更新日 2017.10.30
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 三浦 誠
経済のグローバル化に伴い、クロスボーダー取引に関する税務上の取扱いが複雑になっています。また、近年、国際的な租税回避行為に対し国民の関心が高まっていることから、税制面においても様々な制度改正が行われています。
当コラムでは、近年の国際課税分野における税制改正のうち、主要なものについて解説します。
1.はじめに
平成29年度税制改正において、OECDのBEPSプロジェクトの議論を踏まえ、外国子会社合算税制の抜本的改正が行われることになりました。外国子会社合算税制は、国内企業が低税率の外国子会社に所得を移転することにより、日本における法人税負担を不当に軽減することを防ぐため、一定の要件に該当する外国子会社の所得について、国内企業(海外子会社の株主)の所得に合算して日本で課税するものです。
現行制度においては、外国子会社の租税負担割合が20%以上であれば、経済実体を伴わない所得であっても合算されず申告も求められない一方、実体ある事業から得た所得であっても合算されてしまう場合についての問題が指摘されていました。
そこで、外国子会社の経済実体に即して課税すべきとのBEPSプロジェクトの基本的な考え方を踏まえ、経済実体がない、いわゆる受動的所得は合算対象とする一方で、実体のある事業からの所得であれば、外国子会社の税負担率にかかわらず合算対象外とする方向に改正することとなります。そのため、租税負担割合(いわゆるトリガー税率)は廃止されます(ただし、納税者の事務負担の大幅な増加を回避するために、制度適用免除基準としての「税率基準(租税負担割合)」は残されています。)が、企業の事務負担に配慮し、租税負担割合が20%以上となる外国関係会社については、経済活動基準の判定は必要なく、ペーパーカンパニー等特定の外国関係会社を除き、合算課税の対象外とされます。なお、ペーパーカンパニー等特定の外国関係会社についても、租税負担割合が30%以上となる場合には、合算課税の対象外とされます。
2.改正後の外国子会社合算税制の全体像
改正後の外国子会社合算税制の全体像は、以下のとおりです。
3.納税義務者・外国関係会社の範囲(実質支配基準の導入)
居住者又は内国法人と外国法人との間に、その居住者又は内国法人がその外国法人の残余財産の概ね全部を請求することができる等の関係がある場合におけるその外国法人を外国関係会社の範囲に加えるとともに、その居住者又は内国法人が納税義務者に加わります。
また、外国関係会社の判定における間接保有割合について、内国法人等との間に50%超の株式等保有を通じた連鎖関係がある外国法人の判定対象となる外国法人に対する持分割合等により算定する改正がされます。
4.適用除外基準から経済活動基準への改正
適用除外基準について次の見直しを行った上で経済活動基準に改められます。
この改正により、実体のある航空機リース会社は事業基準を満たすことになり、いわゆる「来料加工」は所在地国基準を満たすことになります。
(1) 事業基準
航空機の貸付けを主たる事業とする外国関係会社のうち、本店所在地国においてその役員または使用人が航空機の貸付けを的確に遂行するために通常必要と認められる業務の全てに従事していること等の要件を満たすものについては、事業基準を満たすものとされます。
(2) 実体基準及び管理支配基準
保険委託者の実体基準及び管理支配基準の判定について、その保険委託者に係る保険受託者が実体基準又は管理支配基準を満たしている場合には、その保険委託者は実体基準又は管理支配基準を満たすものとされます。
(3) 所在地国基準
製造業を主たる事業とする外国関係会社のうち、本店所在地国において製造における重要な業務を通じて製造に主体的に関与していると認められるものの所在地国基準の判定方法について、所定の整備が行われます。
(4) 非関連者基準
①非関連者との間で行う取引の対象となる資産、役務その他のものが、関連者に移転又は提供されることがあらかじめ定まっている場合には、その非関連者との間の取引は、関連者との間で行われたものとみなして非関連者基準の判定を行う等の見直しがされます。
②保険業を主たる事業とする外国関係会社が保険委託者に該当する場合における非関連者基準の判定について、その外国関係会社がその外国関係会社に係る保険委託者との間で行う取引は関連者取引には該当しないものとされます。
③航空機の貸付けを主たる事業とする外国関係会社については、非関連者基準が適用されることになります。
5.資産性所得から受動的所得への改正
資産性所得が受動的所得と改められ、課税範囲が拡大される一方、少額免除基準額は2,000万円以下(改正前は1,000万円以下)とされます。
6.ペーパーカンパニー等に対する合算課税
全体像に記載のように、「ペーパーカンパニー」「事実上のキャッシュボックス」及び「ブラックリスト国所在のもの」の概念が導入され、これらについては、経済活動基準の判定をせずに会社単位で合算課税の対象とされることになります。ただし、これら外国関係会社の当該事業年度の租税負担割合が30%以上である場合には、合算課税の適用は免除されます。
7.外国関係会社に係る財務諸表等の添付
租税負担割合が20%未満の外国関係会社、租税負担割合が30%未満の外国関係会社で上記6のペーパーカンパニー等に該当するものに係る財務諸表等を確定申告書に添付しなければなりません。
8.適用時期
外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。外国子会社合算税制は、外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から2か月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度において適用されますが、例えば、外国関係会社が12月決算で、内国法人が3月決算の場合、外国関係会社の「平成30年4月1日以後開始する事業年度」は平成31年12月期となるため、改正後の外国子会社合算税制の適用は、外国関係会社の同事業年度を対象に、その事業年度終了2か月を経過する日の属する、内国法人の平成32年3月期に適用されます。
9.おわりに
改正後の外国子会社合算税制の適用開始までに、日本企業が検討すべき問題として、以下のようなものが考えられます。
①上記6の改正に伴い、租税負担割合が20%以上である外国子会社が、ペーパーカンパニー等に該当可能性の有無の確認
②上記5の改正に伴い、租税負担割合が20%未満であったものの、適用除外基準を満たし、かつ、資産性所得が生じていなかった外国子会社について、受動的所得の有無の確認(例えば、持株割合が25%未満の株式に係る配当、グループファイナンスを行う会社における利子、デリバティブ取引損益、外国為替差損益等)
③これらにより把握された潜在的リスクに基づくストラクチャーやビジネスモデルの見直し等
プロフィール
税理士 三浦 誠(みうら まこと)
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