) 法人税の観点からは、その電磁的記録を所定の要件の下で電子データとして保存し、消費税の観点からは、その電磁的記録を紙に印刷して保存する。
(案2) 法人税の観点からは、その電磁的記録を所定の要件の下で電子データとして保存し、消費税の観点からは、電子取引のため紙での交付を受けなかった旨などのやむを得ない理由を帳簿等に記載しておく。
なお、令和5年10月以降は、電子取引を行った場合に仕入税額控除の適用を受けるためには、適格請求書等(インボイス)として必要な事項を満たす電子インボイスの保存が必要となります。
また、電子インボイスを整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面を保存した場合には、それをもって仕入税額控除の適用を受けることができるとされています。
- Q3-2
- 電子取引の取引情報に係る電磁的記録について保存要件を満たして保存できないため、すべて紙に印刷して保存しています。これでは保存義務を果たしていることにはならないため、青色申告の承認が取消されてしまうのでしょうか。
また、その電磁的記録や印刷した紙は、税務調査においてどのように取り扱われるのでしょうか。
- A
- 電子取引データを紙に印刷して保存している場合は、要件に従った保存をしているとは扱われないこととなります。したがって、このような場合は、保存すべき電子取引データの保存がないものとされてしまいますので、原則は青色申告の承認の取消し対象となります。
ただし、実際に取り消されるかどうかは、保存要件を満たしていないことのみをもって判断されることはなく、違反の程度等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するのにふさわしくないと認められるかどうか等を検討した上で判断することとされています。
また、法人税においては、要件に従って保存されていない電子取引データや印刷した紙については、他社から受領した電子取引データとの同一性が担保されないことから、保存書類として扱われないこととなります。
この場合、そのことのみをもって直ちにその電子取引データに係る経費等の計上が否認されることはありませんが、その経費等に係る取引の事実について別途の方法で確認する必要があることから、企業からの追加的な説明や資料提出が必要になるとされています。
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プロフィール
税理士 小山 勝(こやま まさる)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC全国会 システム委員会 FXクラウド(固定資産)小委員会会員
- 略歴
- 2011年9月まで株式会社TKC勤務を経て、現在、税理士法人青山アカウンティングファームに勤務。株式会社TKCでのシステム設計・営業経験を活かし、上場企業から中小企業までの税務顧問業務、会計・税務申告システムの導入・運用コンサルティング等に従事。
- 主要著書
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- 『令和7年用 法人税申告全書 2024年 11月増版』 (税経通信)
- 『月刊税務QA』(税務研究会)、『税経通信』(税務経理協会)などに執筆
- ホームページURL
- 税理士法人 青山アカウンティングファーム
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