平成27年度(平成28年3月期)税務申告の直前対策

第2回(最終回) 法人税申告(地方税を含む)の直前対策(その2)

更新日 2016.03.07

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TKC中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 鯨岡 健太郎

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 鯨岡 健太郎

今回の決算及び税務申告は、平成27年度税制改正のみならず平成26年度以前の税制改正内容の初度適用や地方税に関する改正項目も多く含まれています。当コラムでは、平成28年3月期決算法人のための直前対策として、決算及び税務申告において初めて適用される主な法人税(地方税も含む)、消費税に関する税制改正項目について解説します。

3.法人税申告(地方税を含む)の直前対策(続き)

(5) 所得拡大促進税制

①法人税の改正

 適用要件が緩和され、基準年度の雇用者給与等支給額からの増加割合(増加促進割合)として、平成28年3月期については4%(中小企業者等は3%)が適用されます。

②事業税の改正

 平成27年度の税制改正により、事業税にも所得拡大促進税制が適用されることとなりました。
 具体的には、法人税において控除税額の計算基礎となる「雇用者給与等支給増加額」に一定の調整を加えた額を、付加価値割の課税標準である「付加価値額」から控除することとされました(地法附則9⑬⑭)。
 付加価値額からの控除額は、以下の算式で計算されます。

 事業税において所得拡大促進税制を適用する場合、以下の諸点に留意が必要です。

  • (ア)税額控除ではなく「課税標準からの控除」であることから、適用要件を満たす以上は税額が発生しなくても適用することができます。
  • (イ)連結法人も単体ベースで適用要件を判断することになります(事業税取扱通知4の2の17)。ただし、平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額については、連結ベースでの判断をそのまま用いることもできます。
    その結果、法人税(連結納税)では適用要件を満たさなくても、事業税(単体納税)では適用できる可能性があります。
  • (ウ)法人税に「雇用促進税制」を適用している場合であっても、事業税では所得拡大促進税制の適用を受けることができます。
  • (エ)当初申告要件が付されていないため、事後的に更正の請求が可能です。
(6) 地方拠点強化税制の創設

①概要

 大都市圏にある本社機能を地方に移転させる場合(移転型)、又は地方にある本社機能をさらに拡充させる場合(拡充型)において、「地域再生法」に定める「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」の認定を受けた法人が、一定の建物等を取得した場合特別償却(又は税額控除)の制度が創設されました(オフィス減税。措法42の12)。
 また、雇用促進税制の諸要件を満たした場合には、特定業務施設における増加雇用者に対して、控除税額が上乗せされる特例が創設されました(措法42の12の2)。

②オフィス減税

 青色申告法人が、指定期間(平成27年8月10日から平成30年3月31日)内に、地域再生法に定める「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」の認定を受け、認定の日後2年以内に、計画に記載されている「地方活力向上地域」内に特定業務施設に該当する建物等(特定建物等)を取得し事業の用に供した場合に、その特定建物等の取得価額に対して以下の通り特別償却又は税額控除を行うことができます。

  特別償却 税額控除
移転型 取得価額の25%相当額 取得価額の7%相当額 計画認定が平成29年度の場合は4%
拡充型 取得価額の15%相当額 取得価額の4%相当額 計画認定が平成29年度の場合は2%

③雇用促進税制の特例

 「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」の認定を受けた青色申告法人が、雇用促進税制の適用要件を満たしている場合には、適用要件の充足度合いに応じ、特定業務施設の当期増加雇用者(基準雇用者数)に対して通常の税額控除とは別個の税額控除が認められます(措法42の12の2②)。
 控除上限は、オフィス減税と雇用促進税制(特例)の合計について、法人税額の30%とされます。

  移転型 拡充型
適用要件の全て(①~③)を満たしている

(初年度)
 増加雇用者1人当たり50万円

(初年度から3年間)
その特定業務施設の増加雇用者1人当たり30万円

1人当たり50万円
適用要件の①及び③を満たしている(②を満たしていない)

(初年度)
 増加雇用者1人当たり20万円

(初年度から3年間)その特定業務施設の増加雇用者1人当たり30万円

1人当たり20万円

(適用要件)

  1. ①基準雇用者数が5人以上であること(雇用促進計画の達成状況についてハローワークによる確認が必要)
  2. ②基準雇用者割合が10%以上であること
  3. ③給与等支給額が比較給与等支給額以上であること
(7) 地方税における「資本金等の額」の見直し

 住民税均等割や事業税資本割は、「応益課税の考え方」(地方自治体の提供する行政サービスの対価として、企業規模に応じた税負担を求める考え方)に基づき課税される税とされており、企業規模を近似する指標として、法人税における「資本金等の額」を用いています。
 法人税法上、「資本金等の額」は、会計上の資本金の額又は出資金の額を基礎として、一定の項目について加減算の調整を経て算出されます(法令8)。たとえば、無償減資により減少した資本金及び資本準備金の額は、資本金の額の算定上は加算調整項目とされ(同十二)、利益準備金又は利益剰余金の資本組入額(無償増資)により増加した資本金の額は、資本金等の額の算定上は減算調整項目とされます(同十三)。
 しかし、このような調整計算が考慮されることで、資本金等の額が法人の実態と乖離することがあり、「応益課税の考え方」にそぐわない局面が指摘されています。典型的には、無償増資や無償減資による資本金の増減は税務上はなかったこととされるため、会計上の「資本金額(資本金+資本剰余金)」と税務上の「資本金等の額」に乖離が生じる局面です。さらには、自己株式の取得や組織再編等により、税務上の資本金等の額がときにマイナスになることもあります。この場合には、資本金等の額はゼロとして取り扱われ、住民税均等割や事業税資本割の税額も最小負担で済むこととなり、課税上の弊害が指摘されていました。
 そこで平成27年度の税制改正により、以下の2つの取扱いが創設されました。

