収益認識に関する会計基準ポイント解説

第5回 収益会計基準の論点(ステップ5・その他)

更新日 2018.11.12

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会副代表幹事 公認会計士・税理士 岸田泰治

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
公認会計士・税理士 岸田 泰治

2018年3月30日に「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)、「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)が公表されました。当コラムでは、今回公表された収益認識基準等の内容についてポイント解説します。

今回は、ステップ5とその他の論点についてのポイントを解説します。

1.ステップ5:履行義務を充足したときに又は充足するにつれて収益を認識する

(1) 履行義務の充足

 収益認識の最後のステップであるステップ5では、いつ収益を認識するのかを判定します。
 企業は、「資産に対する支配」を顧客に移転することによって収益を認識します。資産に対する支配は、「当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力」と定義されますが、この「資産に対する支配」の移転のしかたを検討することにより、ステップ2で識別された履行義務が、一定の期間にわたり充足されるものか、一時点で充足されるものかを契約開始時に判断します。
 判断基準は次の①から③のとおりです。これらの要件のいずれかを満たす場合には、一定の期間にわたり収益を認識します。いずれも満たさない場合には、一時点で収益を認識します。

① 企業が義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること

 他の企業が残存履行義務を充足する場合に、現在までに完了した作業を他の企業が大幅にやり直す必要がないのであれば、義務を履行するにつれて顧客が便益を享受するといえます。
 例:清掃サービス、輸送サービス

②企業が義務を履行することにより、資産が創出されるか又は資産の価値が増加し、資産の創出又は資産の価値の増加につれて、顧客が当該資産を支配すること

 顧客が仕掛中の資産を支配していることが明確な場合には、義務の履行による仕掛品の価値増加を顧客が支配することになります。
 例:顧客が所有する土地でのビル建設

③次の要件のいずれも満たすこと

・企業が義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
・企業が義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

 上記、①および②を検討した結果、いずれも満たさない場合に③の要件を検討します。
 資産に代替的な用途がある場合、企業は別の顧客に資産を販売することができますが、代替的な用途がない場合には、企業は顧客の指図に基づいて資産を創出し、顧客は企業の履行につれて便益を享受することになります。
 また、代替的な用途がない場合に契約が解除されると、企業は経済的なリスクを回避するために、それまでの履行分について顧客に支払を要求します。顧客がこのような支払義務を有するということは、顧客が企業の履行につれて便益を享受していることになります。
 例:コンサルティングサービス、ソフトウェアの制作

(2) 進捗度の見積り方法

 一定の期間にわたり充足される履行義務については、進捗度に基づいて一定の期間にわたり収益を認識します。また、進捗度を合理的に見積ることができない場合でも、履行義務を充足するときに費用が回収できるのであれば、費用の額で収益を認識する「原価回収基準」により処理します。一方で、進捗度を合理的に見積ることができず、費用が回収できないと見込む場合は、収益を認識しません。
 進捗度を見積る方法には、アウトプット法とインプット法があります。

アウトプット法
 現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積る方法であり、現在までに移転した財又はサービスと残りの財又はサービスとの比率に基づき、収益を認識します。
 アウトプット法に使用される指標は、現在までに履行を完了した部分の調査、達成した成果の評価、達成したマイルストーン、経過期間、生産単位数、引渡単位数等です。

インプット法
 契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める、履行義務の充足に使用されたインプットの割合に基づき、収益を認識します。
 インプット法に使用される指標は、消費した資源、発生した労働時間、発生したコスト、経過期間、機械使用時間等です。

・アウトプット法

 3月決算であるA社は、B社との間でX2年4月1日に300万円の設備保守サービス契約を締結した。契約期間は2年間である。

X3年3月期

現金預金       150 / 売上高     150 万円(*)
現金預金 150/売上高 150 万円(*)

(*)300万円×12/24=150万円

・インプット法

 3月決算である建設業者A社は、ビル建設工事を契約金額50億円で請け負う契約をX2年10月1日に顧客Bと締結し、契約締結時に完成までの総工事原価を40億円と見積った。当該契約における履行義務はビルの建設である。
 X2年10月1日からX3年3月31日までの期間に当該工事の原価は10億円発生した。当該工事を一定期間にわたって充足される履行義務として発生原価に基づく「インプット法」により会計処理する。

  取引価格 X3/3
ビル建設工事 50 12.5
工事原価 40 10
進捗率   25%

X3年3月期

完成工事未収入金  12.5 / 完成工事高   12.5 億円(*)
工事原価      10  / 現金預金    10
完成工事未収入金 10/完成工事高 10億円
工事原価     10/現金預金  10

(*)50×10/40=12.5

・原価回収基準

 3月決算である建設業者A社は、ビル建設工事を契約金額50億円で請け負う契約をX2年10月1日に顧客Bと締結した。当該契約における履行義務はビルの建設である。
 X2年10月1日からX3年3月31日までの期間に当該工事の原価は10億円発生した。

 進捗度を合理的に見積ることができないが、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれるので、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで回収することが見込まれる費用の額で収益を認識する方法(原価回収基準)で収益認識を行う。

X3年3月期

完成工事未収入金   10 / 完成工事高    10 億円
工事原価       10 / 現金預金     10
完成工事未収入金 10/完成工事高 10億円
工事原価     10/現金預金  10

