更新日 2015.08.24

IFRSの最近の動向

第1回 IFRS強制適用の可能性を金融庁の動きからさぐる(その1)

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TKCシステム・コンサルタント 公認会計士 中田清穂

TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

2013年以降、金融庁において、IFRSに関する様々な動きが見られます。このコラムでは、「IFRSの適用」についてのこれまでの経緯と金融庁の最近の動きから見えてくる「IFRS強制適用の可能性」について解説します。

 IFRSの強制適用については、これまで以下のような経緯がありました。

2009年6月:
金融庁企業会計審議会は「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」において、「将来的な強制適用の是非」として、強制適用の判断時期は、2012年を目途とし、2012年に判断できた場合には、2015年又は2016年に適用を開始することを公表しました。

 これを受けて、2009年から2011年前半までは、日本の上場企業はほとんどと言ってよいくらい、IFRS対応のために、積極的な情報収集やプロジェクトの立ち上げを行いました。

2011年6月:
金融庁の自見庄三郎担当大臣が会見し、2015年にも実施される可能性があったIFRSの強制適用を、2017年以降にする考えを示しました。

 このため、一度ヒートアップしたIFRS対応熱はすっかり冷めてしまい、一部の企業を除き、IFRSについては、情報収集すらやめてしまう事態となりました。

 この間、民主党政権下での企業会計審議会は、半年に1度のペースでしか開催されず、開催されても、各委員が意見を述べるだけで、全くまとまりのない審議が繰り返される状況でした。

 ところが、政権交代が実現した2012年が明けた2013年3月に、企業会計審議会が再開されると、4月、5月、6月と毎月連続して開催され、6月には2回も開催されました。
 2012年までとは、明らかに異なる動きです。

 そして、2013年6月の2回目の審議会(6月19日)では、「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下、「当面の方針」)の内容が確定し、翌日20日には金融庁が正式に公表しました。

 「当面の方針」での「強制適用」に関する記述は以下です。

我が国におけるIFRSの強制適用の是非等については、上記のような諸情勢を勘案すると、未だその判断をすべき状況にないものと考えられる。

 そしてその文章の後に続くのが以下です。

この点については、今後、任意適用企業数の推移も含め今回の措置の達成状況を検証・確認する一方で、米国の動向及びIFRSの基準開発の状況等の国際的な情勢を見極めながら、関係者による議論を行っていくことが適当である。
なお、仮に強制適用を行うこととなった場合には、十分な準備期間を設ける必要がある。

 つまり「強制適用」はまだ可能性として残っているのです。
 先送りされている状況なのです。

 ただ、この文脈では、「任意適用企業数」が増加すれば「強制適用」は不要だということになるのか、逆に、「任意適用企業数」が増加した段階が「強制適用」をすべき時期だというのかが、よくわかりません。

 一体金融庁は、IFRSの強制適用をしたいのか、したくないのか、どちらでも良いのか、そのあたりをはっきりさせてもらえれば、各企業としても対応方針が決められるのですが、そこがはっきりしていません。

 しかし、2013年以降の金融庁の様々な動きを見ていると、金融庁のスタンスや優先順位が見えてきます。

 次回は、「IFRS強制適用」に関する金融庁のスタンスや優先順位が見えてくる「根拠」のいくつかを示してみたいと思います。

プロフィール

公認会計士 中田 清穂(なかた せいほ)
TKC連結会計システム小委員会委員

著書等
  • 『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
  • 『連結経営管理の実務』(中央経済社)
  • 『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)
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