更新日 2012.11.19

グループ経営のための連結決算

海外子会社の管理② ~海外進出後の子会社管理~

  • twitter
  • Facebook
あがたグローバル税理士法人

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
公認会計士・税理士 大野 崇、野村 昌弘
公認会計士     稲垣 泰典

上場会社では当たり前になった連結決算。情報開示という面が強く認識されていますが、グループ経営の意思決定のための会計として、時として非上場会社にも連結決算・連結管理会計の導入が必要なのではないでしょうか?

このコラムでは、連結決算を組むメリット、単純合算では見えてこない点、グループ経営のためのキャッシュ・フロー計算書、決算早期化、予測連結、海外子会社の連結等、上場/非上場に関わらず、グループ経営の観点から連結決算を分かりやすく解説します。

 最近、上場会社の海外子会社における粉飾決算等の不正に関する報道を目にします。地理的な面や言語の問題等により、海外子会社の管理が上手くできていないことが多々あります。実際に現地に進出した後の海外子会社の管理はどのようにしていくのが良いか、また、企業グループ全体の状況を確認するため連結決算書を作成する際の海外子会社の決算書を取り込む方法をみていきたいと思います。

(1)海外子会社の管理における問題点

 上場会社においても海外子会社による不正が複数報道されるなど、海外子会社の管理が重要な経営課題の1つになっています。実際に海外子会社でどのようなことが問題となっているのでしょうか。
 報道されている不正として、海外子会社における売上高の過大計上、仕入値引きの過大計上等の粉飾決算、役員による横領等様々な問題があります。
 粉飾決算は、業績に対する過度のプレッシャーが主たる要因であると考えられます。海外子会社の業績に関する結果を重視するあまり、事業全体の適正性確保のための仕組みが十分でないことが多いといえます。不正が発生する要因の1つとして、海外子会社の経営を海外子会社のトップに依存し過ぎてしまい、親会社による経営の監視、監査の機能が十分に働いていないことがあります。
 また、海外子会社のトップ以外の適切な管理者を置くことが出来ていない場合にも問題が多く発生するものといえます。適切な管理者の不在は、管理業務がおろそかになり、債権回収などがきちんと行われないなど、他の問題にも発展していく可能性があります。

(2)海外子会社の管理方法

 海外子会社における不正を排除するためには、まず、不正行為を許容しないという親会社の姿勢を示すことが重要です。具体的な方法として、倫理規程や行動規範を制定し、全従業員に周知することが考えられます。その周知にあたっては、研修の実施により従業員から確認書を入手するなど理解の向上に努めることが有効であるといえます。
 また、海外子会社の管理を実行性のあるものにするためには、子会社のトップとは独立した管理担当者を置き、親会社からのサポートのもとで管理を実施し、親会社に海外子会社の状況を報告させるような体制も有効です。
 このような海外子会社の体制づくりは、親会社主導による実行が必要です。この体制づくりには、継続的なモニタリングも重要になってきます。その一環として、親会社において海外子会社の決算書をきちんと見ることが重要です。決算書は、会社の財務状況を適切に表しますので、海外子会社の決算書を良く把握し、その上で現地に赴き、内容を確認したりすることも牽制機能を働かせるのに効果があるものといえます。

(3)海外子会社の決算書の連結決算書への取り込み

 グループ全体の状況を把握するためには、海外子会社も含めた連結決算書を作成する必要があります。連結決算書に海外子会社の決算書を取り込む際には、海外子会社の現地通貨建決算書を日本円に換算し直す必要があります。
 日本円に換算する際の為替レートは日々刻々と変動しています。海外子会社の決算書も取引が発生した都度その時の為替レートで換算していけば正確な換算ができますが、取引量を考えると現実的な選択肢ではありません。会計基準では以下のように簡便的に換算することを認めています。

A.貸借対照表

 資産・負債:
期末日レート(Current rate(以下「CR」といいます。))で換算します。ただし、親会社との債権債務は親会社の使用するレートで換算します。
 純資産  :
発生時レート(Historical rate(以下「HR」といいます。))で換算します。具体的には、資本金、資本剰余金については出資時の為替レートで換算します。利益剰余金は各決算期に獲得した利益の積み重ねであるため、各決算期におけるレートで換算します。資産、負債、純資産の換算により生じた貸借差額は「為替換算調整勘定」とします。

B.損益計算書

 損益:
期中平均レート(Average rate(以下「AR」といいます。))か、期末日レート(CR)で換算します。ただし、親会社との取引は親会社の使用するレートで換算します。

C.株主資本等変動計算書

 基本的には発生時レート(HR)で換算しますが、親会社への配当金支払いは親会社の使用するレートで換算します。また、当期純利益は損益計算書に合わせます。

D.為替換算調整勘定

 換算後の貸借対照表に「為替換算調整勘定」が計上されます。為替換算調整勘定とは、海外子会社に対する為替レートの変動により生じた含み損益を表します。下記の図表のように資産及び負債が期末日レートで換算されるのに対して、純資産は発生時のレートで換算されるため差額が発生し、その差額が為替換算調整勘定になります。
 為替換算調整勘定は、為替の変動により外貨建ての持分に含み損益が生じている状態を表します。この含み損益は海外子会社を清算や売却する時に実現するので、すぐに損失計上(もしくは利益計上)する必要はないものです。しかし、その含み損益も将来実現する時が来るため、その金額を把握しておくことが必要です。

連結子会社の決算書の換算イメージ

プロフィール

公認会計士・税理士 大野 崇、野村 昌弘
公認会計士     稲垣 泰典

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

ホームページURL
あがたグローバル税理士法人
あがたグローバルコンサルティング株式会社

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。