資本金等と従業員数

第1回 法人税における適用関係

更新日 2017.11.20

  • X
  • Facebook
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事 税理士・公認会計士 中野伸也

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
税理士・公認会計士 中野伸也

中小法人等と大法人を区分する基準は、資本金額のみならず従業員数も基準となります。また、法人税法と租税特別措置法の適用においても対象法人等が異なっています。当コラムではこれらの関係について整理し、適用関係等について明確にするとともに、地方税における資本金額、資本金等の額および従業者の数についても解説します。

目次

はじめに

 法人税においては中小法人等と大法人を区分する基準は、普通法人においては資本金額ですが、特定の場面では従業員数も基準となります。中小法人等には法人税法で、また租税特別措置法で各種の特例が認められていますが、その適用においては各制度において対象法人が微妙に異なっています。当コラムではこれらの関係について整理し、適用関係等について明確にしていきたいと思います。
 また、地方税では資本金額、資本金等の額および従業者の数が、税率等の適用上で問題となります。とりわけ複数の自治体に事業所を有している場合の分割基準として従業者数がとられている場合が多いので、地方税での制度間での違いも明らかにするとともに、国税との違いも確認します。

1.中小法人等と中小企業者等

 「中小法人等」という用語は、法人税法の定義規定にはなく、繰越欠損金の規定である法人税法第57条第11項に規定されています。繰越欠損金の使用限度を「所得の百分の五十に相当する金額」ではなく、「所得の金額」とするという規定です。この規定では「大法人」を定義している法人税法第66条第6項を参照しているので、結局法人税法における中小法人等と大法人の区分は次の表のようになります。

第1表
  法人の種類 資本金額 支配関係
中小法人等 公益法人等、協同組合等人格のない社団等 1億円以下 資本金額5億円以上の大法人と完全支配関係がない
大法人等 保険業法の相互会社 1億円超  

 法人税法上の定義は上記のように「中小法人等」と「大法人」ですが、租税特別措置法による定義は「中小企業者等」(措法42条の4②)です。中小企業者等は中小企業者と農業協同組合等で青色申告書を提出する法人を言います。農業協同組合等は資本金額に関係なく中小企業者等に該当しますが、普通法人は資本金額により中小企業者に該当するかどうかが決まります。これをまとめると次のようになります(措令27条の4⑤ほか)。

第2表
  資本金額 従業員数 支配関係等
中小企業者 1億円以下
(3千万円以下)
(千人以下) ①発行済み株式等の1/2以上を同一の大規模法人に所有されていない。
②発行済み株式等の2/3以上を大規模法人に所有されていない。
大規模法人 1億円超 千人超  

 資本金額の3千万円以下、従業員数の千人以下が特例措置適用の要件になるものもあるのでカッコ書きで加えています。
 法人税での中小法人等の判断は、各事業年度末の「資本金額」で判断します。資本準備金等を含めた「資本等の金額」ではありません。
 支配関係については、法人税法の規定(第1表)と租税特別措置法の規定(第2表)では異なっていることに注意してください。法人税法では、グループ法人税制での完全支配関係ですので親会社の親会社なども含まれます。これに対し、租税特別措置法の規定では直接の出資者との関係ですから、親の親会社が大規模法人であっても、親会社の資本金が1億円以下であれば、資本金5千万円の孫会社は中小企業者に該当することになります。

2.中小企業の特例等の適用関係

(1) 法人税法上の中小法人に適用される特例

第1表の中小法人等に適用される特例には次のものがあります。

  • 貸倒引当金の計上 法法52条(中小法人という用語はないが同内容の規定)、措法57条の9
  • 欠損金の繰越控除(100%) 法法57条⑪
  • 軽減税率 法法66条
  • 中小企業者の法人税率の特例 措法42条の3の2
  • 特定同族会社の特別税率 法法67条
  • 欠損金の繰戻し還付 法法80条、措法66条の13
  • 交際費等の800万円定額控除 措法61条の4②

上記のうち、税率関係の規定は法人の種類ごとに規定されているので、大小区分は普通法人のみです。交際費等の800万円定額控除は、資本金額1億円以下としか規定されていないので、協同組合等でも資本金額1億円超の場合は適用がないことになります。

(2) 租税特別措置法上の中小企業者に適用される特例

第2表の中小企業者に適用される特例には次のものがあります。

  • 試験研究費の法人税額の割増特別控除 措法42条の4③
  • 環境負荷低減設備等の特別税額控除 措法42条の5②
  • 中小企業者の機械取得等の特別償却 措法42条の6
  • 中小企業者の機械取得等税額控除 措法42条の6③(資本金額3千万円以下のみ)
  • 特定の地域において雇用者の数が増加した場合の割増特別控除 措法42条の12
  • 特定中小企業者が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除 措法42条の12の3
  • 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除 措法42条の12の4
  • 雇用者給与額が増加した場合の割増特別控除 措法42条の12の5
  • 中小企業者の少額減価償却資産の特例 措法67条の5、措令39条の28(従業員数千人以下に限定。)

従業員の数で大小を判断するのは、「少額減価償却資産の特例」以外は資本または出資を有しない法人のみです。資本金の額が1億円以下であれば、従業員数が幾ら多くても中小法人等あるいは中小企業者等に該当します。

3.法人税法における「従業員の数」

 法人税法においては「従業者の数」と「従業員の数」は異なったものです。「従業者の数」は、法人税法第2条の適格合併の定義規定の中で「当該合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者」と記載されています。そしてこれについては、「役員、使用人その他の者で・・・その事業に現に従事する者」(法基通1-4-4)と役員を含むことが明らかにされています。
 これに対し「従業員の数」は「常用であると日々雇い入れるものであることを問わず、事務所又は事業所に常時就労している職員、工員等(役員を除く。)の総数」(措通42の4(2)-3)と、役員を含まないことが明確にされています。したがって、中小企業者等に該当するかどうかは、役員を含まないところで考えることになります。
 なお、「従業員の数」は期末現在で判断するのが原則ですが、少額減価償却資産の特例についてはその資産の取得時の現況により判断します。ただし、期をとおして中小企業者等である法人については、期末時に従業員数が千人以下であれば期中で千人超の時があっても適用を認めることとされています(措通67の5-1)。

  • X
  • Facebook

この連載の記事

テーマ

プロフィール

税理士・公認会計士 中野 伸也(なかの しんや)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
連結納税システム普及部会 部会長
TKC企業グループ税務システム小委員会委員

ホームページURL
中野会計事務所

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。