更新日 2019.03.25

税務に関する最新のトピックス

第2回(最終回) 益金・損金の計上時期の取扱いの有効活用と留意点

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹

近年、税制度が複雑化し、条文は細かく難解となっています。
このような状況下、「節税」「間違いのない税務処理」「税務調査で課税を受けないようにすること」は、企業経理担当者等にとって大きな関心事項となっています。
本コラムでは、最近の税務に関するトピックスとして、「マンション取引に係る仕入税額控除否認事件の検証」と「益金・損金の計上時期の取扱いの有効活用と留意点」について解説します。

1.法人税法22条の2が適用される取扱いについて

 企業会計において「収益認識に関する会計基準」が設けられたことを契機として、平成30年度税制改正により、新たに法人税法22条の2《収益の額》が設けられましたが、同条は、原則として平成30年4月1日以後に終了する事業年度に適用されるものとされていますので、現在、既に同条が適用されることとなっています。
 この法人税法22条の2による具体的な取扱いは、法人税基本通達を見なければ殆ど分からないわけですが、「収益認識に関する会計基準」における取扱いが収益の計上を後送りするものが少なくないため、自ずと、同条による取扱いも、収益の計上を後送りすることができて納税者に有利になるというものが少なくありません。
 このため、「収益認識に関する会計基準」に定められている取扱いの中で、早期に適用可能と判断されるものについて、適用を開始することも考えてよいと思われます。

2.税務調査で益金・損金の計上時期の問題を指摘された場合の対応について(1)

 法人税法22条《各事業年度の所得の金額の計算の通則》及び22条の2は、大法人が中小法人の会計基準を使ってはならないという前提で規定が設けられているわけではなく、また、中小法人が大法人の会計基準を使ってはならないという前提で規定が設けられているわけでもありません。
 このため、税務調査において、益金・損金の計上時期に問題があると指摘された場合には、大法人にあっては、「中小法人の会計基準で認められているため法人税法上も容認されるはずである」という抗弁ができないかということ、中小法人にあっては、「大法人の会計基準で認められているため法人税法上も容認されるはずである」という抗弁ができないかということを検討してみることも、在ってよいように思われます。

3.税務調査で益金・損金の計上時期の問題を指摘された場合の対応について(2)

 税務調査では、最後事業年度において、収益の計上が遅すぎるということで課税を受けるものが非常に多くなっており、費用の計上が早すぎるということで課税を受けるものも少なくありません。税務調査では、最後事業年度において、いわゆる“期間損益”の課税を受けるものが非常に多い、ということです。
 このような“期間損益”について課税を受けるという場合には、「翌期認容になるから、加算税の分だけしか影響がない」と言って済ませる、という例が多く見受けられます。
 確かに、“期間損益”の否認額は翌期認容となって、法人税は当該事業年度と翌事業年度を通して見ればプラス・マイナスでゼロとなって、「加算税の分だけしか影響がない」ということになります。
 しかし、このように目先の損得だけを見て済ませたのでは、十分ではありません。
 このような“期間損益”の問題は、多くの場合、毎期、同様の問題が起こっており、税務調査が前年や前々年に行われていれば、前事業年度や前々事業年度にも同様の問題があった、という状態にあって、そのようなときには、各事業年度の処理を正しく行うとすれば、毎期、期間損益の加算と減算の処理をする必要がある、ということになります。
 それにもかかわらず、何故、“期間損益”については、最後事業年度においてだけ加算処理をして済ますことになるのかというと、先ほど、申し上げたように、「翌期認容になるから、加算税の分だけしか影響がない」と多くの者が考えているからです。
 しかし、この考えは、間違っています。
 例えば、毎期、同じ金額の売上の繰延べ計上が続いていたとして、その是正の処理を正しく行ったとすれば、毎期、前事業年度に売上の計上漏れとした金額の認容と当該事業年度の売上の計上漏れの加算とが行われることとなります。その結果、どうなるのかというと、6期以上前の事業年度は、更正期限を過ぎていますので、5期前の事業年度において、6期前の事業年度に売上の計上漏れとした金額の認容の処理から始まることとなり、最後事業年度前の4期の各事業年度においては、所得金額がプラス・マイナスで結果的にゼロということになり、最後事業年度においてのみ、売上の計上漏れの加算が行われることとなります。つまり、最後事業年度において売上げの計上漏れとして加算が行われた金額と同じ金額について、5期前の事業年度において、課税の対象とはならない6期前の事業年度に押し出すという状態になるわけです。そうなると、その6期前の事業年度に押し出した金額は、永久に課税されないこととなります。
 要するに、“期間損益”の問題は、毎期、同じような状態にあるのであれば、それは、“期間損益”の問題ではなく、しかも、そのような問題を税務調査で指摘されるということになれば、それは、納税者にとって通期の税負担を減らすチャンスでもある、ということです。
 このようなことも念頭に置きながら、税務調査に臨むと、税務調査対応業務のレベルを少し上げることができるかもしれません。

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税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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日本税制研究所 代表理事

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