企業のDX推進のための電子取引に係るデータ保存制度の実務対応

第2回(最終回) 電子取引に係るデータ保存制度の実務ポイント

更新日 2021.11.29

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 加藤幸人

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 加藤 幸人

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)やテレワーク、働き方改革、さらには生産性向上、業務改善等が求められる中、改正された電子帳簿保存法を上手く活用し電子化、ペーパレス化を実現することが重要です。特に、「電子取引に係るデータ保存制度」は、要件も厳しくなり、データ量が多い大企業では早期の実務対応が喫緊の課題となっています。
そこで、当コラムでは、「電子帳簿保存法」のうち、「電子取引に係るデータ保存制度」について概要と経理実務の観点からみた留意点等を解説します。

1.電子データの具体例と保存方法

(1) 電子取引の具体例

 電子取引については、「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】令和3年7月国税庁」問4にその具体例が明示されています。

電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領
インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットを利用
電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用
特定の取引に係るEDIシステムを利用
ペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領
(2) 具体例ごとの保存方法

 このような電子取引は、真実性の確保の四つのいずれかの方法により保存が必要になりますが、上記(1)の具体例の保存管理の方法は以下のとおりとなります。

イ)

①PDFファイル、②スクリーンショット等の電子データ
次のいずれかの方法で保存管理

一 タイムスタンプが付与されたデータを受領

二 速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付与

四 訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備付け

ロ)

③クラウドサービス、④クレジットカードの利用明細、⑤EDI取引等の電子データ

原則:三 データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用

例外:データをダウンロードして保存するような場合には、PDFやスクリーンショットと同様になりますので、上記イ)と同様な管理が必要

ハ)

⑥FAX複合機、⑦DVD媒体の電子データ

次のいずれかの方法で保存管理

一 タイムスタンプが付与されたデータを受領

二 速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付与

四 訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備付け

 電子取引における電子データ授受の方法は種々ありますので、その授受したデータの様態に応じて、保存管理方法が混在しても差し支えないです。また、電子データの格納先や保存方法についても、取引データの授受の方法等に応じて複数に分かれることも差し支えありません。ただし、電子データを検索して表示する場合に、整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力することができるように、管理しておく必要があります。

(3) 訂正削除の防止に関する事務処理規程

 PDF等で電子取引を行うような場合で、先方又は当方でタイムスタンプが付与されていない場合には、「訂正削除の防止に関する事務処理規程」を作成して、そのルールに基づいて、電子データの保存を行う必要があります。
 この規程については、「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】令和3年7月国税庁」問24にサンプル規程が用意されておりますので、そちらを参考にして作成することができます。このサンプル規程では、訂正削除を原則禁止としつつ、訂正削除を行う場合には、「取引情報訂正・削除申請書」を作成することが記載されています。

2.青色申告の取消

 電子取引の取引情報について災害等による事情がなく要件を満たさずに電子データの保存をしている場合や、電子データの保存に代えて書面出力を行っていた場合には、保存すべき電子データの保存がなかったものとして、青色申告の承認の取消の対象となり得ます。
 この場合に、すぐに青色申告の承認の取消になるかどうかについては、「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】令和3年7月国税庁」問42が参考になります。青色申告の承認の取消しについては、「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」に基づき、違反の程度等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうか等を検討した上で、その適用を判断することとされています。
 また、申告内容の適正性については、税務調査において、納税者からの追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合勘案して確認することとされています。
 さらに、令和3年11 月12日に国税庁より「お問合せの多いご質問」が公表されました。その中の「補4 一問一答【電子取引関係】問42」で、「従来と同様に、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。」と、あらためて青色申告の取消に関する補足の説明がされています。

3.重加算税の加重措置

 電子取引に係るデータ保存の適正な運用を担保するために、電子データに関して期限後申告書や修正申告書等の提出があった場合(期限後申告等)で、重加算税が課される場合には、10%加算した金額とするという措置が設けられました。
 この加重措置は、電子取引により授受した電子データを削除、改ざんするなどして、売上除外や経費の水増しが行われた場合のほか、相手方と通謀し架空の電子取引データをやりとりするなど、保存された取引データの内容が事業実態を表していない場合も加重の対象となります。