①無償増資及び欠損填補目的の無償減資の調整(住民税)

 住民税均等割の判定基礎となる「資本金等の額」について、無償増資及び一定の無償減資について、法人税における「資本金等の額」をさらに調整する取扱いが定められました(地法23①四の五、292①四の五)。具体的には以下の通りです。

(無償増資の調整)利益準備金・利益剰余金の資本組入額を「資本金等の額」に加算する

(欠損填補目的の無償減資の調整)欠損填補に充当した減少資本金額を「資本金等の額」から控除する。
ただし欠損填補に充当できるのは、充当日以前1年間において「その他資本剰余金」として計上した額に限られる(地規1の9の2③)。

 上記の調整は、事業税資本割では従来より定めのある取扱いです(地法72の21)。今回の改正によって、事業税と住民税で「資本金等の額」の算定方法が一本化されたことになります。

②資本金等の額に対する下限設定(住民税・事業税)

 ①の調整を考慮して計算された「資本金等の額」が、会計上の資本金及び資本準備金の額の合算額を下回る場合には、会計上の資本金及び資本準備金の額の合算額を用いて住民税均等割及び事業税資本割の税額を算定することとされました(地法52④~⑥、72の21②、312⑥~⑧)。
 自己株式を保有している等の理由で、税務上の資本金等の額が会計上の資本金及び資本準備金の額の合算額を下回っている企業の税負担が増加する可能性があるため、該当の企業は特にご留意ください。

(8) 法人に係る利子割の廃止

 法人に係る利子割が廃止され、あわせて利子割額の法人住民税(法人税割)からの控除も廃止されました。
 この取扱いは、平成28年1月1日以後に支払を受ける預貯金の利子等から適用されるため、利子のグロスアップ計算で誤りのないよう留意が必要です。

(9) 公社債利子等に係る所得税額控除の改正

 平成28年1月1日以後に支払を受ける公社債の利子等に係る所得税額控除について、所有期間按分方式が廃止され、全額控除することとされました(法令140の2①)。

4.消費税申告の直前対策

 平成27年10月1日以降の「電気通信利用役務の提供」について、内外判定基準が見直されたため、消費税の集計上留意が必要です。
 電気通信利用役務の提供とは、資産の譲渡等のうち、電気通信回線を介して(ネット経由で)行われる電子書籍、音楽等の著作物の提供や広告配信等の役務提供をいい(消法2八の三)、当該役務の性質又は当該役務の提供に係る契約条件等により、当該役務の提供を受ける者が事業者であることが明らかなものを「事業者向け電気通信役務の提供」とし(消法2八の四)、それ以外の電気通信利用役務の提供(消費者向け電気通信利用役務の提供)と区別されます。
 従来、役務提供に係る内外判定は、役務提供を行う者の事務所等の所在地で行うこととされていたため、配信事業者が国外にある場合には「国外取引」として不課税(対象外)とされていましたが、今回の改正により、電気通信利用役務の提供については、役務の提供を受ける者の住所地により内外判定を行うこととされました(消法4③三)。この結果、役務の提供を受ける者が国内にあれば「国内取引」として、消費税の課税対象取引となります。
 そして、国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、「事業者向け電気通信利用役務の提供」については、その取引に係る消費税の納税義務を、役務の提供を受ける事業者に転換することとされました(消法5①。リバースチャージ方式)。

 リバースチャージ方式が定められたことに伴い、消費税の課税対象取引として「特定課税仕入れ」という新たな区分が設けられました。特定課税仕入れとは、事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等と定義され(消法4①)、特定資産の譲渡等とは「事業者向け電気通信利用役務の提供」及び「特定役務の提供」をいいます(消法2八の二)。

 これに対し、「事業者向け電気通信利用役務の提供」以外については、従来と同様、国外事業者が納税義務者となります(国外事業者申告納税方式)が、その国外事業者が国税庁に対して登録しない限り、役務提供を受けた事業者側では仕入税額控除を行うことができません(登録国外事業者制度)。

 以上を踏まえ、電気通信利用役務の提供に関する消費税の取扱いについてまとめると、下表のとおりとなります。

  国外事業者申告納税方式 リバースチャージ方式
役務提供先 消費者向け 事業者向け
納税義務者 役務提供を行う事業者(国外事業者) 役務提供を受ける事業者
課税対象取引 事業として対価を得て行う課税資産の譲渡等(課税売上) 事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等(特定課税仕入れ)
課税標準 課税売上高(税込)×100/108 取引の相手方に支払った対価の額
(×100/108の調整は不要)
消費税額
(国税)
課税売上高(税込)×6.3/108 支払対価の額(税抜)×6.3/100
仕入税額控除
  • 当分の間認めないことを原則とする(消法H27附則38①)
  • 登録国外事業者に対するものは控除可能(同38、39)
特定課税仕入れに係る消費税額と同額の課税仕入れを認識する(消法30①)
その他 登録国外事業者のリストは国税庁ホームページに公表されている(注)
  • 国外事業者はあらかじめ、該当の取引はリバースチャージ方式の対象となり、国内事業者が納税義務を負う旨を表示しなければならない(消法62)
  • 当分の間、課税売上割合が95%以上の事業者は、特定課税仕入れはなかったものとして取り扱われる(消法H27附則42)

(注)http://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/cross/touroku.pdf

プロフィール

税理士・公認会計士 鯨岡 健太郎(くじらおか けんたろう)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

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