更新日 2011.04.01

災害時の開示

第1回 災害時の決算処理

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公認会計士 中田 清穂TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

災害による決算発表や報告書の期限延長に関する解説や、決算短信や有価証券報告書での記載事例を解説します。

 2011年3月11日金曜日の東北関東大震災では、多くの企業に被害をもたらしています。
 その内容と規模は、企業によって大きく異なっています。
 そして、日本の多くの企業は3月決算なので、まもなく決算手続きに入ることになります。

 3月18日の日本経済新聞朝刊の「経済面」(第5面)に以下の内容の記事が掲載されていました。

1. 決算発表時期
【現行制度】
 期末から45日以内の発表を要請
  ↓
【緩和策】
 被災企業は決算内容が固まるまで延期できる(案)

2. 有価証券報告書の財務局への提出期限
【現行制度】
 期末から3カ月以内。
 四半期報告書は45日以内
  ↓
【緩和策】
 12、1、2月期決算企業は6月30日まで延期。(案)
 3月期決算企業の延期も検討

3. 有価証券報告書が提出できない場合
【現行制度】
 法定期限から1カ月たっても提出できないと原則上場廃止(東証の基準)
  ↓
【緩和策】
 当面、対象外(案)

4. 決算書監査の適正意見が得られない場合
【現行制度】
 原則上場廃止(東証の基準)
  ↓
【緩和策】
 当面、対象外(案)

 その他、損失額を確定できない場合は、わかる範囲でリスク情報の注記を加えるなどの対応策を検討しているようです。
 さらに、今後は混乱している金融市場の影響を受けて、金融商品の会計基準の変更について議論が必要になる可能性があるとしています。

 記事の内容は以上です。

 今回の災害で被害のある企業は、本当に大変な決算を迎えることになりますが、今後日本公認会計士協会(JICPA)などから発表される実務指針などには、注意しておくことが最も重要です。場合によっては、第一四半期の決算自体の免除なども盛り込まれてほしいところです。
 上記記事では、JICPAは月内にも実務指針を策定し公表するとしています。

 投資家は、早く情報を欲しいとは思っているでしょうが、不正確な情報であれば早くもらっても仕方ありません。
 今回のJICPAの動きは迅速で期待できそうです。

 具体的な決算対応としては、記事にあるように、注記での開示が中心になると思います。
 最近の決算作業は、ただでさえ過密スケジュールなので、今回の事象について、注記を含めて決算に取り込むのは、従来にない負荷がかかることが十分に予想されます。
 したがって、金額が確定していなくても、決算前に注記の文面を作成しておくなど、事前にできる工夫を検討しておくことは無駄にはならないでしょう。

 また、今回のような事態は、これまであまり発生していなかったため、従来に決算を前提にすると思いもつかない処理が必要になってきます。
 この辺をJICPAが実務指針でまとめるのだと思います。

 今回の件を先輩会計士と話をしている時に、「未決算勘定なんて最近見なかったけど、今回の決算では、多くの企業の財務諸表に表示されるかもしれないな」とい言葉がありました。

 「未決算勘定」というのは、火災、盗難があった場合などのように、金銭の収支を伴わない取引で、しかも発生した債権または債務の金額が未確定であるとき、一時的に処理しておく勘定のことです。
 その後、処理が確定した場合に、直ちに適切な勘定科目へ振り替えます。
 「仮払金」や「仮受金」との違いですが、「未決算勘定」は、金銭の収支が伴わず、しかも債権債務の金額が未確定である場合に一時的に処理される勘定科目なのですが、それに対して、「仮払金」や「仮受金」は、金銭の収支があるにもかかわらず、いかなる勘定で処理するかが未確定である場合に使用される勘定科目です。

 以下に例を示します。

【解説】
 火災により、保険会社へ保険金600千円を請求しても、実際に保険会社から支払われる保険金は、保険会社の査定が終わらなければ確定しません。
 したがって、保険金が確定するまでには、請求している保険金額の600千円に関係なく、未決算勘定で処理しておきます。

 以下は、保険金が確定した時の処理です。

 今回の災害での問題は、以下です。

  1. そもそも上記【災害発生時】での被害状況すら集計できない場合には、「未決算勘定」への振替すらできません。
     この場合には、災害にあったと想定される資産や負債の内容と金額の範囲(最大でいくら、最小でいくらなど)や、情報収集の限界などを注記するのだと思います。
  2. 上記【災害発生時】から【保険金確定時】までの間に決算期末(貸借対照表日)を迎えた場合には、資産勘定として、「未決算勘定」が計上されますが、その資産性を評価しなければならなくなる。検討の焦点は、保険金をいくらまで認めてもらえそうかというポイントだと思います。
     この評価ができないと、引当金計上ができないので、注記するしかなくなるのだと思います。
  3. 上記【災害発生時】から【保険金確定時】までの間に決算期末(貸借対照表日)を迎えたが、財務諸表の提出日までに【保険金が確定した】場合には、いわゆる「後発事象」として開示することになると思います。
     有価証券報告書の提出期限延長などが認められれば、後発事象の対象となる期間が延びるので、注意が必要になるでしょう。

 いずれにしても、冒頭ご紹介したように、今後月内に発表が予定されているJICPAの実務指針が待たれます。

本文は有限会社ナレッジネットワーク社ホームページの『カレントトピックス(災害時の開示)』に掲載された記事の転載となります。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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