更新日 2011.04.18
公認会計士 中田 清穂
2011年3月期から適用になる「包括利益基準」で作成する財務諸表そのものが変わります。このコラムでは、「包括利益」について、形式的な実務対応よりも、本質的に理解し納得できるようになるための解説をします。
今回の包括利益基準でわかりにくいのが、「その他包括利益」項目の計上額です。
「その他包括利益」項目の発生額や減少額(以下、純増減額)を、そのまま包括利益計算書に計上するのであれば、何も難しくないのでしょう。
しかし、実際には、「その他包括利益」項目の純増減額から税効果額を控除した金額を、包括利益計算書に計上することになる点が、第1のポイントでしょう。
また、包括利益の内訳として、「親会社株主に係る包括利益」と「少数株主に係る包括利益」を分離させる形で表示する必要があるので、税効果額を控除した後の「その他包括利益」項目の純増減額についても、「親会社株主に係る包括利益」と「少数株主に係る包括利益」に分離できるような手続が必要になります。
以下、包括利益基準の「設例2 親会社及び子会社がその他有価証券の一部を売却した場合」の数値と開示例を利用して、「その他有価証券評価差額金」の期中増減額の動きと、包括利益計算書への計上額の関係を結びつけて解説します。
1.その他有価証券の残高と評価損益の増減について、合算表を作成する
以下のステップで、その他有価証券の残高と評価損益の増減について親会社と子会社の合算表を作成します。
- 包括利益基準「説例2」のP社の「その他有価証券残高の増減内訳」の下にP社の「その他有価証券の評価損益の増減内訳」を合体させる。
- 包括利益基準[説例2]のS社の「その他有価証券残高の増減内訳」の下にS社の「その他有価証券の評価損益の増減内訳」を合体させる。
- (1)と(2)を串刺しして、合算表を作成する。
- (3)の合算表に「純増減」の欄を挿入する。
「純増減」の数値は以下の算式で計算する。
「純増減」=「売却による振替」+「当期発生額」 - (4)の合算表の「税効果調整後評価損益」の下の「うち親会社持分」行の下に、「うち少数株主持分」行を追加する。
「うち少数株主持分」の数値は以下の算式で計算する。
「うち少数株主持分」=「税効果調整後評価損益」-「うち親会社持分」
上記ステップの結果、できあがった合算表が下図です。
2.包括利益計算書に計上する
次に、上記1で作成した合算表の「純増減」の数値で、以下のように包括利益計算書に計上します。
合算表さえ作成できれば、包括利益計算書の「その他包括利益」項目の計上は難しいものではなくなるでしょう。
筆者紹介
公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員
著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)
ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/
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