更新日 2021.01.18
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
税理士 藤井 規生
2015年と2016年の税制改正によりスキャナ保存制度の要件が大幅に緩和され、スキャナ保存の承認申請件数が飛躍的に伸びてきました。また、昨今の働き方改革や新型コロナウイルス感染の影響によりワークスタイルの変革を余儀なくされ、企業は全ての部門において長時間労働の是正と業務生産性向上を図るため、業務プロセスの見直しが喫緊の課題となっています。
本コラムではこうしたニューノーマル時代の到来で一層関心が高まったスキャナ保存制度の概要について解説します。
1.令和3年度税制改正
令和2年12月10日に与党が決定し、同年12月21日に閣議決定された令和3年度の税制改正大綱によるとスキャナ保存制度については、過去最大級の要件緩和が図られており、デジタル社会実現への政府の本気度がうかがえます。
(1) 令和3年度税制改正の基本的考え方
今回の税制改正は7本の柱で構成され、スキャナ保存制度は2番目の柱である「デジタル社会の実現」という分野として、以下のように記載されています。
「スキャナ保存制度については、ペーパーレス化を一層促進する観点から手続・要件を大幅に緩和するとともに、電子データの改ざんなどの不正行為を抑止するための担保措置を講ずる。」
(2) 令和3年度税制改正の具体的内容
納税環境整備としてスキャナ保存制度について以下の見直しを行うことになりました。
- ①承認制度を廃止する。
- ②タイムスタンプ要件について、付与期間(現行:3日以内)を記録事項の入力期間(最長約2月以内)と同様とするとともに、受領者等がスキャナで読み取る際に行う国税関係書類への自署を不要とするほか、電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステム(訂正又は削除を行うことができないシステムを含む。)において、その電磁的記録の保存を行うことをもって、タイムスタンプの付与に代えることができることとする。
- ③適正事務処理要件(相互けん制、定期的な検査及び再発防止策の社内規程整備等をいう。)を廃止する。
- ④検索要件について、検索項目を取引等の年月日、取引金額及び取引先に限定するとともに、保存義務者が国税庁等の当該職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることとする場合にあっては、範囲指定及び項目を組み合わせて設定できる機能の確保を不要とする。
<現行との変更点>
項目 | 現行の内容 | 令和3年度税制改正大綱の内容 |
---|---|---|
承認制度 | 保存開始の3か月前の日までに所轄税務署長へ承認申請書を提出し、承認を受けることが必要 | 不要 |
タイムスタンプ | 付与期間3日以内 | 付与期間最長約2月以内 |
受領者等がスキャナで読み取る際に行う国税関係書類への自署 | 不要 | |
― | 電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステム(訂正又は削除を行うことができないシステムを含む。)であれば、その電磁的記録の保存を行うことをもって、タイムスタンプの付与に代えることができる | |
適正事務処理要件 | 相互けん制、定期的な検査及び再発防止策の社内規程整備等が必要 | 不要 |
検索要件 | 次の要件による検索が出来る様にすること
(1) 取引年月日その他の日付、取引金額その他主要な記録項目での検索 (2) 日付または金額に係る記録項目について範囲を指定しての検索 (3) 2以上の任意の記録項目を組み合わせての検索 |
検索項目を取引等の年月日、取引金額及び取引先に限定するとともに、保存義務者が国税庁等の当該職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることとする場合にあっては、範囲指定及び項目を組み合わせて設定できる機能の確保を不要とする |
ペナルティー | ― | スキャナ保存が行われた国税関係書類の保存義務者のその電磁的記録に記録された事項に関し、隠蔽し、又は仮装された事実に基づき期限後申告若しくは修正申告又は更正若しくは決定等があった場合には、その記録された事項に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税の額については、通常課される重加算税の額に当該申告漏れ等に係る本税の10%に相当する金額を加算した金額とする。 |
