TKC全国会 中堅・大企業支援研究会(中大研)

掲載日:2015.07.21

税効果会計の最新情報

第1回 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)の概要

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 公認会計士・税理士 福田武彦

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
公認会計士・税理士 福田 武彦

日本公認会計士協会「監査委員会報告第66号」が見直され、平成27年5月26日に「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」が公表されました。当コラムでは、今回公表された「適用指針(案)」の見直しの内容と実務に与える影響を2回にわたってわかりやすく解説します。

1.適用指針(案)の位置づけ

 日本では、従来、金融庁長官の諮問機関である「企業会計審議会」が、会計基準を作ってきましたが、国際的な要請もあり民間団体が主体となって会計基準を作ることとなり、平成13年7月に公益財団法人 財務会計基準機構が設立され、その内部組織として会計基準の設定主体である「企業会計基準委員会」が設置されました。
 税効果会計に関する会計基準は、平成10年10月に「企業会計審議会」から「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という。)が公表され、これを受けて、日本公認会計士協会から「会計上の実務指針」及び「監査上の実務指針」が公表されました。
 現在、この日本公認会計士協会が公表した税効果会計に関する「会計上の実務指針」及び「監査上の実務指針(会計処理に関する部分)」について、「企業会計基準委員会」に移管すべく審議が行われています。
 今回は、主に日本公認会計士協会 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「監査委員会報告第66号」という。)について見直した上で引き継ぐこととし、平成27年5月26日に「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」(以下「適用指針(案)」という。)が公表されました。

*「監査委員会報告第66号」と「適用指針(案)」の比較

  「監査委員会報告第66号」 「繰延税金資産の回収可能性
に関する適用指針(案)」
設定主体 日本公認会計士協会
「監査・保証実務委員会」
公益財団法人 財務会計基準機構の内部組織である「企業会計基準委員会」
位置づけ 監査上の実務指針 会計基準

*「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」策定の目的

  1. ①設定主体を「企業会計基準委員会」に移管すること。
  2. ②会計基準等が設定されてから現在までの運用状況を踏まえて、適切な見直しを行うこと。

*「監査委員会報告第66号」については、撤廃すべきという意見もありましたが、廃止した場合の実務への影響が大きいと考えられることから、必要な見直しを行ったうえで移管することとなりました。

*「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」への移管の範囲

 今回の移管作業は、税効果に関する実務指針の一部のみであり、すでに平成27年6月から他の実務指針についての検討を再開しています。

日本公認会計士協会(JICPA)が
公表している実務指針
「繰延税金資産の回収可能性に
関する適用指針(案)」への移管

①連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針(会計制度委員会報告 第6号)

一部のみ
(内容の見直しはない)

②個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針(会計制度委員会報告 第10号)

一部のみ
(内容の見直しはない)

③中間財務諸表における税効果会計に関する実務指針(会計制度委員会報告 第11号)

④税効果会計に関するQ&A(会計制度委員会)

⑤繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い(監査委員会報告 第66号)

⑥その他有価証券の評価差額金及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い(監査委員会報告 第70号)


(内容の見直しはない)

⑦諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い(監査・保証実務委員会報告 第63号)

2.適用指針(案)の見直し内容は?

①主な見直し内容

 適用指針(案)では、監査委員会報告第66号からの移管に伴い、その内容の見直しが行われています。その主な見直し内容は、次の通りです。

*「適用指針(案)」の主な見直し内容

  「監査委員会報告第66号」 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」

①企業分類の名称

(例示区分1)~(例示区分5) (分類1)~(分類5)

②企業分類の判断要件

(分類2)~(分類4)の
判断要件の見直し

③繰延税金資産の回収可能額

(分類2)~(分類4)の
回収可能額の見直し

④将来年度の課税所得の見積額

会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準とする。 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて判断する。
(将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等も加味された。)

⑤用語の変更

「課税所得」 「一時差異等加減算前課税所得」

*用語の変更について

  • ☑「課税所得」とは、法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額が損金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいいます。(第3項(7))
  • ☑「一時差異等加減算前課税所得」とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額(及び該当する場合は、当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額)を除いた額をいいます。(第3項(9))

*いずれの要件も満たさない企業の取扱い

 (分類1)から(分類5)のいずれの要件も満たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類します。(第16項)

②企業の各分類における見直し内容

 適用指針(案)の見直しにおいては、企業の各分類の、分類要件及び繰延税金資産の回収可能性について実務対応を考慮した見直しが行われております。その内容は、次の通りです。

*(分類1)の内容 (⇒ 変更なし)

  (例示区分1) (分類1)
企業分類の
判断要件
  • ・期末の将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期(当期及びおおむね過去3年以上)計上しており、経営環境に著しい変化がない
  1. 過去(3年)及び当期のすべてで、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。
  2. 当期末において、経営環境に著しい変化がない。
繰延税金資産の回収可能性 繰延税金資産の全額について回収可能性があると判断 繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。
また、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産についても回収可能性があるものとする。

*(分類5)の内容 (⇒ 変更なし)

  (例示区分5) (分類5)
企業分類の
判断要件
  • ・過去(おおむね3年以上)連続して重要な税務上の欠損金を計上。かつ、当期も重要な税務上の欠損金を計上見込み。
  • ・債務超過や資本の欠損が長期にわたっており、短期間にその状況の解消が見込まれない。
  1. 過去(3年)及び当期のすべてで、重要な税務上の欠損金が生じている。
  2. 翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる。
繰延税金資産の回収可能性 原則として、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産について回収可能性がないと判断 原則として、繰延税金資産の回収可能性はないものとする。