2.その他の論点

 ステップ1から5の説明で未だ触れていない論点のうち、変動対価の一つである「返品権付きの販売」、ポイント制度等の「追加の財又はサービスを取得するオプション」、商品券等の「顧客により行使されない権利(非行使部分)」について解説します。

(1) 返品権付きの販売

 顧客が商品又は製品を売り手に返品して、対価の全額又は一部の返金、値引き、別の商品又は製品への交換を求める場合があります。このような取引は「返品権付きの販売」として、以下のように取り扱われます。返品調整引当金を設定する現行実務と、収益計上額で差異が生じることになります。

  • ・返品されると見込まれる対価を除いて収益を認識します。
  • ・返品されると見込まれる商品又は製品について、受け取る対価の額で返金負債を認識します。
  • ・顧客から商品又は製品を回収する権利(資産)を認識します。
・返品権付きの販売

 A社は、製品Xを1個200円で販売する100件の契約を複数の顧客と締結し(200円×100個=20,000円)、製品Xに対する支配を顧客に移転した時に現金を受け取った。A社の取引慣行では、顧客が未使用の製品Xを30日以内に返品する場合、全額返金に応じることとしている。製品Xの原価は120円である。
 この契約では顧客が製品Xを返品することが認められているため、A社が顧客から受け取る対価は変動対価である。A社は製品Xが2個返品されると見積った。

収益の計上

現金預金     20,000 / 売上高      19,600円(*)
                返金負債        400
現金預金 20,000 / 売上高  19,600円(*)
           返金負債   400

(*)返品されると見込む製品X2個については収益を認識せず、19,600円の収益を認識する。返品されると見込む製品X2個について、400円(=200円×2個)の返金負債を認識する。

原価の計上

売上原価     11,760  / 棚卸資産     12,000円
返品資産        240(*)
売上原価 11,760  / 棚卸資産 12,000円
返品資産    240(*)

(*)返金負債の決済時に顧客から製品Xを回収する権利について240円(=120円×2個)を認識する。

(2)追加の財又はサービスを取得するオプション

 特定の商品を購入したときに、将来、同一の商品を購入する場合に値引きを受けられる特典や、ポイントなどのオプションを顧客に付与する場合があります。収益会計基準では、このようなオプションが顧客にとって重要な権利を提供する場合、オプションを履行義務として識別して、将来の財又はサービスが移転するとき、又はオプションが消滅するときに収益を認識します。
 ポイント引当金等を設定する現行実務と、収益計上額で差異が生じることになります。

・自社ポイント

 商品Aの売上額10,000千円に対し、自社で利用されるポイント1,000ポイント(1,000千円分)を付与する。翌期以降に利用される見込みのポイントは、1,000ポイント(消化率100%)と見積られた。

履行業務 独立販売価格 取引価格
商品A 10,000 9,090
ポイント 1,000 910
  11,000 10,000

当期

現金預金     10,000 / 売上高     9,090 千円(*1)
                契約負債     910
現金預金 10,000 / 売上高  9,090 千円(*1)
         / 契約負債  910

(*1)10,000×10,000/11,000=9,090

 ポイント制度において、ポイントが重要な権利を顧客に提供すると判断される場合、ポイントを履行義務として識別し、収益の計上を繰り延べる。取引価格を商品とポイントにそれぞれの独立販売価格に基づき配分し、ポイントについては利用された時点で収益を認識する。

翌期
売上高は、12,000千円(現金売上高 11,000千円、ポイント利用1,000千円)であった。

現金預金    11,000  / 売上高     10,000 千円(*2)
                契約負債      1,000
契約負債     910(*3)/ 売上高       910
現金預金  11,000  / 売上高  10,000 千円(*2)
              契約負債   1,000
契約負債   910(*3)/ 売上高    910

(*2)11,000×10,000/11,000=10,000千円
(*3)910×1,000/1,000=910

(3)顧客により行使されない権利(非行使部分)

 商品券の発行など、財又はサービスを移転する前に顧客から対価を受け取る場合、支払いを受けた金額で負債(契約負債)を認識し、財又はサービスを移転したときに契約負債の消滅を認識して収益を認識します。
 顧客から企業に返金が不要な前払いがなされる場合、将来において企業から財又はサービスを受け取る権利が顧客に付与されることになりますが、顧客は当該権利のすべては行使しない場合があります。顧客により行使されない権利を「非行使部分」といいます。
 契約負債のうちの非行使部分について、顧客が商品引換券等を使用しないことが見込まれる場合には、顧客の権利行使のパターンと比例させて収益を認識します。

・商品券(顧客により行使されない権利(非行使部分))

 A社は商品券5,000千円分を現金で発行した。そのうち500千円について、顧客が権利を行使しないと見込んだ。翌年度に216千円分が使用された。

発行年度

現金預金    5,000 / 契約負債    5,000 千円
現金預金 5,000 / 契約負債 5,000 千円

翌年度

契約負債     216 / 売上高       216 千円
契約負債       24 / 雑収入        24(*)
契約負債 216 / 売上高 216 千円
契約負債  24 / 雑収入  24(*)

(*)500×216/(5,000-500)=24
 契約負債における非行使部分について使用される可能性がないと見込む場合には、非行使部分の金額について、顧客による権利行使のパターンと比例させて収益を認識する。

 次回は、代替的な取り扱いについて解説します

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プロフィール

公認会計士・税理士 岸田 泰治(きしだ やすはる)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
連結会計システム普及部会 部会長

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関西総合会計事務所

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