更新日 2020.09.07
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
税理士 吉田 公彦
今年に入って国内でも感染が拡大している新型コロナウイルスは、夏場にかけてもなかなか終息が見通せず、社会経済にも大きな影響を与え続けています。これに対して、国等は国民生活や経済活動を支えるべく様々な施策を発表してきました。メディア等を通じたものとしては持続化給付金をはじめ、個人、中小企業を対象としたものが目立ちますが、中堅、大企業に対しても、企業決算等に関する特例、救済措置、あるいは税制上の措置が整備されています。
当コラムでは、これらの決算業務に関する対応と税制上の措置についてを紹介します。
新型コロナウイルス感染症の影響は広範にわたっており、テレワーク下での業務を余儀なくされる等、企業においては決算業務等に支障をきたす部分も少なくありません。
令和2年3月決算に関しては6月末時点で99%以上の企業が決算発表を済ませており大きな混乱はなかったようですが、夏場以降も感染者数は再度増加しており、終息の兆しが見られず今後の四半期報告業務等に関しても引き続き注意が必要となっています。
第1回では、ここまでに関係諸団体から発表された企業の決算業務に関する一連の対応についてまとめています。
1.「新型コロナウイルス感染症への影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」
新型コロナウイルス感染症の影響下における企業の決算作業及び監査等について、関係者間で現状の認識や対応のあり方を共有するため、令和2年4月3日に「 新型コロナウイルス感染症への影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」(以下「連絡協議会」)が設置されました。日本公認会計士協会、企業会計基準委員会、東京証券取引所等の団体、機関がメンバーとなり、金融庁が事務局となっています。なお、連絡協議会は令和2年7月2日をもって一区切りとし、一旦解散されています。
2.概要
ここでは連絡協議会にて取りまとめがされ、共有された方針、取扱いのうち主なものについて取り上げます。
(1) 有価証券報告書等の提出時期の一律延長(金融庁)
「企業内容等の開示に関する内閣府令」等が改正され、令和2年4月20日から9月29日までの期間に提出期限が到来する有価証券報告書等について、企業側が個別の申請を行うことなく、期限が一律に令和2年9月末まで延長されました。
有価証券報告書のほか、四半期報告書等も想定されており、令和3年度3月期の第一四半期報告書についても9月末まで延長されています。
(2) 会計上の見積もりを行う際の留意点(企業会計基準員会)
企業が会計上の見積もりを行うに際し、新型コロナウイルス感染症の影響については、外部の情報源に基づく客観性のある情報の入手が困難であるため、企業自らが一定の仮定を置かざるをえないこと、また、この一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、事後的に結果との乖離があったとしても「誤謬」にあたらないことが確認されました。
さらに、企業によりこの一定の仮定には相当なバラつきがあることが予想されることから、会計上の見積もりの前提となった一定の仮定に関する情報を、具体的に開示することも求められています(「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」)。
(3) 固定費等の会計処理(日本公認会計士協会)
政府や地方自治体の要請等に応じ、営業を停止又はイベントを中止した場合、その営業停止期間中に発生した固定費や、イベント開催準備及び中止に直接要した費用で臨時性があると判断されるものについては、損益計算書上の特別損失の要件を満たすものと考えられることが示されました(「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」)。
(4) 新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示(金融庁 他)
前述(2)のとおり、会計上の見積もりの前提となった「一定の仮定」については、情報の具体的な開示が求められているところですが、たとえ当年度の財務諸表に対する影響の重要性が乏しいとしても、翌年度以降に重要な影響を及ぼすリスクについては追加情報の開示を行うことが求められています(「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」)。
四半期財務諸表に関して「一定の仮定」を新たに置いた場合、または変更があった場合にはその旨を追加情報として記載する必要があるものとされ、また重要な変更がなくともそれが財務諸表にとって有用であると判断されれば変更のない旨を記載することも望ましいとされています。
会計上の見積もり以外では、非財務情報において新型コロナウイルス感染症の影響について充実した開示を行うことが期待されています(「四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」)。
(5) その他四半期報告等に関する事項(日本公認会計士協会)
固定資産の減損の兆候の識別(四半期における簡便な取扱い)に関しては、当該資産の回収可能性を著しく低下させる意思決定、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生の有無について留意することとされています。
また、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する四半期特有の簡便的な取扱いの適用については、経営環境に著しい変化が生じておらず、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動がないと認められるか、各企業の状況に応じた判断が必要となります(「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その6)」)。
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