事業承継税制と株価評価

第2回 評価方法(原則的評価と類似・配当還元)

更新日 2017.07.24

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 坪多晶子

TKC全国会 中央研修所租税法研修小委員長
中堅・大企業支援研究会会員
税理士 坪多 晶子

平成29年度税制改正においては、取引相場のない株式の評価の見直し、相続税・贈与税の納税猶予制度の見直しなど、事業承継に係る制度改正が行われています。
当コラムでは、株式評価の原則的な計算方法等を解説するとともに、今回の税制改正において行われた事業承継税制に係る改正の内容とその影響について解説します。

 今回は第1回『株価評価の原則と会社区分』に引き続き、「取引相場のない株式」の評価方法です。類似業種比準方式は、平成29年度税制改正で変更がありましたので、改正内容とその影響も解説致します。

Point
①「類似業種の株価(A)」に「課税時期の属する月以前2年間の平均株価」が加えられた
②類似業種の1株当たりの配当金額・利益金額・簿価純資産価額の計算方法を改正
③配当金額・利益金額・簿価純資産価額の割合を1:1:1に見直し

1.株主の分類によって評価方法は異なる

 「財産評価基本通達」によると、同じ取引相場のない株式でもその株式を取得することによって原則的評価方法(類似業種比準方式など)で評価する株主と、特例的評価方法(配当還元方式)で評価する株主とに区分されます。

2.原則的評価方法

 同族株主等の支配を有する者の評価方法です。

(1) 類似業種比準方式

①計算方法
 類似業種比準方式とは、よく似た業種(類似業種)から選定した標準的な上場株式の株価から、比較のための基準として「配当金額」「利益金額」「簿価純資産価額」を使って取引相場のない株式を評価する方法です。

②改正とその影響

  1. 「類似業種の株価(A)」に「課税時期の属する月以前2年間の平均株価」が加えられた
     類似業種比準方式における「類似業種の株価(A)」は、国税庁の発表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別価額等」を基にして計算します。
     改正前の「類似業種の株価(A)」は、課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価のうち最も低いものとされていました。ただし、納税義務者の選択により、類似業種の前年平均株価によることができました。改正により、課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価及び前年平均株価に「課税時期の属する月以前2年間の平均株価」を加えて、最も低い金額とすることとされました。
     これにより、基準となる業種目価額等がこれまでより低くなる可能性が高くなり、納税者にとって有利になることが予想されます。
  2. 類似業種の1株当たりの配当金額等の計算方法の改正
     類似業種の「1株当たりの配当金額(B)」「1株当たりの利益金額(C)」「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)(D)」については、連結財務諸表を作成している標本会社について、連結財務諸表を基に計算した金額によることとする改正も行われました。
     また、「1株当たりの利益金額(C)」を計算するにあたっては、「法人税の課税所得金額(固定資産売却益、保険差益等の非経常的な利益の金額を除く)に、その所得の計算上益金に算入されなかった剰余金の配当(資本金等の額の減少によるものを除く)等の金額(所得税額に相当する金額を除く)及び損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額」とされていましたが、会計上の「税引前当期純利益の額」と読み替えて計算するとされます。
     「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)(D)」を計算するにあたっては、「資本金等の額及び法人税法第2条第18号に規定する利益積立金額に相当する金額(法人税申告書別表五(一)「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」の差引翌期首現在利益積立金額の差引合計額)」とされていましたが、会計上の「純資産の部」と読み替えて計算するとされます。
  3. 配当金額・利益金額・簿価純資産価額の割合の見直し
     改正前は配当金額の割合を1、利益金額の割合を3、簿価純資産価額の割合を1として計算していましたが、改正により下記図のように1:1:1の割合に見直されました。

  4. 適用関係と改正の影響
     これらの改正は、平成29年1月1日以後の相続又は遺贈若しくは贈与から適用されます。
     財産評価基本通達改正前は、「利益金額」の比重が大きくなっていました。ゆえに、純資産が少額であっても利益金額が多い会社は株式評価額が高くなり、純資産が豊富でも利益金額の少ない会社は、資産規模の割には株式評価額が低くなっていました。改正後は利益の大きい会社は株式評価額が大きく減少する可能性が高いと思われますが、利益が小さく資産の豊富な会社の株式評価額は増加することもありえますのでご注意ください。
(2) 純資産価額方式

 純資産価額方式とは、その会社が持っている資産価額から株式の評価額を判定する方法です。この場合の資産価額は、帳簿価額ではありません。資産はすべて(負債も含めて)その時の相続税評価額で評価しなければなりません。

3.特例的評価方法(配当還元方式)

 同族株主等以外の支配を有しない者の評価方法です。
 配当還元方式は、その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価します。

プロフィール

税理士 坪多 晶子(つぼた あきこ)
TKC全国会中央研修所租税法研修小委員長
中堅・大企業支援研究会会員

略歴
京都市出身。大阪府立茨木高校卒業。神戸商科大学卒業。1990 年坪多税理士事務所設立。
1990年 有限会社トータルマネジメントブレーン設立、代表取締役に就任。
2012年 税理士法人トータルマネジメントブレーン設立。代表社員に就任。
上場会社の非常勤監査役やNPO 法人の理事及び監事等を歴任、現在TKC 全国会中央研修所租税法研修小委員長、TKC 全国会資産対策研究会研修企画委員長。上場会社や中小企業の資本政策、資産家や企業オーナーの資産承継や事業承継、さらに税務や相続対策などのコンサルティングには、顧客の満足度が高いと定評がある。また、全国で講演活動を行っており、各種税務に関する書籍も多数執筆。
著書等

 他多数

主宰会社
税理士法人 トータルマネジメントブレーン
有限会社 トータルマネジメントブレーン
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