更新日 2014.08.25
KPMG税理士法人
パートナー 藤森 康一郎
国際取引の大半が関連者間によるグループ内取引により占められている今日、移転価格とは、本来的には税務の問題ではなく、企業の事業活動の本質に関わる問題であるといえます。当コラムでは、「なぜ移転価格問題が引き起こされるのか」といった事業上の要因から各国と日本での執行状況の対比、また、実務上の事例等、移転価格における最前線の実務を解説します。
租税特別措置法第66条の4において規定されている移転価格税制とは、親子間や兄弟会社間のような関連者間という特殊な関係の下での歪んだ取引価格の設定により、本来ならば一方の国で計上されるべき利益が、他方の国で計上され、一方の国での課税所得がその分減少してしまうことを防止するための税制である。
この税制の下、課税当局は非関連者間取引であった場合に想定される「あるべき対価」を独立企業間価格として位置づけて、これを基準として問題となっている取引価格の妥当性を判断することになる。
当該税制の適用に当たっては、軽税率国に所得を移転することによる連結ベースでの税負担軽減を図るという租税回避の意図は要件とされていない。このことは、現実的には移転価格税制の下で更正される企業の多くが租税回避の意図などは持っておらず、別の要因により移転価格税制上の問題が引き起こされていることを示しているとも言える。
租税回避の意図以外の移転価格税制上の問題を引き起こす要因としては、国外関連者が所在する現地側での送金や税制に係る様々な規制や執行による影響等も考えられるものの、より企業経営に直結する要因として、企業グループの組織のあり方が挙げられる。
近年、企業の多国籍化が進み、開発は開発子会社、生産は生産子会社、販売は販売子会社というように、企業グループの司令塔である本社が関連会社に囲まれ、市場から隔離されてしまっていることも珍しくなくなってきているが、このような状況の下では、企業の事業判断は市場の動向に無頓着となる傾向があり、価格設定のような事柄においても、むしろ組織内部の力学や慣習の方が大きな影響を与えることになる。これらの企業グループは、以下のような事例を含む、いくつかの形態に類型化することができる。
【護送船団型企業グループ】
業績面においても、親会社がグループの子会社を保護者のように守ったり、いくつもの子会社が盾となって親会社を守ったり、あるいは子会社同士がお互いを守り合ったりというようなグループの結束の固さが、グループ企業内の取引価格設定に影響を与える。
【伝統的ヒエラルキー重視型企業グループ】
入社年次等をベースとした先輩後輩関係が重視される傾向が強く、そのような関係がグループ内取引価格にも強い影響を及ぼしてしまう。また、一部の同族経営形態の企業で、周囲の気遣いから創業家と関係のあるビジネスに利益が回るような仕組みが構築されてしまうことがあるのも同様の理由と言える。
【平等主義型企業グループ】
グループ各社を対等なビジネスパートナーと位置付け、それぞれの法人の事業上の役割分担やリスク負担の度合いを考慮せず、全ての事業部や関係会社が平等に利益の配分を受けるべきという思想が価格設定においても過度に反映されてしまう。
【リーダー依存型企業グループ】
組織全体が個性溢れるカリスマとも言えるような単一のリーダーに過度に依存していて、このようなリーダーの何気ない一言が客観的な裏付けや検証もされずに、盲目的に価格設定にそのまま適用されてしまう。
【事業部判断優先型企業グループ】
「良いモノさえ作っていれば・・・」というモノづくりの現場の空気が、経営企画や経理といった部門を含む企業グループ全体に隅々にまでいきわたっていて、自らが不利となるような取引価格設定を繰り返してしまう。
組織内の意思統一が図れていないような場合とは異なり、組織が一丸となって問題解決したり、高い品質を維持したり、古い技術が見直されて事業の牽引役となったりと、上記のような特徴がそれぞれの企業の競争力の源となっているケースも決して少なくない。カリスマとされる人物に率いられている企業の画期的なビジネスモデルが世界的にも高い評価を受けるという光景もよく目にする。
一方で、このような判断の仕組みが過度に浸透してしまうと、移転価格税制上の問題を引き起こすだけではなく、事業の採算性を不明確にしてしまい、取引関係の見直しが遅れるなど、突然の景気後退などの折に足腰の弱さが露呈されることになりかねないと言わざるを得ない。
すなわち、移転価格は「税制」ではあるものの、税制云々という前に、本来的に取り組んでおくべき、企業の根本的な問題であると考えるべきと言える。
プロフィール
藤森 康一郎(ふじもり こういちろう)
KPMG税理士法人
パートナー
国際事業アドバイザリー
移転価格事業戦略コンサルティング
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