中国の新企業会計準則とIFRSとの差異

中国の新企業会計準則とIFRSとの差異

更新日 2015.05.18

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有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 中村 剛

有限責任監査法人トーマツ
公認会計士 中村 剛

現在、中国の会計基準は、伝統的な会計基準である「旧企業会計準則・制度」(以下、「旧準則」とする。)と国際財務報告基準(以下、「IFRS」とする。)に近い「新企業会計準則」(以下、「新準則」とする。)の二つが併存していますが、旧準則は徐々に廃止され、新準則に統一される見通しです。中国の日系企業では、まだ、旧準則を採用している企業も多いですが、早晩、新準則への移行が求められると予想されます。
今回は、この新準則の特徴をIFRSとの差異にフォーカスして解説します。

1.新準則導入の経緯

 新準則は、2006年2月に中国財政部から公布されました。新準則の制定に際しては、中国経済・企業の発展に寄与するため国際的に遜色ない会計基準の策定を意図し、多くの点で当時のIFRSと共通の考え方が導入されています。

2.新準則の概要

 新準則は、主として、基本準則および具体準則ならびにその応用指南等の体系から構成されています。具体準則は、当初は38項目でしたが、2014年の大幅改定により41項目にまで増えています。新準則の方向性について、財政部は2010年にロードマップを公表し、今後もIFRSとの同等性を維持することを明言しています。また、新準則は2014年に大幅改訂されましたが、主としてIFRSにキャッチアップするための改訂であったといえます。

3.新準則とIFRSとの差異

 中国財政部は、IFRSとの同等性を維持することを明言するとともに、その一方で、中国企業に適用される会計基準は中国の個別の事情を反映したものでなければならないとも考えており、中国証券市場においてIFRSを直接採用(アドプション)はしないとも明言しています。
 そのような状況から、新準則とIFRSとの間には、一定の相違点があります。現在、重要な相違点として、特徴的な点をまとめると以下の通りです。

項目 新準則の規定 IFRSの規定
財務諸表の様式
  • 新準則第30号「財務諸表の表示」等に定める様式に従う。
  • 財務諸表の表示方法、勘定科目設定等に中国特有のものがみられる。
  • IAS第1号「財務諸表の表示」に従う。
有形固定資産および無形資産の評価
  • 原価モデルの採用のみ認めている。
  • 取得後の会計方針として、原価モデルと再評価モデルの選択を認めている。
土地使用権の表示
  • 土地使用権は無形資産に含めて表示される。
  • 土地使用権は、土地の長期オペレーティング・リース契約と解釈され、長期前払費用として表示される。
資産の減損戻入れ
  • 資産(有形固定資産、無形資産、のれん等を含む)の減損損失は、以後の会計期間における戻入れは禁止されている。
  • のれんを除き、過去に認識した減損損失は、回収可能価額が回復した場合には、戻入れをしなければならない。
政府補助金
  • 資産に関する政府補助金は繰延収益として認識し、且つ、関連する資産の耐用年数内に均等に配分して損益に計上する。
  • 圧縮記帳による直接減額は認められない。
  • 資産に関する補助金は、繰延収益として計上する方法、又は補助金額を控除して資産の帳簿価額を算出する方法(直接減額)のいずれかによって表示される。
共通支配下における企業結合
  • 共通支配下の企業結合取引において、結合企業が取得した資産および負債は、被結合企業の帳簿価額に基づき測定する(プーリング法)。
  • 共通支配下における企業結合は、IFRS 3「企業結合」の範囲外であり、規定がない。
従業員奨励および福利基金
  • 外商投資企業が利益処分時に積立てる「従業員奨励および福利基金」は、未処分利益から「未払従業員報酬」(負債)科目に計上される。
  • 当該従業員奨励および福利基金は、一般に、IFRSにおいて損益計算書上の費用項目とされる。

 本記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではありません。

プロフィール

公認会計士 中村 剛(なかむら つよし)
有限責任監査法人トーマツ グローバル戦略 中国室 パートナー

著書等
  • 『中国 企業会計準則および応用指南』(翻訳編著、有限責任監査法人トーマツ)
  • 『中国 企業会計準則 2014年改訂 増補版』(翻訳編著、有限責任監査法人トーマツ)

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