4.経理実務の観点からのまとめ

 最後に、電子取引に係るデータ保存制度について、経理実務の観点から注意すべきポイントをまとめました。

(1) 紙に印刷して保存することは認められません

 これまでは、電子取引の電子データを出力した書面等の保存をもって電子データの保存に代えることができたため、「紙」に出力して保存していることがほとんどであったと思います。令和4年1月1日以降は、その代替的な措置が認められなくなりますので、電子データのまま保存する必要があります。対象は、申告所得税及び法人税の保存義務者です。したがって、大企業も中小企業も、すべての企業が対象となりますので注意が必要です。

(2) 消費税法の取扱いは異なります

 電子取引に係る電子データ保存制度は、申告所得税及び法人税の保存義務者が対象です。消費税については、電子データでの請求書等は、令和4年1月1日以後も引き続き、書面に出力することにより保存することで仕入税額控除の適用を受けることができます。
 また、消費税においては、電子取引のようにデータのみが提供されるなど、書面での請求書等の交付を受けなかったことにやむを得ない理由がある場合には、帳簿に消費税法第30条第8項の記載事項に加えて、やむを得ない理由及び課税仕入れの相手方の住所又は所在地を記載して保存することにより、仕入税額控除の適用を受けることができることになっています。
 ただし、令和5年10月1日からのインボイス制度においては、電子取引は、適格請求書等として必要な事項を満たす電子データの保存が必要となります。なお、消費税のインボイス下においては、出力した書面を保存することも認められます。

(3) 検索機能を確保するためには工夫が必要です

 電子取引に係るデータ保存制度においては、検索機能を確保することが一番の課題です。PDFファイル等の電子データは、そのまま保存しただけでは、日付、金額、取引先のデータの検索ができません。そのため、TKC証憑ストレージサービス(TDS)のようなストレージサービスを採用するのか、国税庁が一問一答に示すような「規程+ファイル名管理」「規程+エクセル管理」の方法を採用するのか、検索機能を確保する保存管理の方法を工夫していく必要があります。

(4) 社内の電子取引を把握してルールを定めます

 まずは会社全体でどれだけの電子取引があるのかを把握する必要があります。当社が提供する側の売上に関する見積書、納品書、請求書等の電子取引は、当社が利用する販売管理システム等で作成していることが多いでしょうから、把握しやすいと思います。一方で、受領する側の書類は、各部署が様々な書類を、電子取引で受領している可能性がありますので、こちらは大変かもしれません。その電子取引の状況に応じて、データ保存の方法や管理者及び責任者の運用体制を定め、訂正削除の原則禁止を織り込んだ規程を作成し、備え付けて運用していく必要があります。

(5) 従業員立替経費精算における電子データ

 従業員の立替払いによる領収書を電子データにより受領する行為も、会社の行為として行われる場合には、会社の電子取引に該当します。そのため、この電子データについても、従業員から集約し、会社として取りまとめて保存し、管理することが必要です。ただし、一定の間、従業員のパソコンやスマートフォン等に保存しておきつつ、会社としても日付、金額、取引先の検索条件に紐づく形でその保存状況を管理しておくことも認められます。今後は、従業員の立替経費精算における電子データは、クラウド型の立替経費精算システムなどを利用してとりまとめて、保存管理することも検討していく必要があります。

(6) 電子データと書面の両方の請求書を受領しているとき

 取引慣行により、電子データとは別に、書面の請求書や領収書等を原本として受領している場合は、その原本(書面)を保存する必要があるというのが一問一答の見解です。令和3年11 月12日に国税庁から公表された「お問合せの多いご質問」では、電子データと書面の重複に関する「電取追1」におきまして、「電子データと書面の内容が同一であり、書面を正本として取り扱うことを自社内等で取り決めている場合には、当該書面の保存のみで足ります。」と記載されました。電子データでも、書面でも、正本であるものを保存することで足りるということになります。しかしながら、経理のペーパレス化を加速するという観点におきましては、将来的には書面での受領をやめる方向が望ましいのではないかと考えます。

 最後に、現在のコロナ禍においては、テレワークの加速、特に経理においては、紙ハンコ文化からの脱却が課題になっています。
 経理だけでなく、会社全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)や、テレワーク、働き方改革、さらには生産性向上、業務改善等々のために、会社の電子化、ペーパレス化を実現することが本来の目的となります。
 この目的を達成するために、電子取引に係るデータ保存制度を、電子化、ペーパレス化という目的を達成するための手段であるととらえ、上手く活用していただきたいと思います。

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