更新日 2011.04.06
TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
災害による決算発表や報告書の期限延長に関する解説や、決算短信や有価証券報告書での記載事例を解説します。
本コラムでは、前回まで「新潟県中越地震」の際の記載例を中心にご紹介してきましたが、今回は12月期決算企業が2011年3月31日までに提出した有価証券報告書で、2011年3月11日に発生した「東日本大震災」について記載されているものをご紹介します。
まず、3月末までの有価証券報告書の提出時期には、今回の災害の正式名称が決定されていなかったために、多くの企業が、「東北地方太平洋沖地震」という名称を使用したようです。
今回の震災の呼び名を「東日本大震災」とすることが、4月1日に閣議決定されましたので、今後提出される有価証券報告書では、「東日本大震災」を使用することになると思われます。
1.「東日本大震災」に関して記載した企業の一覧
12月期決算で2011年3月31日までに有価証券報告書を提出した企業は345社であり、そのうち、「東日本大震災」について記載した企業は以下の42社でした。
2.「計画停電」に関する記載をした企業例
本コラムで前回までにとりあげた「新潟県中越地震」と、今回の「東日本大震災」とで異なる項目の一つが、「計画停電」です。
12月期決算企業で「計画停電」に関連して記載した企業は8社であり、その記載内容は以下になります。
3.「東京電力福島第1原子力発電所の事故」に関する記載をした企業例
次に、今回の「東日本大震災」の特徴の一つが、「東京電力福島第1原子力発電所の事故」です。
12月期決算企業で「東京電力福島第1原子力発電所の事故」に関連して記載した企業は、アグロカネショウ株式会社1社だけです。その記載内容は以下になります。
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により、当社の福島工場の工場敷地内道路に亀裂が生じ、工場・倉庫の一部壁面にひび及びはがれが生じました。
また、地震後の津波も工場敷地内に浸入しましたが、地震に端を発した東京電力福島第1原子力発電所の事故による避難指示地域にあり工場に立入りが出来ないため、被害の詳細は不明であります。
そのため、修繕費用等の発生額及び操業の再開時期等は現時点では確定しておりません。
原子力発電所の修復作業が終了し、安全が確認され、福島工場への立入りが許可された後、速やかに被害の程度を確認するとともに復旧作業を実施する予定であり、操業の停止による減産に対しては、一部外注生産による代替供給先を模索中です。(改行筆者)
(後略)
4.震災に関する後発事象の開示要求
2011年3月30日の日本公認会計士協会会長からの会長通牒である、平成23年第1号「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」(以下、「会長通牒」と言います)に記載されているように、2011年3月11日より前に決算日を迎えた企業は、今回の災害に係る影響は開示後発事象として取り扱うことになります。
したがって、12月期決算は後発事象の開示を行ったのです。
今後、1月期決算企業や2月期決算企業も、同様に後発事象の開示を行うものと思われます。
「会長通牒」にも記載がありますが、1995年3月27日に公表された「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」では、後発事象として開示することに関連して、以下の記載があります。
やむを得ない事情により、震災に関して短期間に翌事業年度以降、修繕を行うかどうかの意思決定が行われておらず、翌事業年度以降に支出すると認められる被災資産の撤去費用等又は原状回復費用等を合理的に見積もることができない等の場合、以下の事項を注記する。
1. その旨
2. 被害の状況
(1) 被災場所
(2) 被災資産の種類及び帳簿価額
3. 撤去費用等又は原状回復費用等の合理的見積もりが困難な理由
4. 当該被害が営業活動等に及ぼす影響
(注) 撤去費用等又は原状回復費用等の合理的見積もりが困難な場合であっても、おおよその概算額が計算できる場合には、当該概算額を注記する。
(参考:『旬刊経理情報 No.782(1996.4.1)』(中央経済社)
この「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」による後発事象の開示要求を念頭に置けば、以下の47社の開示例が当該要求に沿っていることを理解しやすくなるでしょう。
本文は有限会社ナレッジネットワーク社ホームページの『カレントトピックス(災害時の開示)』に掲載された記事の転載となります。
筆者紹介
公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員
著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)
ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/
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