「包括利益」の論点整理

第2回 「包括利益」は「重要な指標」か

更新日 2011.03.22

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公認会計士 中田 清穂
TKCシステム・コンサルタント

公認会計士 中田 清穂

2011年3月期から適用になる「包括利益基準」で作成する財務諸表そのものが変わります。このコラムでは、「包括利益」について、形式的な実務対応よりも、本質的に理解し納得できるようになるための解説をします。

1.「包括利益」が重要になると言われる理由

 IFRS関連の書籍や論文では、IFRSベースの財務諸表を作成するようになると、「当期純利益」よりも「包括利益」の方が重要な指標になると書かれています。

 書籍によっては「包括利益経営」などという言葉まで飛び出しています。

 その根拠はどこにあるのでしょうか。

 それは、IFRSベースの損益及び包括利益計算書の最終行が「包括利益」だからです。

 日本人の感覚からすると、従来作成してきた「損益計算書」の最終行は「当期純利益」だったので、「当期純利益」が重要な指標だという感覚がありました。文字通り「当期」の「利益」ですから、その期にいくら儲かったのかを知る上で重要だったのです。

 ここから、日本人の感覚として、「損益計算書」の最終行は、重要な指標だという感覚にもなっています。最後に表示されるので、目立つことは事実です。そして、「重要だから目立つところに表示するのだ」という考えになるのです。

2.IFRSの概念フレームワークにおける「包括利益」の取扱い

 前回のコラムで、「IFRSの基本概念の影響を受けて会計実務を行わざるを得ない状況になってしまっている」という解説をしました。

 ASBJの「財務会計の概念フレームワーク」は正式な承認プロセスを経ていないのですが、IASBは「財務報告のための概念フレームワーク」(以下、IASB概念フレームワークと言います。旧称は『財務諸表の作成及び表示に関するフレームワーク』)を1989年に正式に承認し、このIASBフレームワークを「IFRSの作成方針」として位置づけています。

 それでは、IASB概念フレームワークでは、「包括利益」はどのように説明されているでしょうか。

 実は、IASB概念フレームワークには、「包括利益」という用語や言葉はどこにもでてきません。

 IASB概念フレームワークでの「利益」は、「収益」から「費用」を控除して計算されます。その「収益」と「費用」は、「資産」や「負債」の増加や減少があって初めて計上(認識)されます。IFRSが「資産・負債アプローチ」と言われる所以ですね。

 そうすると、「IFRSでの利益」は、「資産」や「負債」の期首から期末までの変動でしかないことになります。

 あえて別の言い方をすると、「その期に発生した収益」から「その収益に対応する費用」を控除して利益を計算して、その結果資産や負債が変動するのではない、ということです。IASB概念フレームワークには、「費用収益対応の原則」がないのです。

 それでは、IASB概念フレームワークでは、「利益」は重要な指標ではないのでしょうか。

 そうではありません。重要なのは、「利益」を何のために利用するのか、その目的です。

 IASB概念フレームワークでは、「利益」すなわち企業の業績は、過去保有していた資産を利用した結果得られたものですから、この「過去の実績」に基づいて、「将来のキャッシュ・インフローを獲得する能力」を予測する上で、一つの重要な指標になるという解説があります。つまり、「利益」を報告(開示)する目的は、「将来のキャッシュ・インフローを獲得する能力」を予測するためなのです。

 経営成績として、経営責任を遂行した結果を表示することが主目的ではないのです。

3.IFRSの概念フレームワークで重要な「利益」とは何か

 「将来のキャッシュ・インフローを獲得する能力」を予測するためには、「利益」をどのように獲得したかを知ることが大切です。したがって、「営業活動で得た利益」なのか、「投資活動で得た利益」なのかや、経営努力とは無関係の「市場価格」や「利子率」の変化で得た利益なのかを区別した利益、つまり各種の「区分利益」こそが、重要なのです。最終行だからといって、最も重要だということではないのです。

 「包括利益基準」第22項でも、「包括利益を企業活動に関する最も重要な指標として位置づけることを意味するものではない」と明記されている意味を正しく理解して欲しいと思います。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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