新会計基準と別表4・5のポイント解説

第2回 減損会計

更新日 2016.08.22

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公認会計士・税理士 鈴木基史

公認会計士・税理士 鈴木 基史

法人税申告書作成において、別表4、5に関する問題の論点の一つに新会計基準による申告調整があります。当コラムでは、新会計基準のうち「退職給付会計」「減損会計」「資産除去債務会計」「過年度遡及会計」について制度の概要をわかりやすく説明するとともに別表4、5の記載のポイントや実務上の留意点を解説します。

1.減損会計とは

 平成14年8月に「固定資産の減損に係る会計基準」が公表され、上場企業等に対して平成18年3月期から適用されています。
 減損会計は減価償却から派生した会計手法で、固定資産を対象としたものです。株式の強制評価減のことを“減損処理”という場合がありますが、言葉の使い方として正確ではありません。
 用語の話はさておき、そもそも減価償却は、長期間使用する固定資産から生み出される収益と、その資産の取得原価を対応させるための手続きです。この処理は、耐用年数の各期間にわたってその固定資産が収益を生み出し続けることが前提で、収益を生まなくなれば、償却計算は費用収益対応の観点からの妥当性を失います。
 たとえば、ある製品を生産するために機械を購入し、その後、その製品が生産中止となれば、もはやその機械から収益は生じません。となると、減価償却で費用配分する処理に合理性はなく、生産中止時点の帳簿価額を費用に振り替えねばなりません。

(借)減損損失   ×××     (貸)機械   ×××
(借)減損損失 ××× (貸)機械 ×××

 収益性の低下した資産を帳簿価額のまま評価するのは妥当でなく、決算書に収益性低下の事実を反映させるため、簿価を臨時的に減額するための処理(減損処理)を行なわねばなりません。

2.減損損失に対する税務上の取扱い

 税務上、減損損失について直接の規定はなく、類似する取扱いとして「評価損」に関する定めが設けられています。資産の評価損は未実現の損失なので、原則として損金不算入とされ、例外的に一部のケースで損金算入を認めています(法法33②、法令68①三)。
 税務上の評価損は、特殊なケースで資産価値が低下したものに限定され、単なる時価の下落や陳腐化を理由とした評価減は認められません。これに対し減損会計では、将来キャッシュ・フローの減少や時価の下落など、きわめて広範な事象が対象とされます。また、減損会計では資産グループ全体についての損失を認識した上で、それを各資産に配分しますが、税務では資産グループについて評価損を計上することを前提としていません。
 現行税制のもとではおそらく、減損損失が損金算入となるケースは皆無で、すべて申告調整が必要とされていると思います。

3.減損損失と申告調整

(1) 土地に対する申告調整

 土地を減損処理したとき、損失計上額はそのまま別表4で加算です。また、土地勘定の簿価が過少となっているので、その分、別表5(1)で利益積立金が計上されます。減損後にその簿価が引き上げられることは通常ありません。したがって、その土地を売却等するまで、利益積立金はそのまま残ります。減損損失(評価損)が“実現損失”となり、税務と会計の食い違いが解消すれば、税務上認容されます。別表4で減算が生じ、別表5(1)の利益積立金は消滅します。

(2) 減価償却資産に対する申告調整

 建物等で計上した減損損失は、税務上、「償却費として損金経理をした金額」に含まれます(法基通7-5-1(5))の(注))。いわゆる「みなし償却」の取扱いによって、償却限度額を計算する際、当期償却費に減損損失計上額が含まれます。その結果、減損損失は償却超過額となり、別表4で加算されます。
 さらに、この金額分だけその固定資産の簿価が過小となっているので、それが利益積立金として別表5(1)に計上されます。
 減損後、会計上の償却費は減少しますが、税務上は減損後も従来どおりに償却計算を行います。そこで償却不足額が生じるので、以後の年度において毎年、それを別表4で認容(減算)することになります。また、別表5(1)において利益積立金が同額だけ減少していきます。
 最終的には土地の場合と同様、売却等によって減損損失(評価損)が“実現損失”となり、別表4で残額の減算が生じ、別表5(1)の利益積立金は0となります。

4.申告書記入例

(1) 減損会計適用の事業年度
<別表4>
区分 総額 処分
留保 社外流出
(加算)
減価償却超過額
7 33,618,600 33,618,600
土地減損損失否認額 54,152,000 54,152,000
<別表5 (1)>
Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在高 当期の増減 期末現在高
建物 33,618,600 33,618,600
土地 54,152,000 54,152,000
(2) 減損会計適用の翌事業年度
<別表4>
区分 総額 処分
留保 社外流出
(減算)
償却超過の当期認容額
12 1,820,120 1,820,120
<別表5 (1)>
Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在高 当期の増減 期末現在高
建物 33,618,600 1,820,120 31,798,480
土地 54,152,000 54,152,000
(3) 減損資産を処分した事業年度
<別表4>
区分 総額 処分
留保 社外流出
(減算)
償却超過の当期認容額
12 31,798,480 31,798,480
土地減損損失認容額 54,152,000 54,152,000
<別表5 (1)>
Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在高 当期の増減 期末現在高
建物 31,798,480 31,798,480 0
土地 54,152,000 54,152,000 0

5.実務上の留意点

 減損会計では、減損の“兆候”をとらまえ、その損失を“認識”し“測定”するものとされています。いかなる状況下で減損損失の計上を考えるか――会計基準の適用指針において、具体例がいくつか示されています。たとえば、ある店舗の採算が2期連続で赤字の場合、それを減損の兆候と見て、減損処理を検討することとされています。
 減損損失として計上する金額は、固定資産の帳簿価額と将来キャッシュ・フローとの差額です。その店舗の残存耐用期間を通じたキャッシュ・フロー、要はその店舗で今後いくらの売上げが上がるかを見込みます。通常、それは中長期の計画から来る数字でしょうが、あまりにバラ色の計画では監査法人の理解は得られません。せいぜい過去の実績値程度の金額でなければなりません。
 次に、将来にわたる数値なので、現在価値への割引計算が必要とされます。その際の割引率をどこから引っ張ってくるか、これには実務でほぼ定着した指標があります。WACC(ワック…株主資本コストと負債資本コスト(自己資本と他人資本の各調達コスト)を加重平均した利率)を使うのが一般的です。
 この利率は株価や企業リスク等を反映したもので、上場企業ごとオーダーメイドで客観的に設定されています。減損会計のほか資産除去債務会計でも割引率を使った計算が要求されますが、その際、これと乖離した割引率を使っていると、監査法人が納得しません。よほどの事情がない限り、各企業ともWACCで計算しているようです。

プロフィール

公認会計士・税理士 鈴木 基史(すずき もとふみ)
神戸大学経営学部卒業
平成15~17年 税理士試験委員
平成21~24年 公認会計士試験委員(租税法)

著書等
「対話式 法人税申告書作成ゼミナール」「法人税申告書別表4・5ゼミナール」「法人税申告の実務」「対話式 消費税申告書作成ゼミナール」「根拠法令から見た法人税申告書」「法人の修正申告実務」「鈴木基史のキーワード法人税法」(以上 清文社)、「最新法人税法」(中央経済社)「やさしい法人税」(税務経理協会)他

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