*(分類2)の内容

  (例示区分2) (分類2)
企業分類の
判断要件
  • ・連続して(当期及びおおむね過去3年以上)ある程度の経常的な利益を計上している。
  1. 過去(3年)及び当期のすべてで、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。
  2. 当期末において、経営環境に著しい変化がない。
  3. 過去(3年)及び当期のいずれの事業年度でも重要な税務上の欠損金が生じていない。
繰延税金資産の回収可能性 一時差異等のスケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産については回収可能性があると判断

一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

なお、原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性がないものとする。ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

(変更点①):企業分類の判断要件

「監査委員会報告第66号」 「適用指針(案)」
ある程度の経常的な利益を計上している。 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、安定的に生じている。

(変更点②):繰延税金資産の回収可能性

「監査委員会報告第66号」 「適用指針(案)」

一時差異等のスケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産については回収可能性があると判断

  • ☑スケジューリング不能な将来減算一時差異について、一律に繰延税金資産を計上できないとすると、企業の実態を反映していない場合があるとの意見。
  • ☑IFRSや米国会計基準を適用して連結財務諸表を開示している企業では、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産を計上している実務が見られるとの意見。(第73項)

原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性がないものとする。

ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

*「スケジューリング不能な将来減算一時差異」の具体例

①業務上の関係を有する企業の株式

 業務上の関係を有する企業の株式(いわゆる政策保有株式)のうち上場株式について、当期末において、株式の売却時期の意思決定は行っていないが、市場環境、保有目的、処分方針等を勘案すると将来のいずれかの時点で売却する可能性が高いと見込む場合がある。
 この場合、この上場株式の減損に係る将来減算一時差異は、期末時点で、売却時期の意思決定又は実施計画等が存在していないことから、どの時点でスケジューリングが可能となるか特定されていないため、スケジューリング不能な将来減算一時差異に該当すると考えられる。
 このようなケースでは、(分類2)の企業においては長期的に安定して一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれるため、スケジューリングが可能となった場合、相殺できる課税所得が生じる可能性があれば、一定の回収可能性を認め得ると考えられる。(第74項)

②役員退職慰労引当金

 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異については、税務上の損金算入時期を個別に特定できない場合であっても、いずれかの時点では損金算入されるものであることから、(分類2)の企業において将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があることを明らかにした。(第100項)

*(分類3)の内容

  (例示区分3) (分類3)
企業分類の
判断要件
  • ・過去の経常的な損益が大きく増減している。
  1. 過去(3年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。
  2. 過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。
繰延税金資産の回収可能性 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度に、一時差異等のスケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産については回収可能性があると判断

将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

(変更点①):企業分類の判断要件

「監査委員会報告第66号」 「適用指針(案)」
過去の経常的な損益が大きく増減している。 過去(3年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。

(変更点②):繰延税金資産の回収可能性

「監査委員会報告第66号」 「適用指針(案)」

将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度に、一時差異等のスケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産については回収可能性があると判断

  • ☑見積可能期間に関して「おおむね」という表現が用いられているものの硬直的に運用されており、5年を超える期間の課税所得を見積ることが実務的には認められていないのではないかとの意見が聞かれた。(第77項)

5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

*「5年を超える見積可能期間を合理的に説明できる場合」の具体例

①製品の特性による場合

 製品の特性により需要の変動が長期にわたり予測できる場合が考えられる。この場合、需要が変動する推移から課税所得が大きく増減している原因を合理的に説明できる可能性があり、当期に策定した中長期計画等に基づき、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できるときは、当該繰延税金資産は回収可能性があるものと考えられる。(第80項)

②長期契約による場合

 過去においては課税所得が大きく増減していたが、長期契約が新たに締結されたことにより、長期的かつ安定的な収益が計上されることが明確になる場合も考えられる。この場合、長期契約の内容を勘案し、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できるときは、当該繰延税金資産は回収可能性があるものと考えられる。(第100項)

*(分類4)の内容

  (例示区分4) (分類4)
企業分類の
判断要件
  • ・期末に重要な税務上の欠損金が存在する。
  • ・過去(おおむね3年以内)に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れ。
  • ・当期末に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れの見込み。
  • ・過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が期末に存在する。

≪ただし書≫
上記の重要な税務上の欠損金や過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が、非経常的な特別の原因により発生した場合で、それを除けば、課税所得を毎期計上している。

次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業。

  1. 過去(3年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている。
  2. 過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。
  3. 当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。
繰延税金資産の回収可能性

原則として、翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる額を限度に、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産については回収可能性があると判断

≪ただし書≫
将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度に、一時差異等のスケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産については回収可能性があると判断

翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることが合理的に説明できるときは(分類2)に該当するものとして取り扱う。

将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることが合理的に説明できるときは(分類3)に該当するものとして取り扱う。

(変更点①):企業分類の判断要件

「監査委員会報告第66号」 「適用指針(案)」

期末に重要な税務上の欠損金が存在する。

  • ☑重要な税務上の繰越欠損金の存在が重視されすぎており、(分類1)から(分類3)までに係る分類の要件との間の連続性が失われているとの意見が聞かれた。(第81項)
  1. 過去(3年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている

(変更点②):繰延税金資産の回収可能性

「監査委員会報告第66号」 「適用指針(案)」
≪ただし書≫
将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度に、一時差異等のスケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産については回収可能性があると判断

  • ☑見積可能期間に関して「おおむね」という表現が用いられているものの硬直的に運用されており、5年を超える期間の課税所得を見積ることが実務的には認められていないのではないかとの意見や、「非経常的な特別の原因」の範囲が明確ではなく、実務上、議論となることが多いとの意見が聞かれた。(第83項)

将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることが合理的に説明できるときは(分類2)に該当するものとして取り扱う。

将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることが合理的に説明できるときは(分類3)に該当するものとして取り扱う。

プロフィール

公認会計士・税理士 福田 武彦(ふくだ たけひこ)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

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