「包括利益」の論点整理

第3回 欧州では包括利益がどのように利用され評価されているか

更新日 2011.04.04

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公認会計士 中田 清穂
TKCシステム・コンサルタント

公認会計士 中田 清穂

2011年3月期から適用になる「包括利益基準」で作成する財務諸表そのものが変わります。このコラムでは、「包括利益」について、形式的な実務対応よりも、本質的に理解し納得できるようになるための解説をします。

 現在IASBは、「財務諸表の表示」に関して、改訂するプロジェクトが進められています。2009年9月には、このプロジェクトの手続として、IASBと米国の会計基準作成組織であるFASBが共同でアンケートを行いました。

 このアンケートは、2008年10月の「財務諸表の表示」に関する「予備的見解」について、財務諸表の現行方式と「予備的見解」で提案されている新方式を示した上で、アナリストに対して行われたものです。アナリスト43名から回答されています。

 このアンケートのアンケート項目に、以下の質問があります。

 「主要なパフォーマンス指標としている損益計算書の項目は何ですか、

 損益計算書の項目を用いて作成する主要なパフォーマンス指標は何ですか」

 その回答を集計したのが、以下の「図表1」です。

図表1 アナリストが作成するパフォーマンス指標

 この結果をみると、「包括利益」を主要なパフォーマンスとしているのは、わずか6%に過ぎません。

 やはり前回の当コラムで説明した通り、「包括利益」そのものは重要なパフォーマンス指標ではないと、欧州でも評価されていると言えそうです。

 さらに、「純利益」と「税引前利益」を合わせると、17%です。

 こちらもあまり重要な指標とは評価されていないようです。

 そのまま利用されている項目で、最も重要な指標とされているのは「営業利益」31%です。そして、「EBIT」と「EBITDA」は合わせると40%です。

 「EBIT」は、”earnings before interest and taxes“ です。財務活動である利息や税金の影響を受けていない当期利益と言えます。

 「EBITDA」は、”earnings before interest, taxes, depreciation and amortization“ です。過去投資した結果当期の費用となった減価償却費や償却費の影響と財務活動である利息や税金の影響を受けていない当期利益と言えます。

 結局投資家は、「一会計期間に企業の事業活動を通してどれだけのものを生み出したのか」を知る指標として、「営業利益」や「当期利益を起点とした修正値」を活用していると言えるでしょう。

 「一会計期間に企業の事業活動を通してどれだけのものを生み出したのか」ということがわかれば、「将来どれだけのものを生み出すことができるか」という予測に役立つからです。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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