保存要件を満たさない記録 | ― | 見直し後の保存要件を満たさない電磁的記録についても保存義務が課され、かつ、見直し後の保存要件を満たさない電磁的記録については国税関係書類等と扱わない |
災害その他やむを得ない事情 | ― | 保存要件に従って当該電磁的記録の保存をすることができなかったことを証明した場合には、その事情が生じた日以後については、当該保存要件を不要とする。 |
※上記の改正は令和4年1月1日から施行されます。また、改正の施行の際、現行のスキャナ保存制度の承認を受けている国税関係書類等については、従前どおりとされます。
2.導入時の留意点
スキャナ保存制度を導入する場合には、令和3年度税制改正後においても、企業が自ら検討せざるを得ない事項として、内部統制に基づく事務処理要件の構築やスキャナ保存制度の運用をするための内部規程の整備等が挙げられます。
(1) 運用方針等の策定
スキャナ保存への変更に伴い、下記(2) の帳簿との相互関連性を確保しつつ事務処理を効率よく行うために、社内ルール及び事務フローの見直しが必須となりますので、導入時の手間は相当程度覚悟が必要です。
(2) 帳簿との相互関連性の確保
スキャナ保存制度を有効に機能させるためには「帳簿との相互関連性の確保」があります。単純に書類をスキャンして保存するのではなく、帳簿との関連性を持たせる必要があるので如何に会計システム等の基幹システムとの連携を取るかが重要です。
※令和3年度税制改正ではスキャナ保存制度だけでなく電子帳簿や電子取引に関する要件緩和が図られています。(3) 環境整備(ハード・ソフトの要件充足)
スキャナ保存制度を利用するにあたり、電帳法が要求している要件には素人では分かりにくい部分もあります。よって、要件から外れているハードウェアや市販ソフト等で運用を開始した場合には、後で国税当局の税務調査時に不備を指摘され、場合によっては、青色申告の承認の取消し処分を受けるなど多大なリスクとなります。
また、スキャナ保存の要件を満たすためには、既存のシステムの改修では足りずに、システム自体(ハードウェア・ソフトウェアともに)を刷新する必要が生じるなどある程度の費用負担は覚悟する必要があります。
制度を安心して導入するために、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(通称「JIIMA」)が行っている電帳法スキャナ保存ソフト法的要件認証制度があります。JIIMAにてスキャナ保存対応ソフトの機能仕様をチェックし、法的要件を満足していると判断したものを認証し、認証した製品の一覧がJIIMAのホームページで公表されています。
(
https://www.jiima.or.jp/activity/certification/denchouhou/software_list/)
現行の制度下ではJIIMAの認証を受けたソフトウェアを利用する場合には、承認申請書の記載事項や添付書類を一部省略することができます。
(4) 消費税改正への対応
2019年10月からの消費増税に合わせ、仕入税額控除の要件として区分記載請求書等保存方式が導入され、2023年10月からはインボイス制度が導入されます。
会計システムをはじめ各種システムで対応が必要になると予想されますので、将来の制度変更も想定して導入を検討する必要があります。
(5) イメージ文書の特性によるリスク
電子データであるため、以下のリスクが想定されます。
- ①改竄やすり替え等の不正行為の発生
- ②複製により短期間、かつ、広範囲にわたる情報漏洩
- ③システム障害による文書の喪失
- ④長期保管による文書データの互換性の喪失
- ⑤スキャニングによる情報劣化
以上のように、紙保存からスキャナ保存に変更してもリスクが無くなることはありませんので、少なくとも信頼性の高いシステム等を利用し、リスクの最小化を図ることが肝要です。
最後に
2回にわたり、現行及び令和3年度税制改正大綱ベースのスキャナ保存制度について解説してきましたが、あなたの会社がスキャナ保存制度を導入する場合にクリアすべき課題は何だったでしょうか?
読者の皆様の立場によって捉え方は様々だと思いますが、時代の流れはすごいスピードでデジタル化へと進んでいますので、好き嫌いにかかわらずDX(デジタルトランスフォーメーション)のメリットの一つである業務の生産性向上のためには、スキャナ保存制度は避けて通れないものになると考えられます。
確かに、スキャナ保存制度の導入時には、大きな負荷がかかるのですが、導入成功後の生産性向上をにらみ「案ずるより産むが易し」の精神で臨んでいただけたらと思います。
<参考>
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