これから電子申告に取り組む皆様へ

第4回 事例にみる電子証明書取得・管理のポイント

更新日 2013.10.28

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税理士 岡田淳

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 岡田 淳

法定調書等の電子提出の義務化にともない、これから電子申告に取り組む方々のために、事前準備から実務の流れまでをわかりやすく解説いたします。

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 今回は、企業で電子証明書を取得し電子申告をする場合、実務上どのようなポイントや注意点があるかについてご紹介します。
 実務については事例をご紹介するのが一番ですから、電子申告を行われているA社様(1部上場企業)にインタビューにご協力いただきました。今回はそのインタビュー内容をレポートいたします。

岡田: 電子申告をはじめられたきっかけや目的について教えてください。

A社: 2004年度から、改正により消費税の中間申告が年11回申告となり、申告・納付を行うのが煩雑になりました。消費税申告を電子申告で効率化したいと思ったのがきっかけで、2006年度から印紙税も同時に電子申告をはじめています。
 昨年度からは、法人税・地方税申告も効率化を目的として電子申告をはじめました。特に当社の地方税は、140程の都道府県および市区町村に申告・納付を行う必要があり、その事務負担、印刷・発送コストは目に見えづらいですが軽視できないものです。はじめるにあたっては、電子申告に係るコストアップと工数削減によるコストダウンを数字で対比して上申しました。消費税・印紙税で電子申告に取り組んでいましたので、比較的スムーズに導入することができています。

岡田: 電子申告開始にあたっては、事前準備に手間どる方が多いようです。御社ではどのようにして情報収集されましたか?

A社: 電子申告をはじめた当初は、インターネットで国税(e-Tax)、地方税(eLTAX)のホームページを参照し情報収集しました。現在では、電子申告に対応した業務システムがありますので、情報が集約されるようになり便利になりましたね。
 ただ、地方税の電子申告をはじめる際には、当社の主たる事務所を管轄する都道府県税事務所に連絡し、手続きの確認を行いました。確認しておきたいことについては、与えられている情報を確認するだけでなく、自分で情報を取りに行くことが大切だと思います。

岡田: 電子申告には電子証明書が必要ですが、取得に際して注意するポイントはございますか?

A社: 当社が代表者の電子証明書として利用しているのは「商業登記に基づく電子認証制度」の電子証明書です。電子証明書の取得に関しては、主たる事務所を管轄する登記所に出向くことで取得できますので半日あれば対応できますが、電子証明書の発行申請に必要な提出物の準備に少し手間がかかりました。

岡田: 鍵ペアファイルと証明書発行申請ファイルの作成ですか?

A社: はい。消費税の電子申告をはじめた当初は、有償ソフトを購入していましたが、現在では、法務省のホームページから無償の専用ソフトをダウンロードして利用できるようになっています。(法務省ホームページはこちら
 一昨年に、電子証明書の更新が必要になりましたので、そのソフトを使って対応しました。手順や操作方法については煩雑で、操作手引書を熟読しながら申請の準備を行いました。慣れればなんてことはないですが、初めて取り組まれる場合は、早めに準備されることをお勧めします。
 また、発行申請では、電子証明書の証明期間を3ヶ月から27ヶ月の3ヶ月刻みで指定することになっており、証明期間によって手数料が異なります。どの程度の証明期間を指定するかを予め決定しておく必要があります。
 当社は基本的に24ヶ月と決めていますが、代表者変更や主たる所在地の変更等、登記情報に変更があった場合は、証明期間内の電子証明書であっても失効になり、再取得の発行申請手続きと手数料が発生することになります。ちなみに手数料の払い戻しはありません(笑)。電子証明書の証明期間と有効性には注意を払う必要がありますね。

岡田: 「取得した電子証明書が使用できるか」事前確認が重要ということですね。ところで、社内での電子証明書の保管・使用についてはどのような運用をされていますか?証明書が電子であることにより、何か特別にルールを策定されましたか?

A社: 当社が取得した電子証明書は「電子ファイル」ですから、PCやサーバに置いておくと共有できてしまいます。電子ファイル自体にパスワードが施されていますが、共有できる環境下では、不正使用のリスクが高い状況になります。
 電子証明書を取得する際に、その保管と使用手続きについて検討し、3つの運用ルールを決めました。

  1. 電子証明書はCD-Rに格納して金庫保管する。(金庫の鍵の管理者は限定されています)
  2. 電子証明書を利用する場合は管理台帳に記入する。
  3. 他部門から電子証明書の使用依頼があった際は、依頼部門の責任者押印済の依頼書提出を求め、担当者が使用する際に管理台帳に記入していただく。

 このルールで、今のところは問題なく運用できています。

岡田: 他部門からの使用依頼とは、具体的な使用目的はどのようなものでしょうか?

A社: 今年に入ってから給与部門から使用依頼が入るようになりました。給与規程の変更等にかかる労働基準監督署への届出を電子申請するようになり、その際に電子証明書による署名が必要とされるためです。

岡田: 一定の条件はありますが、法定調書や給与支払報告書等の電子提出が義務化されています。電子証明書の使用依頼は今後も増えるかもしれませんね。

A社: はい。電子証明書の使用機会が増えることは、取得しているメリットが増えますからよいことだと考えています。経理部門では電子申請・届出関連についても今後対応していきたいと考えています。

岡田: 御社は地方税申告の提出先が多いですが、電子申告をされた際に想定外の事はありましたか?

A社: 電子申告時のデータ変換に想定より時間がかかったことです。リハーサルは行っていたのですが、本番ではPDFファイル等を添付して送信することにしたためか、本番ではリハーサルより2時間程度多く時間がかかりました。申告期限が迫った状況では、取り返しがつかなくなることも想定されますから、送信前のデータ変換までは早めに終わらせておくべきですね。

岡田: 最後に電子申告のメリットとして実感されていることはありますか?

A社: 当社に関連する税目では、源泉所得税を除いたほとんどの税目について電子対応できています。そのうち、地方税を電子申告したことにメリットを実感しています。
 電子申告で作成するのは、当然、紙ではなく電子データですから、都道府県、市区町村から問い合わせがあった際に、一元的に数字が確認できる点に便利さを感じています。また、どれだけ申告書を正確に作成しても、梱包ミスや誤発送があっては全てが台無しになってしまいます。申告書の編てつや封詰め、宛名作成は単純作業になりますので、ただでさえミスが出やすいものです。提出先が多い場合にはなおさらです。担当者には「絶対にミスできない」という精神的な重圧がありますが、電子申告にしたことで、単純作業によるミスが軽減でき重圧が軽くなりました(笑)。

岡田: なるほど、それはまさに「実感」ですね。

 インタビューレポートは以上です。
 代表者の電子証明書は、「商業登記に基づく電子認証制度」の電子証明書を利用するケースが多くあります。証明書は電子ファイルとなりますので運用方法が重要になります。
 多大なるご協力いただいたA社様には、この場を借りまして厚く御礼申し上げます。
 そして今回のレポートが、電子申告をはじめる方に有用なご参考となることを祈念いたします。

プロフィール

税理士 岡田 淳(おかだ じゅん)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

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久徳会計事務所(くのりかいけいじむしょ)

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