更新日 2011.02.14

連結納税制度への対応のポイント

第7回 組織再編と連結納税制度(2/2)

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税理士・公認会計士 中野伸也 TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
税理士・公認会計士 中野伸也
連結納税制度適用の有利・不利判定や、連結納税の承認の申請書の書き方から、連結納税制度適用後の組織再編、子法人のフォローアップ、また、電子申告の実践、タックスプランニングの実行にいたるまで、連結納税制度への対応ポイントを解説します。

3.連結納税開始後のグループ内組織再編

ここでは連結納税グループ内での組織再編について考えてみます。

問題は、次の4点です。

(1) 合併前事業年度に生じた欠損金
(2) 繰越欠損金の引継ぎ
(3) 譲渡損益調整資産の繰延べ譲渡損益の認識
(4) 投資簿価修正の有無

(1) 合併前事業年度に生じた欠損金

連結子法人を被合併法人とする連結納税グループ内での合併が期の途中であった場合、その被合併法人は事業年度開始の日から合併の日の前日までをみなし事業年度として、連結納税の下での単体申告を行います。このみなし事業年度において欠損金が生じたときは、その欠損金の額はその合併の日の属する連結事業年度の損金の額に算入します(法法81の9④)。つまり、その合併の適格、非適格に関係なく合併法人の損金の額に算入され、被合併法人の繰越欠損金として合併法人が引き継ぐ欠損金には該当しないということです。

(2) 繰越欠損金の引継ぎ(グループ内法人同士の適格合併等)

連結納税グループ内の組織再編では、合併等の対価として金銭等が支払われない限り適格再編に該当します。適格合併等であれば、①被合併法人の連結欠損金個別帰属額は合併法人が引き継ぎます(法法81の9⑤一カッコ書き)。②繰延譲渡損益もそのまま引き継ぎます(法法61の13⑥)。③投資簿価修正も不要です(法令9②)。

繰越欠損金の引継ぎについては、当然ですが5年間の継続支配要件が働きます。しかし、連結納税開始又は加入時にそれに該当する場合は、その時点で切捨てられています。したがって法人税のほうで問題になることはないでしょうが、事業税の所得計算では連結納税開始時に欠損金は切捨てられていないので、ここで継続支配要件により欠損金の切捨てが生ずる場合もあります(地法72の23①③)。

(3) 譲渡損益調整資産の繰延べ譲渡損益の認識
(グループ内法人同士の非適格合併等)

グループ内法人での非適格合併等とは、合併等の対価として部分的にでも金銭等が支払われる場合です。

この場合は適格の場合と逆で、①被合併法人の繰越欠損金は合併法人に引き継がれません(法法81の9⑤一)。②繰延べ譲渡損益調整に残高があればこれを損金又は益金の額に算入します(法法61の13③)。③投資簿価修正も行わなければなりません(法令9②一)。

注意しなければならないのは、前回指摘しましたように、22年度改正で非適格再編であっても譲渡損益調整資産に該当する資産については簿価で引き継ぐこと(法法61の13⑦)となっていて、譲渡損益を計上しないことです。前回のコラムでも言及したように、会計上はグループ内の組織再編での資産、負債は全て適正な簿価により引継ぐこととされていますが、税務上は譲渡損益調整資産以外の資産については、時価で引き継ぐことになっています。そのため、税務調整がやや複雑になっています。これについては、国税庁の「平成22年度税制改正に係る質疑応答事例(グループ法人税制関係)」の問9に詳細な解説があります。(国税庁ホームページ:平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)

被合併会社に繰延べられてきた譲渡損益調整勘定がある場合、最後事業年度の所得の計算上その譲渡損益調整勘定の残高を益金の額または損金の額に算入します。消滅被合併会社に対する資産譲渡による譲渡損益調整勘定を有するグループ各会社は、合併の日の前日の属する事業年度における所得の計算上、譲渡損益調整勘定の残高を益金の額または損金の額に算入します。

次に投資簿価修正です。グループ内で合併時に金銭等の支払いがあった場合は、資本等の金額を超える部分は配当とみなされることになります(法法の24①)。この場合みなし配当により利益積立金は旧株主会社に移転することになり、結果として投資簿価修正は不要になります。合併交付金が資本等の金額より小さい場合は、それに見合う投資簿価修正が行われることになります。

(4) 投資簿価修正の有無(連結子法人株式をグループ内に譲渡した場合)

グループ内の再編として、このほかにグループ内のA社が所有する連結子法人S社の株式をグループ内のB社に譲渡するといった場合もあります。この場合、A社はS社の帳簿価額を修正(投資簿価修正)したうえで、修正後の譲渡原価対応簿価が1千万円以上であれば譲渡損益調整資産に該当するので、その譲渡損益を繰延べる調整を行う必要があります。

4.連結納税グループ外との組織再編

連結納税開始後に親法人が被合併法人となる合併を行った場合は、その連結納税グループは消滅します。また、その連結子法人の株式がグループ外の株主に交付されるような組織再編であれば、その子法人は連結納税グループから離脱します。

(1) 親法人が被合併法人となった場合

親法人が被合併法人となった場合、その親法人の下での連結納税の承認が取消されたとみなされます。したがって、親法人を吸収した合併法人が連結納税を採用していない限り全ての子法人は単体納税へ移行し、各法人の投資簿価修正が必要になります。

合併法人が連結納税を採用している場合は、そのまま他の連結納税グループに加入することになります。この場合に適格合併であれば、原則として、それまでの関係に特に変化はありません。合併の前日を事業年度末として従前の連結納税グループとしての申告を行った後に、新たな連結納税グループの子会社としての地位を得ることになります。非適格合併である場合には、合併前の申告で資産の時価評価が必要になります。

(2) 子法人がグループ外の会社との再編により離脱する場合

連結子法人がグループ外の法人を吸収合併した場合において、グループ外の被合併法人の株主に合併新株を交付した場合は、連結親法人の100%子会社ではなくなるので、連結納税グループから離脱します。株式の売却による離脱と同様の処理になります。合併法人自体の処理は単体の場合と変わりませんが、連結事業年度開始の日から合併の日の前日までを1事業年度とみなして、連結納税下の単体申告が必要であり、その注意点については第5回で述べたところです。

ここでは、投資簿価修正について確認しておきます。投資簿価修正は原則として、連結納税加入時の利益積立金と簿価修正事由発生時の利益積立金とを比較し、その増減額をもって帳簿価額の修正額とします。また、対象となった子法人の下に連結グループ内の子法人がつながっていれば、その一番下から順次、上方向に帳簿価額の修正を行っていきます。図の場合は、C社の簿価修正後にその修正額も含めてB社の簿価を修正します。

図

以上のように、連結納税の下での組織再編は考慮すべき事項が多く、ちょっとした違いが所得金額に大きな影響を与えます。充分に検討しなければならないところです。

筆者紹介(中野伸也)

税理士・公認会計士 中野伸也(なかの しんや)

TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
TKC連結納税システム推進プロジェクト会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員長

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中野会計事務所

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