「遡及処理基準」の論点整理

第4回 原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い

更新日 2011.02.07

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公認会計士 中田 清穂 TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
いよいよ2011年4月以降に変更する会計処理や誤謬について、「遡及処理基準」が適用されます。従来の日本の会計慣行にはなかった考え方も多く、その論点さえ十分に整理されていない企業も多いようです。このコラムでは、「遡及処理基準」の重要な論点を整理し、解説します。

「遡及基準」では、
(1)会計方針の変更
(2)表示方法の変更
(3)会計上の見積りの変更
(4)誤謬の訂正
上記の4項目について、過年度の遡及処理を整理しています。

「(1)会計方針の変更」の場合には、過去の期間の「すべてに」遡及適用することが原則です(第6項)。「(2)表示方法の変更」の場合には、表示する過去の財務諸表について遡及適用することが原則です(第14項)。

「(4)誤謬の訂正」の場合には、「表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映」し、「表示する過去の各期間の財務諸表に、当該各期間の影響額を反映」する必要があります。

しかし、実務上は「過去の期間のすべてに遡及」することが困難だったり、「比較財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額」を修正することができないことが十分に考えられます。

そこで、「遡及基準」では、「原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い」が明記されています。

「原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い」が明記されているのは、「(1)会計方針の変更」と「(2)表示方法の変更」のケースだけです。

「(3)会計上の見積りの変更」のケースは、そもそも遡及処理が必要ないので、「原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い」の記載がありません。

「(4)誤謬の訂正」に「原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い」の記載がないのは気になりますが、この話は後で触れます。

「(1)会計方針の変更」と「(2)表示方法の変更」のケースで、「原則的な取扱いが実務上不可能な場合」には、どのようなケースがあるかというと、「遡及基準」第8項に以下のような記載があります。「(2)表示方法の変更」の場合も同様です(第15項)。

  1. 過去の情報が収集・保存されておらず、遡及適用による影響額を算定できない場合
  2. 遡及適用にあたり、過去における経営者の意図について仮定することが必要な場合
  3. 遡及適用にあたり、会計上の見積りを必要とするときに、会計事象等が発生した時点の状況に関する情報について、対象となる過去の財務諸表が作成された時点で入手可能であったものと、その後判明したものとに、客観的に区別することができない場合
  1. 過去の情報が収集・保存されておらず、遡及適用による影響額を算定できない場合
    あまりにも古い決算期の会計帳簿については、すでに法定保管期間を経過して、物理的に保存されていないとか、当時はまだ古い会計基準のために、必要な情報しか親会社社内や子会社から収集しておらず、いまさら最新の会計基準に必要な情報を過去の決算期の分まで収集することができないようなケースです。このようなケースでは、遡及する必要はありません。
  2. 遡及適用にあたり、過去における経営者の意図について仮定することが必要な場合
    最新の会計基準では毎期末における経営者の意図を明確にする必要があるが、過去の決算期の時点で、どのような意図だったのかを仮定することができないようなケースです。金融商品の保有目的や有形固定資産の利用目的などが考えられます。このようなケースも、遡及する必要はありません。
  3. 遡及適用にあたり、会計上の見積りを必要とするときに、会計事象等が発生した時点の状況に関する情報について、対象となる過去の財務諸表が作成された時点で入手可能であったものと、その後判明したものとに、客観的に区別することができない場合
    最新の会計基準では毎期末において、見積もりや予測が必要になるが、過去の決算期の時点でも見積もりのための情報が必要だったにもかかわらず、今入手できるものが、その当時においても入手可能だったかどうかを区別できないケースです。繰延税金資産の回収可能性について、その後課税所得に予想とは別の変動があり、その変動を過去の決算期に予測するための情報があったかもしれないが、その当時に入手できたかどうかが定かでないようなケースが考えられます。このようなケースも、遡及する必要はありません。

以上のように、原則処理ができない場合には、「できるだけ」過去に遡って適用することになります(第9項)。

誤謬については、「遡及基準」の結論の背景(第66項及び第67項)に検討過程の記載がありますが、結局、基準本文には明記されてはいないものの、「(1)会計方針の変更」及び「(2)表示方法の変更」と同様の取り扱いになります。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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