更新日 2021.02.08
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
税理士 吉田 公彦
令和2年度税制改正では、持続的な経済成長の実現に向け、オープンイノベーション促進税制の新設のほか、賃上げ・投資促進税制についても改正が加えられています。さらに今年度は、新型コロナウイルス感染症関連の税制上の措置も講じられ整理が必要です。
当コラムでは、3月決算法人向けに本年度申告に向けて注意すべき主な項目について、大企業向けの制度を中心に解説します。
1.はじめに
年が明けても、コロナウイルス感染症の拡大は収束しない中、3月決算法人については決算申告業務の時期が近づいてきました。
今年度も法人課税に関して改正項目の数は多くないものの、オープンイノベーション促進税制等の新設税制があるほか、前年度以前から適用可能な税制についてその内容に改正が加えられているものがいくつかあります。
これらに加え、今年度についてはやはりコロナウイルス感染症関連の税制についての整理が必要となるでしょう。申告期限の延長、欠損金の繰り戻し還付といった制度だけではなく、給付金の処理、寄付金の取扱い等、既存の税制についても影響を与えている箇所についてチェックが必要となります。また、電子申告義務化にも本格的に対応しなければなりません。
本稿では2回にわたって3月決算法人向けに本年度申告に向けて注意すべき主な項目について、大企業向けの制度を中心に解説します。
2.適用税率
各税目について本年度申告において適用される税率の概要は以下の通りです。ただし、地方税については税率、税目の変更があるため留意が必要です。
(1) 法人税
本年度申告に適用される法人税率は23.2%であり前年度から変更はありません(法法66、H28改正法附則26、措法42の3の2)。
(2) 地方税
令和1年10月に消費税の税率の引き上げが実施されたのに合わせて、令和1年10月以後開始事業年度(すなわち通常3月決算法人においては令和3年3月期)から住民税(所得割)税率の引き下げと地方法人税率の引き上げ、さらに地方法人特別税の廃止等が行われています。
また、超過税率を採用している各地方自治体の条例改正の状況についても、確認が必要です(地法51、地法314の4、地法72の24の7、地方法人特別税等に関する暫定措置法2、9)。
税目 | 令和2年3月期 | 令和3年3月期 | ||
---|---|---|---|---|
法人税 | 23.2% | 23.2% | ||
地方法人税 | 4.4% | 10.3% | ||
住民税(法人税割) | 12.9% | 7.0% | ||
事業税(所得割) | 0.7% | 1.0% | ||
地方法人特別税 | 414.2% | -% | ||
特別法人事業税 | - | 260% | ||
地方法人特別税を含む事業税 | 3.6% | 3.6% | ||
法定実効税率 | 29.74% | 29.74% | ||
事業税(付加価値割) | 1.2% | 1.2% | ||
事業税(資本割) | 0.5% | 0.5% |
※3月決算法人を前提とする。
※外形標準課税適用法人・軽減税率不適用法人の場合。表中の税率は標準税率による。
3.賃上げ・投資促進税制に関する改正
平成30年度の税制改正により給与等支給額のみならず、設備投資要件、教育訓練費要件という新たな要素が導入された賃上げ・投資促進税制ですが、本年度申告についても引き続き適用が可能です。基本的な枠組み、計算の仕組みについて前年と変わりがありませんが、令和2年度税制改正により適用要件について若干の変更があります。またコロナウイルス感染症拡大への対応により雇用調整助成金の給付を受けた場合には、その取扱いに注意する必要があります。
(1) 改正点
改正前 | 改正後(本年度申告) | |
要件 | ①継続雇用者等支給額の増加率が3%以上 ②国内設備投資額≧減価償却費の90% |
①継続雇用者等支給額の増加率が3%以上 ②国内設備投資額≧減価償却費の95% |
税額控除 | 給与等支給額の前年度からの増加額の15%※(法人税額の20%を上限) ※人的投資に関する一定の条件を満たせば20% |
(2) 雇用調整助成金の給付を受けた場合
新型コロナ感染症拡大への対応として、休業手当等を支払い、休業を行った法人が雇用調整助成金の給付を受けることが考えられます。このような場合、休業手当は給与所得となる給与等に該当し、賃上げ・投資促進税制における給与等の支給額に含めることになります。一方で受け取った雇用調整助成金については、給与等に充てるため他の者から支給を受ける金額に該当し、給与等の支給額からは控除することになると考えられます(措法42条の12の5③四)。
また、雇用調整助成金の収益計上時期は、休業等の事実があった事業年度とされており、具体的に金額が確定していない場合は見積もりにより収益計上することとなります(法基通2-1-42)。賃上げ・投資促進税制における控除の時期についてもこれに合わせて考える必要がありそうです。
4.租税特別措置の適用除外要件の見直し
こちらも平成30年度税制改正により追加された規定で、所得が増加しているにもかかわらず、賃上げと国内設備投資のいずれもほとんど行わない大法人について一定の租税特別措置の適用を制限するというものです(措法42の13の6)。
令和2年の税制改正により要件と適用除外の対象となる措置の一部変更があったことにご注意ください。
(1) 適用要件(適用が制限されてしまう条件)
改正前 | 改正後(本年度申告) |
①当期の所得金額>前期の所得金額(いずれも欠損金控除前) ②その法人の継続雇用者給与等支給額の対前年度増加率≦0% ③国内設備投資額≦当期の減価償却費の総額×10% |
①変更なし ②変更なし ③国内設備投資額≦当期の減価償却費の総額×30% |
(2) 適用が制限される制度
・試験研究費の税額控除制度
・地域未来投資促進税制に係る税額控除制度
・認定特定高度情報通信技術活用設備を取得した場合の税額控除制度(5G促進税制)
【追加】
・革新的情報産業活用設備を取得した場合の税額控除制度(IoT促進税制)【廃止】
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