更新日 2011.04.01

災害時の開示

第10回 法務省「定時株主総会の開催の延期」について

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公認会計士 中田 清穂TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

災害による決算発表や報告書の期限延長に関する解説や、決算短信や有価証券報告書での記載事例を解説します。

 今回は、3月25日に法務省が発表した「定時株主総会の開催時期について」について解説します。

 まず、法務省の発表を要約すると以下の通りです。
 要約の後で、簡単に解説します。

1. 今回の発表の主旨:
 東北関東大震災の影響で、定時株主総会を当初予定した時期に開催できない企業があるので、会社法の関連規定について整理すること。

2. 定時株主総会開催時期の原則規定:
 会社法第296条第1項は、株式会社の定時株主総会は、毎事業年度の終了後「一定の時期に招集しなければならないもの」と規定している。
 会社法上、事業年度の終了後「3か月以内」に必ず定時株主総会を招集しなければならないという規定はない。

3. 原則規定の中で対応可能であること:
 災害等の影響で、定時株主総会を当初予定した時期に開催できない場合には、その状況が解消され、開催できるタイミングで定時株主総会を開催することができる。
 これは、上記規定に違反することにはならない。

4. 議決権行使のための基準日を定める場合の注意事項:
 ただし、以下の事項については、注意が必要である。
 基準日株主が行使することができる権利は、当該基準日から3か月以内に行使するものに限られる(会社法第124条第2項)。
 したがって、「定款に定めた基準日」から3か月を経過して定時株主総会が開催する場合、「定款に定めた基準日」とは別に「議決権行使の基準日」を定めるためには、新たに定める「議決権行使の基準日」の2週間前までに、当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要がある(会社法第124条第3項本文)。

5. 定款に剰余金の配当の基準日を定めている場合の注意事項:
 さらに、以下の事項についても、注意が必要である。
 剰余金の配当について定款で定めた基準日(配当基準日)の株主に剰余金の配当をするためには、臨時株主総会を招集・開催して、「配当基準日から3か月以内の日を効力発生日とする剰余金の配当に係る決議」(会社法第454条第1項等)をする必要がある。

 以上をまとめると、以下のようになります。

  1. 定時株主総会を開催するのは3か月以内でなければならない規定は、原則としても存在しない。
  2. その代わり、定款で定めた基準日(通常決算期末日)の株主が、3か月を超えて開催する定時株主総会で権利を行使するためには、別途基準日を設定する必要がある。
    別途基準日を設定するための公告が必要となる。
    別途基準日を設定するための公告は、別途定める基準日の2週間前までにする必要がある。
  3. また、定款の基準日(通常決算期末日)の株主に配当をするために、臨時株主総会を開催する必要がある。
    臨時株主総会では、「効力発生日」(実質的には配当の支払開始日)を、配当基準日から3か月以内のいつにするかについて、決議する必要があります。

 実務的には、大震災の影響で、定時株主総会を開催できない理由が「開催場所が確保できない」などということだったりすると、③の臨時株主総会も開催困難なので、問題が残るケースがあると思います。
 ただ、決算・開示業務としては、定時株主総会で計算書類を提出する必要がありますが、定時株主総会の開催を延期できれば、会社法上の計算書類を作成する決算スケジュールにも多少の余裕ができるので、非常に重要なポイントだと思います。

 法務省のお知らせは、以下のURLでご確認ください。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/saigai0011.html

本文は有限会社ナレッジネットワーク社ホームページの『カレントトピックス(災害時の開示)』に掲載された記事の転載となります。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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